団塊の世代が85歳以上となり、国民の多くが介護に直面する「2035年問題」が迫る今、介護の現場や家族を取り巻く環境は急速に厳しさを増しています。

「親の介護は、まずまじめにやらないことから始めなさい」

そう語るのは、長年、介護と医療を中心とした社会保障政策を研究し続けている淑徳大学の結城康博教授です。真面目な人ほど陥りがちな「介護の罠」、そして長大な介護生活を賢く乗り切るためのリアルな処方箋を伺いました。

1. まずは「まじめにやらない」。長続きするケアラーになるための4つの鉄則

親や配偶者の介護は、とかく長くなる傾向があります。50代、60代で親の介護に直面したとき、多くの人は「自分がしっかりしなくては」「ちゃんとした介護をしなければ」という使命感や義務感に縛られてしまいがち。しかし、結城教授はその前提を真っ向から否定します。

「80代の配偶者どうし、あるいは50〜70代の子ども世代が介護をする場合、とにかくまじめにやらないこと。これが長続きする最大の秘訣です。例えば、毎回きれいに着替えさせなくていい。家にいるときは、服が2日くらいそのままだっていいわけです。毎回寝間着に着替えさせたり、ベッドの周りを几帳面に掃除したりしていると、絶対に長続きしません」

介護を長続きさせるためのポイントは、大きく分けて4つあるといいます。

1. まじめにやらない、手抜きをする
命に別状がなく、そこそこ衛生的な状態が保たれていれば、細かなこだわりは捨てる。

2.自分の時間を最優先し、他人に頼る
「情があるから」「何かしてあげなきゃ」と思いがちだが、遠慮は無用。デイサービスやショートステイを利用し、家の中でも「寝かせておいて自分はテレビを1〜2時間観る」など、自分の時間を絶対に確保する。

3. 同じ境遇のコミュニティに一歩踏み出す
認知症カフェやオンラインの集いなど、家族介護者どうしの輪に入り、「自分はひとりじゃない」と知る。

4.「もう無理」と思ったら、高齢者住宅や施設を躊躇なく選択する
施設は「親を捨てる場所」ではない。施設に入れたあとも、週に1回面会に行く、食事介助をするなど、自分なりの関わり方を続けることができる。

「この4つのポイントに共通しているのは、まずはケアラー自身を大事にするということです。ケアラー自身がすり減ってしまっては、いい介護なんてできるわけがありません」


結城康博教授

2. 介護離職は「絶対にしない」。職場への“謙虚な告白”

仕事と介護の両立において、最も避けるべきなのが「介護離職」と主張する結城教授。親の介護のために仕事を辞めたり、正社員から契約社員へセーブしたりする人が後を絶ちませんが、結城教授は「仕事優先のスタンスを崩してはいけない」と強調します。

「介護離職するのではなく、自分の仕事を優先すると決めてください。そのためには、もし介護が必要になったら、早い段階で職場に素直に、そして謙虚に伝えることです」

50〜60代で介護に直面する層は、職場では管理職クラスが多くなります。プライドや気恥ずかしさから「介護をしている」と言えず、一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、それが結果的にバーンアウトや離職を招くのです。

「部下にも『申し訳ないけどうちは介護があるんで、場合によっては助けてほしい』と遠慮なく、でも頭を下げて謙虚に言う。そうすれば、周りの職場も必ず助けてくれます。大体、介護離職になる人は職場に何も言わない人たちです。地域包括支援センターやケアマネジャーも巻き込みながら、仕事を続けられる体制を自分でつくってゆくことが大切です」

3. 介護の苦しさの正体は、「自分の中の敵」

介護をしている時の負担感は、昼夜逆転や仕事との両立といった「外的な大変さ」だけではありません。結城教授が数多くの当事者などにヒアリングを重ねる中で見出したのが、私たちが無意識に抱えてしまう「自分の中の敵」の存在だといいます。

「仕事や家族のことで悩むとき、自分は何を不安に思い、どんな思い込みをしているのか。その正体は実は、自分の心の中の敵であるわけです。その敵が『この先どうなるんだ』『もうダメだ』とだんだん自分を不安にさせ、墓穴を掘らせていく。これが介護うつ、最悪の場合は介護殺人、そして介護離職に至るなどの誤った選択をする原因になります」

この心理構造は、映画化もされた筒井康隆氏の小説『敵』(*)の主人公と非常に似ているといいます。


結城康博教授

「仲間づくりが上手い女性に比べ、男性介護者は特に、まじめにやろうとして自分の内側にこもり、『自分の中の敵』をつくりやすい傾向があります。だからこそ、コミュニティに入って同じ境遇の人に話を聴いてもらうことが重要なんです。人と話し、輪に入り、自分はひとりじゃないと知ることで、心の中の敵を抑え込むことができる。敵をうまく抑え込めた人は、どんなに重度な認知症の親の介護をしていても、それをエンパワーメントに変えて乗り切っていけるのです」

*『敵』は、筒井康隆の小説を元にした2025年公開の日本映画(主演は長塚京三、瀧内公美、河合優実。監督は吉田大八)。老境に入った元大学教授が、妄想や老いへの恐怖に飲み込まれていくというストーリー

4. 失敗しない「介護施設の選び方6か条」と個室の落とし穴

在宅介護がいよいよ限界を迎えたとき、次の大きな選択肢となるのが介護施設です。その際、入居する本人や家族の状況に応じた施設選びが重要になります。そのための「介護施設選びの6か条」をお聞きしました。

1.地域に開かれた施設か
ボランティアや地域住民の出入りが活発な施設は「見られても構わない」という質の高さの証拠。

2.介護職員の離職率が低いか
働きやすい環境の施設は、サービスの質も安定している。

3.人員配置基準が手厚いか
法定ギリギリの配置は労働環境が悪く、サービスの質低下を招く。

4. 有資格者の状況をチェックする
介護福祉士などの国家資格保持者がどれだけいるかを確認する。

5.職員の研修実態があるか
認知症ケアの技術向上などに積極的に取り組んでいるか。

6.建物の良し悪しで判断しない
新しさや豪華さに惑わされないこと。

また、施設の「部屋のタイプ」についても、現実的な視点が必要だといいます。

「経済的に余裕があれば個室が良いと思われがちですが、寝たきりや認知症が進行した状態になると、個室よりも4人部屋などの相部屋の方が、周りの気配を感じられて落ち着くというケースもあります。要介護度や本人の状態に合わせて柔軟に考えるべきです。そして、施設に入ったらそれで終わりではなく、週に1回程度など、無理のない範囲で面会に行き、食事介助をするなど自分なりの関わり方を続ける。その適度な距離感が、介護離職を防ぐコツです」

5. 2035年「介護有事」の現実。選ばれる利用者・家族になるために

団塊の世代が全員85歳以上となる2035年に向け、日本の介護現場は人手不足という構造的な危機を迎えています。訪問介護のヘルパー不足は深刻で、新規の依頼を断られるケースも増えています。

「これからは、『介護保険料を払っているんだからサービスを受けられて当たり前』という時代ではありません。介護保険サービスは福祉ではなく『契約』であり、深刻な人手不足の中では、利用者が選ばれる側になっていきます」

それでは、私たちはどのような心構えやふるまいが必要になるのでしょう。結城教授は、私たちがこれから直面する厳しい現実と、生き残るための心構えをこう締めくくりました。

「介護サービスを受ける際、『やってもらって当たり前』という態度の人は、これからは見捨てられていきます。一方で、介護職員などのスタッフに対しても謙虚に接し、周囲から支えられる『支え上手』な人、性格のいい人だけが、しっかりと介護サービスを受けて安心して死んでいける『勝ち組』になれる。人は急には変われないので、50代くらいからこうした意識を心がけることが大事です。そして、介護を特別な誰かの問題ではなく、これからの時代のインフラとして捉えること。市民一人ひとりが関心をもち、社会の仕組みを変えていく行動をとることが求められているのです」

そういった、一人ひとりの意識改革のために必要なことを伺うと。

「だからこういった媒体ががんばってやるしかないんですよ。政治の場で『有事』について議論されていますが、一般市民にとっては『介護有事』の方が重要なんです。なぜならそれは100%やってくるから。道路に投資するなら、その分ヘルパーを増やすなど、介護資源に費やす方が重要。でも、未だに道路は作られています。市民がそういうところをだめだ、って思えるようにならない限り、介護崩壊は間違いない。僕が思うのは、もちろん政治の問題ではあるんだけれど、最後は市民の問題だと思っています」

6. 民間企業と「MySCUE」に寄せる期待──暮らしと地続きの新しい介護のかたち

硬直化する社会保障制度や深刻な人手不足が叫ばれる中、結城教授が今後の可能性として大きな期待を寄せるものの一つが、社会福祉法人とは異なるアプローチを持つ「民間企業」の力です。

「民間企業は社会福祉法人に比べて動きやすく、ビジネスモデルを活かした多様なサービスを発掘できるメリットがあります。例えば、イオンの中にデイサービスがあり、デイサービスに行きながら同時に買い物もできるという仕組み(*)は素晴らしい例です。 『買い物難民』という言葉があるように、足がなくて困っている高齢者は多い。車いすの方であっても、ショッピングセンターの中の一角にデイサービスがあることで、安全に買い物をして帰ってくることができる。こうしたユニークで生活に根差した多様なサービスは、まさに民間ならではの発想だと思います」


結城康博教授

人口減少社会が進み、既存の福祉の枠組みだけでは支えきれなくなるこれからの時代。MySCUEが目指すような、多角的な視点からシニアの暮らしや介護を支えるプラットフォームには、介護の重要性を伝え続けてゆくことやそれを超えた、「民間ならではの新しい選択肢やコラボレーション」を提示していくことが求められているのではないでしょうか。また、自分の暮らしやキャリア、そして親のケアを諦めないためのヒントは、こうした新しい民間の試みの中にも確実に芽生えているのだという気づきをもたせてくれる取材でした。



*イオングループが運営する半日型のデイサービス「イオンスマイル」では、多くの店舗がイオンの店舗内やその付近にあり、そのほとんどでリハビリの一環として「買い物リハビリ」を行っています(一部実施していない店舗もあり)


結城康博(ゆうき・やすひろ)…1969年生まれ。淑徳大学総合福祉学部教授。法政大学大学院博士課程修了(政治学)。地域包括支援センター(社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士)および民間居宅介護支援事業所勤務ののち、現職。著書に、『介護職がいなくなる──ケアの現場で何が起きているのか』(岩波ブックレット)、『介護 現場からの検証』『介護格差』(岩波新書)、『自分の介護』(風鳴舎)、『わかりやすい社会保障制度 改訂版──はじめて福祉に携わる人へ』(※共著。ぎょうせい)など。最新刊は『介護職ゼロ時代がやってくる!「介護の社会化」はどこへ行った』(岩波ブックレット)。


『自分の介護』書影『介護職ゼロ時代がやってくる!「介護の社会化」はどこへ行った』書影

写真:清水純一

この記事の提供元
Author Image

著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

この著者のこれまでの記事

【重要】iAEONシステムメンテナンスに伴うサービスの一時利用制限について

2026年10月2日

【イオンスマイル久居店】10月1日オープン!買い物リハビリと機能訓練で支えるシニアの暮らし

2026年9月18日

関連記事

骨粗しょう症を防いで介護予防!運動と食事のポイント|理学療法士が解説

2026年2月13日

親の介護をする前に知っておきたかった12のこと【その5とその6】

2023年10月11日

Temp C item

MySCUEで できること 使い方

Temp C item

記事一覧 記事

Temp C item

相談・質問

Temp C item

SCUER ブログ ブログ

Temp C item

コミュニティ

お買い物

お買い物

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする