1. コロナ禍で気づく。シニア層にとっての買い物は日常のスパイス
コロナ禍を経て、気づいたことがある。シニア層にとって、日用品の買い出しは娯楽であり、刺激であり、絶好のエクササイズでもあるのだ。
緊急事態宣言下、駅前のスーパーマーケットでさえ危険だと感じ、同居している両親の代わりに、外出する機会の多い私が買い物を担っていた。買う食材や日用品はほぼ決まっている。選ぶのに難しい商品はないし、これでなくてはだめだ、というほどのこだわりもなく、似た商品でも代替することもできた。この時代、ネットショッピングや、宅配でだって調達できる。
けれど買い物に行かないことで、外出の機会は減り、母は次第に元気がなくなっていった。風船がしぼんでいくように、毎日、ちょっとずつ小さくなるように。運動不足解消のために、人気がない時間帯の散歩などもちょくちょくしていたが、それでは満たされない様子だった。
そこで、自宅から近い、駅前の24時間営業のスーパーマーケットに始発直後くらいの「超」早朝に行くことにした。朝の5時、6時ならば、買い物客はほぼゼロで、混雑を回避できる。朝早くに集合するインテリア撮影では、小道具として用意するフルーツや食材を買うために、この時間帯にもちょくちょく訪れていたのだが、「超」早朝のスーパーマーケットは店をまるごと貸切ったように空いているのだ。まるでTDLを独り占めするセレブになった気分!
2. ディスプレイを眺め、新商品を目にすることは脳への刺激に
早朝の食料品売り場にはまだ買い物客は少ない。けれど商品の入れ替えのため、スタッフが動き、店は活気がある。新しい食料が次々と届き、店員さんの手により美しく陳列された棚を見ると、エネルギーを受け取ったような気になる。母と一緒に店内を巡ることでそれが伝わってきた。母のエネルギー値がぐんぐん上がっていく……!
一つひとつの棚をチェックしながら、ストック用の調味料やカレールウ、お菓子などの食材を選びとる。カラフルなパッケージが目に飛び込み、視界が広がり、世界が明るくなっていくようだ。旬の食材を手に取ることで、季節も肌で感じられた。
「これは見たことがないからきっと新製品ね」
「あのシリーズは試してみたけれど、結構、辛い味付けだった」
「あら、これは便利そう。これなら簡単に作れるわね」
とおしゃべりしながら選ぶ。この時期は、外での会話も厳禁だったが、ほぼ貸し切り状態の誰もいない店内ならば許されるだろう。この時間帯ならば、密(今となっては懐かしいワード!)を気にせず、自由に動き回れる。当然、会計の列もなく、ゆったりと外での時間を楽しんだ。
なるほど! 長年、主婦をやってきた母にとって食材選びは、単なる「労働」ではなく、「娯楽」であり、「刺激」であるのだ。考えてみれば、必要なものを選び出し、献立を考え、組み合わせていく作業はゲームのよう。なによりもの脳トレだ。
3. 日々、買い物に行くというルーティンは日常のエクササイズ
そういえば母は買い物から帰るたびに、
「今日は吉祥寺で買い物したから8000歩も歩いた!」
「今日は駅前だけだから3000歩しか歩かなかった……」
とスマホの万歩計アプリでチェックして、一喜一憂していた。日用品の買い物は、ウォーキングエクササイズを習慣にしてくれる手段でもある。
コロナ禍ではその習慣がストップしてしまった。後期高齢者を少しでも感染リスクから遠ざけようと、毎日の買い物も危険と脅かし、禁じていたが、今になってみると間違いだったのかもしれない。空いている時間を狙って行くことを、もっと早く提案すればよかった。
日常のなかで自然に積み重ねているエクササイズを中断すると、筋力はみるみる落ちていく。77歳で他界した祖母は、転んで腕を骨折したことにより、急激に衰弱した。けがをきっかけに、寝たきりになったという高齢者の話も多い。父は町内会の仕事や地域のパトロールをルーティンとしているが、地域をくまなく歩くことはいいエクササイズになっているだろう。家事でも、ボランティア活動でも、趣味でも、筋力をキープする日々の習慣は、シニアにとって、なによりものアンチエイジングになる。
今は二人とも問題なく活動しているが、歩く習慣がストップしたら、筋力はすぐに落ちてしまうだろう。とはいえ転倒の可能性もある混雑する時間帯は避けてほしい。仕事前の早い時間なら荷物持ちができるよ、とまた「超」早朝の買い出しに誘ってみようか。あの時間帯ならストレスなく、動き回れる。
4. 機能的なスポーツ用アイテムはシニア層にこそおすすめ
そう考えると、あれは健康によくない、これは危険だ、と守ろうとするあまり、行動を制限することは得策ではない。むしろこうすれば快適、これを使えば安心、とポジティブな理由付けでアクティブに過ごしてほしい。
シニア層には縁がないと思われるスポーツウエアだが、素材も軽く、機能的なので、実はウォーキングに適している。汗をかいてもすぐ乾く速乾性、さらっとした肌触りの通気性、雨が降っても水を弾く撥水性など素材そのものも高機能。また腕振りがしやすいように肩回りにストレッチ素材を使用したり、立体裁断だったりもする。冬用のジャケットも軽いのに起毛素材で暖かく、快適だ。膝周りや骨盤を安定させるサポート機能があるランニング用のタイツを、アンダーウエアとして活用するのもいいだろう。これからの季節は防寒にもなる。
ランニングシューズも同様だ。まずは軽い! 今は靴ひもではなく、ゴムタイプのものもあるので、履いたり脱いだりが簡単だ。走ったときの着地の衝撃をやわらげる、ほどよいソール(靴底)のクッション、足首を支えてくれるかかとの機能など、いいことずくめ。
うちの父はランニング用のウェストポーチ、母はリュックにもなるタイプのトートバッグを愛用しているが、スポーツ用のバッグも素材が丈夫で軽かったり、走りながらチャックの開け閉めがしやすいように取っ手がリング状で指が引っかけやすく工夫されている。こういった機能はランニング目的でなくても頼りになる。
私自身もスポーツウエアやアウトドア用ギアを日常で使うようになったのだが、これは使える! 便利!というものを親世代にすすめるとすごく喜ばれる。価格も手ごろで実用的なので、ギフトにも最適だ。私自身が実感しているのだが、体力が落ちてくると、それをカバーしてくれるように工夫されたウェアやグッズはありがたい。カラフルなタイプが多かったランニングアイテムだが、ブランドマークが目立たない、シックなデザインのものが増えた。スーツにも合う白や黒一色のスニーカーも登場。ウェアもシューズも、日常のスタイルに取り入れても違和感がない。
5. プレ介護時期のサポートは「守る」ことではなく、「促す」こと
外出をリスクありと制限したり、逆に健康のために歩け!と強要するよりも、歩くことを試したくなる目標、きっかけづくりをしたり、快適になるアイテムを体感してもらうよう「促す」ほうがいい。そこでプレ介護期に、コンディション維持のためになるウォーキングを無理なく続け、アクティブな日常を送るための3つのもくろみを考えてみた。
1.日常を華やかにし、体力づくりの目標となる旅のプランを立てる。
2.日常の中でのエクササイズを快適にするウェアやギアを用意する。
3.混雑しない、快適な時期や時間帯を予測しての行動を提案する。
旅はもちろん、墓参り、孫に会いに行く――なにか遠出をする予定があると、生活にハリがでる。ランニングシューズやヨガウェア、キャンプ用品などのスポーツアイテムは機能性が高く、日常生活にも活用できるものが多い。日々の散歩や買い物を快適にする方法を共に考え、私もこのプレ介護期を親たちと共に楽しもうと思う。