いつかくる介護生活に向けて今からできることって? どうすればお互いに笑顔で過ごせる? 後期高齢者となった両親と同居する、50代の独身フリーランス女子によるプレ介護な日常のあれこれを、5回にわたって綴ります。
第3回はこちらから

1. プランニング、そして準備こそシニア旅の一大イベント!

すでに退職し、リタイア生活を送っている高齢者にとって、コロナ禍での一番の弊害は旅に行けなくなったことだろう。旅どころかちょっとした外出、日用品の買い出しさえ、はばかられる時期もあった。正直、歩く機会がなかったことで筋力が落ち、両親はがくんと体力がなくなったような気がする。今、再び旅をしやすい状況となり、私は心からホッとしている。
 
シニア世代にとって旅は、心にとっても体にとってもなによりの刺激。そして旅行の予定を考えたり、その土地のことを調べて準備するときこそ、気分は盛り上がる。父も時刻表(今どき!)で調べているときが一番、生き生きしている気がする。最近の晩酌では、旅行会社から届くツアーカタログが良いつまみになっているようだ。いつもあれやこれやとページをめくりながら、ビールを飲んでいる。
母は母で、旅行の予定が決まると、いつもよりさらに歩数を気にする。今日は何千歩歩いた、何万歩を達成した、と自慢している。旅に備えた、彼女なりの体力トレーニングなのだろう。ストレッチをする姿も頻繁に見た。このように目的があると、人間は俄然、はりきるものだ。歩きやすい軽い靴を選んだり、リュックにもなるナイロン製トートを好んで使ったり、旅するその日を目標として、アクティブな自分になろうとしているのが見てとれる。
コロナ禍の緊急事態宣言下で、家に閉じこもるしかなく、しゅんとなっている期間を一緒に過ごした自分は、旅のプランを練ってわくわくしている二人を見ているだけでうれしくなる。

2. シニアの日常にこそやる気を引き出す「きっかけ」が必要

旅する自分をイメージして、現実の自分をそれに近づけていく。これぞシニア旅の醍醐味! 旅でこれを着よう、これを持っていこうと思うと、思い切った買い物もできるだろう。未来を考えるとモチベーションもアップする。元気なうちは、無理をしてでも数か月に一度、定期的に旅を企画してほしい。それが若さを保つ秘訣ではないかと思う。旅の予定がある、それだけでやる気と元気が湧いてくるものだ。
Go Toトラベルのキャンペーンでは、うちの両親もはりきって旅を計画していた。お得に宿泊できるのはうれしいが、なによりも国から旅行してもOKというお墨付きをもらったという安心感から旅欲が高まったのかもしれない。日本全国が停滞していたこの数年間、苦しんでいた観光業界を応援するぞ、という大義名分もあっただろう。賛否両論のこのキャンペーンだったが、失われた時間を取り戻そうとするかのように、旅行熱が高まっていた。どこへ行こうと妄想するだけで、5、6歳の若返り効果があったのではないだろうか。

3. 親も子も、お互いに気が楽な「出張のついで旅」のすすめ

私も同様だ。旅はアンチエイジングに効く。次はどこに行こうか、あれこれ妄想するときが一番、楽しいし、旅の予定があるとそこを目指して予定を調整する。体調だってその日に向けて整えていこうと思うし、それまでに仕事をなんとか片付けようと気合が入る。
地方出張に行くときは、せっかくなので、できる限り長く滞在し、ときには自腹で延泊して「研修旅行」と称して旅気分を味わう。実はそんなときが一番、取材を上回るいい旅情報に出合えたりもするものなのだ。そんな出張の「ついで旅」に、いつしか親を誘うようになった。まだまだ元気な両親は、二人で旅することもできるが、パック旅行のほうが気楽なようだ。今は切符と宿だけを手配してくれる手頃なツアーもあるので、知らぬ間にひょいと申し込んで、出かけていく。何度か訪れたことがある観光地なので、こちらも安心だ。
けれどもたまには初めての土地を訪れ、宿以外のところで夕食を楽しむような自由旅行にも挑戦してほしいと私は思っている。そんなとき、現地集合にして「出張のついで旅」に誘う。すでに自分は仕事を終えているので緊張も解けているし、街にもなじむころだ。仕事の「ついで観光」なので、親たちが行きたいところを優先し、ガイド役に徹しても苦にならない。復路は一緒なので、多少、ハードな行程になってもサポートできる。

4. 「出張のついで旅」は言い訳しやすい状況をつくってくれる!

また、両親にとっては、日ごろばたばたと動いている私が、そのために時間をつくった親子旅行ではなく、仕事ついでの旅なので甘えやすいようだ。これも時間の融通が利きやすいフリーランスだからこそ。日本のどこにいてもほぼWi-Fiがつながり、オンラインでのやりとりや会議など、リモートワークが一般的になった今、どこでも通常業務ができるようになったことも大きい。
 また行き先、日程がそこしかない、という選択肢のなさも背中を押す。ほうっておくと「どこかに行こう」というだけで、いっこうに行き先が決まらない。日程も「この時期は暑い」「この週は雨が降りそうだ」とあれこれ言いだし、なかなか決まらない。「出張のついで旅」の場合、行き先も日程も限定されるから、そこに合わせるようになる。これは言い訳ができない。
 時間に余裕があり、いつでも行けるからこそ、ある程度の強制力があり、NOと言えない。これはいい。

5. プレ介護世代の究極の「ついで旅」は墓参りの寄り道

さらにおすすめなのは墓参りの「ついで旅」だ。墓参りこそ究極の、その地に行かなくてはいけない理由。うちには高尾にある家族の墓と、岡山の津山にある一族の墓、母方の京都の東山にある墓があるのだが、年老いた両親は、今までにも増して熱心に墓参りをする。それはもう、定められた義務のように。無理をしてでも行くのなら、楽しんでほしい。
そこで墓参りの「ついで」に無理のない範囲で寄り道をするように提案している。離れて住む2人の妹が同行してくれることもあるのだが、岡山に行くついでに倉敷観光を企画してくれたり、京都で寺巡りにつきあったり、それぞれ楽しませてくれているようだ。それに味をしめたのか、いまでは高尾の墓参りの帰りにも「ついでに」、その先の石和温泉まで足を延ばして、温泉旅館で一泊してから帰るようになった。あわただしく日帰りで行くより、かえってゆったりとした行程になって、体力を温存できるのかもしれない。
 
旅のプランニングはやる気と元気の特効薬。楽しい予定があるだけで、気分が華やぐ。次の旅行を小さなゴールとして、そこから日常が体力づくりや健康な状態をキープするための準備期間が始まるのだ。
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著者:間庭典子(まにわのりこ)

中央線沿線の築30年以上の一軒家に後期高齢者の両親と同居する50代独身フリーランス女子。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「mc Sister」編集者として勤務後、渡米。フリーライターとして独立し、女性誌など各メディアにNY情報を発信し、「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」(講談社)などを発行。2006年に帰国し、現在は日本を拠点に、旅、グルメ、インテリア、ウェルネスなど幅広いテーマの記事を各メディアへ発信。旅芸人並みのフットワークを売りとし、出張ついでに「研修旅行」と称したリサーチ取材や、さびれた沿線のローカル列車で進む各駅停車の旅を楽しむ。全国各地の肴を味わえる地元の居酒屋やスナックなどの名店を探すソロ活動も大好き。

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