こんにちは。薬局薬剤師の山本咲希です。身近な方の介護をされている方からお伺いする悩みの一つに「なかなか薬を飲んでもらえない」ということがあります。そこで今回は、薬のプロである薬剤師の視点から、なかなかお薬を飲んでもらえないときに試していただきたい対応法を、大きく3つに分けてご紹介します。
 

1. ポイント1 薬を飲む環境を見直してみる

「介護を受けている方が薬を飲まない」ということの背景には、「飲もうという意思があるけれど忘れてしまう」、または「そもそも薬に対してマイナスな感情があり、飲みたくない」という思いがある場合が多いです。
 
特に「飲もうという意思はあるけれど忘れてしまう」場合には、薬を飲む環境を見直すことで、劇的に事態が改善することが多いのです。以下に挙げる例をぜひ検討してみてください。

●お薬の管理BOXを用意する
お薬を飲むタイミングごとに分けて入れられる「管理BOX」を販売している薬局もあります。このように、いつ、どの薬を飲めばいいかがわかっているだけでも、薬を正しく飲みやすくなり、忘れずに飲めるようになることも多いのです。


薬局でBOXを買わなくても、100円ショップに売っている仕切り付きの収納ボックスや、趣味で釣りをされる方ならお手持ちのルアーケースなど、身近なもので代用してお薬を飲むタイミングごとに整理することも可能です。


ただし、このようにお薬を整理する場合には、箱の中に移す前に、お薬の袋で「飲むタイミング」と「1回あたりの錠数」をていねいに確認し、服用のタイミングや種類、錠数を間違えないよう、注意するようにしましょう。

●薬局でお薬を「一包化」してもらう
お薬の種類が多く、飲むタイミングや錠数がばらばらで管理ができない場合には、「一包化」といって、薬局でお薬を飲むタイミングごとにまとめて一つの袋に入れてもらえるサービスもあります。


飲み間違いや錠剤の紛失がなくなりますし、手が不自由で薬を取り出すことが難しいという方にも便利です。日付を入れたり、お名前を入れたりすることも可能なので、ぜひふだんお薬をもらっている薬局へ相談してみてください。

●お薬カレンダーを利用する
お薬カレンダーを使用することも効果的な対策の一つです。カレンダーに服用予定のお薬をセットし、その日の分をカレンダーから取り出して服用すれば、お薬を確実に服用できます。お薬カレンダーは、薬局やインターネットで数百円程度で購入できます。

また、訪問薬局のサービスを利用していただくことで、薬剤師に週に一度自宅へ来てもらい、一週間分のお薬をカレンダーへ正しくセットしてもらうことも可能です(訪問頻度については相談可能)。

●ご家族が電話をし、飲み忘れがないかを確認する
お薬カレンダーを使用していても、今日が何曜日かわからなかったり、お薬を飲むこと自体を忘れてしまう方の場合、ご家族が毎日決まった時間に電話をかけ、「〇曜日の朝のカレンダーを見て。お薬入ってる? そこから取り出して、今飲んでね。このまま電話繋げておくから飲んできてね……飲めた? もう一回〇曜日の朝のカレンダーを見て。お薬入ってない?」などと声掛けをすることで飲み忘れが大幅に減少したという方もいらっしゃいます。他にも、ご近所の方に定期的な声掛けをお願いすることも効果的です。

●お薬の置き場所を工夫する
お薬やカレンダーを置く場所を、お食事をされる机の上に変えたところ、お食事の際に必ず目に入るようになり、飲み忘れがなくなったという例もあります。他にも、寝る前の薬はベッドサイドに置くようにしたり、お風呂上りに塗る薬は浴室の着替えを置いておく棚に置くようにしたりと、置き場所についても工夫してみると良いでしょう。


ただし、目につきやすい場所に置くことで、お薬カレンダーの中に入っているお薬をご自分で入れ替えてしまい、逆に正しく飲めなくなってしまう例もありますので、必ず薬剤師などと相談しながら様子を見てください。


●お薬ロボットを使用する
設定した時刻にお薬を出してくれる「服薬支援ロボット」もあります。


このロボットは、センサーでの見守り機能や生活をサポートする声かけ機能も備えています。利用するには、購入するかレンタルする方法があります。上記の方法を試しても難しい場合には、選択肢の一つとして検討してみてください。

ポイント1 薬を飲む環境を見直してみる

2. ポイント2 新しいサービスを利用する

ご家族のみでのお薬の管理、介護が難しい場合には、新しいサービスを検討することも大切です。
ご家族が担当する部分とプロに任せる部分などをはっきり決めることで、介護者が休息することもできるので、以下のようなサービスも検討してみてください。
 
ただし、地域や施設、薬局等によって受けられるサービスが異なる場合がございますので、必ず利用される施設や薬局等にご確認ください。

●ヘルパーさんを自宅に呼ぶ
ヘルパーさんをご自宅にお呼びすることで、
・薬局での薬の受け取り
・服用時の水の準備
・薬を確認しテーブルにセッティング
・薬を飲むように声掛け
・服薬のお手伝い
・飲み忘れや飲みこぼし等の確認
・後片付け(薬袋、コップなどの始末)
の全てを行ってくれるので、介護の負担を大幅に減らすことができます。


●デイサービスを利用する
通いで介護サービスを提供する施設であるデイサービスでは、できるだけ自立した生活を送れるよう、身体機能の維持や向上を目的とした機能訓練や、食事や入浴など日常の世話を行ってもらうことができます。


これらに加え、お薬の服用もその場でみてもらうことができるので、薬の管理も安心です。

●小規模多機能型居宅介護を利用する
「小規模多機能型居宅介護」とは、介護を受ける方が自宅での生活を継続できるようサポートする施設です。 通い、訪問、宿泊のサービスを1つの事業所で利用できるのが特徴です。

デイサービスの場合は、どうしても早朝のお迎えとなることが多い一方、小規模多機能型居宅介護では、お昼過ぎのお迎えが可能で、ご自宅で過ごすときにはお弁当の配達サービスがある施設もあります。

あらかじめ施設の方にお薬をまとめて渡ししておくと、お弁当の配達の際、お弁当と一緒にその時に飲むべき薬を渡してくれる施設もあり、服薬管理がぐっと楽になります。

●訪問薬局を利用する
訪問薬局とは、薬剤師が定期的に患者様のご自宅へ訪問して、薬の管理全般を行うサービスです。お薬の配達や管理はもちろん、服用しやすいように、タイミングや種類の変更のご提案も行います。
ポイント2 新しいサービスを利用する

3. ポイント3 介護を受ける方との関係性を最優先に考える

●お薬を飲む時間を少しでも「楽しい時間」に
お薬を服用する時間を「飲ませなきゃいけない苦痛の時間」と感じてしまうこともあるかもしれません。
 
難しいことですが、「苦痛の時間」を少しでも「楽しい時間」に変えられるよう、発想の転換をしてみてください。例えば、「自分だけが特別に何かを飲んでいる感じがして、薬を飲むのが嫌だ」という方の場合、周りの方が一緒にラムネのような「一見薬に似たもの」を食べて見せると、一緒に薬を飲んでくれるようになったという例もあります。
 
そうすると介護をしている方にとっても、お薬の時間がお菓子を食べる「楽しい時間」と感じられるようになりますね。他にも、お薬を飲んでくれたことへの感謝を伝えたり、お薬の服用による効果(発作が起きていないことなど)をお話したり、ポジティブな言葉を交わすことで、ご家庭の雰囲気が明るくなることもあります。

●信頼関係を自覚して、相手のことを受け容れる
認知症の患者様は、今の状況がわからないことに特に不安を覚えます。

例えば、お金の管理が不安だからと信頼できる家族にお金の管理を任せたいとお願いしていたにもかかわらず、いざご家族の方が管理するとなったた時には管理を任せたことすら忘れてしまい、「泥棒!」などときつい言葉を発してしまうことがあります。

そういった言葉でご家族の方は「自分がやっていることは受け入れられていないのか」と悩んでしまうこともあるかもしれません。でも実は、このようなきつい言葉の多くは信頼関係のある相手に発言してしまうもので、甘えている相手だからこそ出てくる言葉なのです。
 
とはいえ、その言葉を受け取る側は気持ちの良いものではないので、相手の言葉を全て受け止めるのは難しいと思います。そういった場合、受け入れるのではなく「受け容れる」ことに切り替えてみてください。
 
「受け容れる」とは、相手の意見に同意するのではなく、相手は今こう考えているのだな、こう感じているのだな、と相手の考えをただ傾聴するということです。話を聞くことはできても同意できない、ということがあっても良いのです。このように発想の転換をすることで、ご家族の方のお気持ちが少しでも楽になるきっかけになれば幸いです。
 
「お薬を飲むように」と言っても飲んでくれないという状況に対しても、「何とかして飲ませる」というよりも、もしかしたら「甘えているのかも」と一呼吸おいて、相手の話を受け容れ、どのように薬を飲んでくれるようにしようかということを一緒に考えていきましょう。

●薬によっては完璧に飲めなくても大丈夫
お薬の中には、整腸剤や便秘薬など、どうしても飲んでもらえないときには完璧に飲まなくても良い種類のものもあります。

事前に担当の医師に相談し、「飲ませるのが難しい時、完璧に飲めなくても問題のない薬はあるか」を聞いておくと、気持ちが軽くなると思います。
 
 
介護は人と人とのかかわりだからこそ、「正解」がなく、それが介護する側を時に苦しめてしまいます。でも、正解がないからこそ、「迷ってよい」のだし、答えが出ない曖昧さに対して焦らなくても良いのです。どうか、決められないことから生まれるプレッシャーで心を擦り減らさないでください。

つらい時には一人で抱え込まず、周りの医療従事者やケアマネジャーさんに頼って、ご自身の身体と時間を何よりも大切にしてくださいね。
 
 
監修:水野彩香
薬剤師・事業構想修士(専門職) 株式会社ブルペン執行役員(イロドリ薬局千年店 薬剤師)
大手調剤薬局を退社後、株式会社ブルペンに入社し、生まれ育った川崎市でイロドリ薬局千年店の運営を行っている。現在は地元の地域医療に貢献すべく、在宅医療にも積極的に取り組んでおり、プライベートでも介護が必要な祖父母のため、介護に関する提案やフォローを行っている。
ポイント3 介護を受ける方との関係性を最優先に考える
この記事の提供元
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著者:山本 咲希(株式会社レインフラワー)

薬剤師/日本薬剤師会認定薬剤師。
北里大学薬学部首席表彰を受けて卒業後、薬局薬剤師として活動。
大学病院の門前薬局、内科、小児科、耳鼻科、皮膚科など、さまざまな薬局で調剤を学び、現在は薬剤師・起業家として活躍している。
地域医療研究、全国薬剤師・在宅療養支援連絡会J-HOPでの研究発表、OTC薬のアプリケーション開発、日本薬学会での論文発表を行っている。

「医療・教育・美容を武器に、元気に・迷いなく・美しく生きていける社会を作る」という理念のもと、クリニック・薬局向けのシステム開発・提供、区民講演会での講演を行うほか、自身もボディメイクの全国大会「ベスト・ボディジャパン」に出場、関東最大規模の大会でグランプリを獲得した。教育業界にも力を注ぎ、顧問を務める個別指導塾「生徒派」を入塾1年待ちの全国屈指の人気塾にしたほか、全国の塾・予備校のシステム開発を行う。自身の経営する化学専門予備校「花塾」も盛況で、仕事が生きがいの日々を走り続けている。
著書に『プランブロック式 ゼロから理系難関大学に合格できる戦略的学習計画法』(KADOKAWA)がある

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