1. できることなら考えたくない親の介護
「親はまだまだ元気。いずれ介護が必要になるかもしれないけど、今は仕事も家事も育児も忙しいから、次のお盆、いや正月に会いに行けばいいや!」
めちゃくちゃ分かります、親の介護から目を背けたくなる気持ち。できることなら逃れたいし、不安にもなるからあまり考えたくないですよね?
東日本大震災直後の2011年、母のもの忘れが気になると岩手に居る妹から連絡をもらったものの、わたしは転職して1年も経っていない会社の仕事が忙しくて、「介護」の文字がチラチラ見え隠れしていたのに、見ないふりをして仕事を優先していました。
そうしたら1年後に、祖母と母のダブル遠距離介護がスタート。青天の霹靂って、こういう時に使うべき言葉なんだと思ったものです。いつかは親の介護がやってくるかもしれない、きっと自分が50歳を過ぎた頃だろうと思っていたら、10年も早いまさかの40歳でのスタートでした。
実際に介護が始まってみると、事前に準備をしていたほうが介護初期のパニックは回避できると分かります。どこに相談をして誰を頼るのか、準備していれば落ち着いて行動できます。
わたしは何の準備もせず介護を始めて後悔したので、これから介護が始まる人には同じ思いはしてほしくないと思っていました。
その思いを自分のブログや講演会を通じて発信したところ、読者や参加者から予想していなかった反応が返ってきたのです。
2. 親の介護の準備なんてやる気にならない!
介護は情報戦とよく言われます。事前に情報をたくさん持っている人のほうが介護はラクになります。
ところが親が元気なうちから介護の本を読んだり、認知症の講演会に参加したりする人はごくごく少数です。なぜ少数と分かるのか?
わたしの講演会の参加者と話したりアンケートを取ったりする機会があって、そのデータを見ると介護の準備のために参加した人の割合はだいたい5%くらいでした。一方で親が認知症になってしまった、緊急入院してしまったと狼狽している方は多く見かけました。
大手企業に勤める49歳男性の前で、自分の介護について講演したときも「工藤さんの言っていることはよく分かる。でもどうしても今は自分事には思えない」と言われました。
「それは親が元気だから、想像できないってこと? それとも妻に介護をお願いするつもり?」たくさんの疑問が頭に浮かびましたが、そのまま声に出すと失礼にあたるので「そうですか」としか返答しませんでした。
多くの人は急にやってきた介護に対して、ロールプレイイングゲームのように経験を積み重ねて、少しずつレベルアップしていきます。
何も行動しないまま親の介護への不安をくすぶらせている方が多いので、わたしの講演会では着火剤を用意して、参加した人の気持ちに火をつけて準備してもらうよう促しています。
3. 認知症の祖母は自分の銀行口座のありかを忘れてしまった!
皆さんは親が自分で介護費用を準備しているか、知っていますか? あるいは一度でいいから質問した経験はありますか?
元気な親に対して、そんな質問はできない、縁起でもないと思っているかもしれません。しかし親が急に倒れて動けない、あるいは意思疎通が難しい状態になってしまうと、気軽に質問できなくなります。
わたしが89歳の祖母の介護を始めたとき、認知症は重度まで進行していました。しかも子宮頸がんで入院したため、手術費用がすぐに必要になりました。
ところが祖母は銀行口座のありかも、財産の総額も忘れてしまっていました。子宮頸がんってどれくらいお金がかかるの? 入院の期間は? 介護費用は? 母も祖母のお金の手掛かりを持っていなかったので、孫のわたしの貯金で賄うことにしたのです。
6か月の余命宣告を受けていたとはいえ、介護がいつまで続くのか分かりません。1日も早く祖母のお金を見つけて、回収せねば! わたしが向かった先は、まさかの家庭裁判所でした。
4. 家族だからといって祖母のお金はおろせない
いくら家族だからといって、銀行に行って認知症の祖母のお金を引き出そうとしても認めてもらえません。成年後見制度を利用しないと、おばあさんのお金はおろせませんと言われてしまいます。
祖母の病院内にあった医療相談室でこの制度について聞いたので、わたしは病院のそばにあった家庭裁判所にアポなしで飛び込みました。
制度の説明を受け後見人の手続きを行ったわたしは、数か月後に晴れて成年後見人となり、実家の近くにあった銀行を片っ端から訪問。祖母の口座をすべてつきとめて、預金の回収に成功したのです。
いくら介護の準備をしていても、肝心のお金についてきちんと把握していないと意味がないと思えた瞬間でした。だから親が元気なうちに、「自分の介護費用はちゃんと準備できている?」と一言聞いてほしいのです。縁起でもないと言われてもです。わたしのように家庭裁判所に行かないためにも。
仮に教えてもらえなかったとしても、親にエンディングノートを渡して、いざという時のために財産状況や保険、望む介護の方針を書き残しておいてほしいと伝えましょう。エンディングノートの書き方については、別の記事で詳しく取り上げる予定です。