意識していても、ついついやってしまう薬の飲み忘れ。次の服薬時に併せて飲んでよいのか、またはスキップした方がよいのか判断に迷うことも多いと思います。服薬を忘れてしまった際、その後の対処が適切でなければ、薬の効果を十分に得られなかったり、反対に効果が強く出すぎて体に負担がかかってしまったりすることも。そうならないためにも、服薬忘れ後の対処について、基本的な知識を身につけておきましょう。
今回は、よくあるシチュエーションをもとに、服薬忘れの一般的な対処法を、さいがケアファルマ合同会社代表の薬剤師・雜賀匡史さんに解説いただきます。
服薬するのを忘れてしまった経験のある人は多いと思います。普段は規則正しく服薬できていても、ちょっとしたことがきっかけで忘れてしまうという人もいらっしゃるでしょう。
正しく服薬できずに残ってしまった薬を「残薬」といいます。日本全国の残薬をかき集めると、約400億円にものぼるといわれています。一方で、薬剤師が介入した場合の残薬削減効果は100億円~6500億円という試算も出ています。(1)
誰しもに起こり得る服薬忘れですが、もし服薬を忘れてしまった場合、どのように対応するかはご存じですか?
服薬を忘れてしまっても、対処法を知っておくことで、大きな体調変化を引き起こさずに生活を維持することができます。とはいえ、服薬を忘れた後の対処法は処方されている人の生活環境や処方薬ごとに異なるため、万人に共通した解決法というものはありません。ご自身で服薬している薬については、受け取っている薬剤師や医師に相談して個々にアドバイスしてもらいましょう。
ここではよくあるシチュエーションでの一般的な対処法についていくつかご紹介させていただきます。あくまでも一般的な対処法ですので、個々の薬については必ず医師、薬剤師に相談しましょう。
朝食後(7時)A B C
昼食後(12時)A B C
夕食後(19時)A B C
[シーン1]
朝食後(7時)の飲み忘れに昼の12時に気づいたとき
朝の薬と昼の薬を一緒にまとめて飲むことはしないでください。
2倍の量の薬を一度に服薬すると、薬の効果が強く出すぎてしまい副作用が現れやすくなります。このような時は朝の薬はスキップし、昼食後以降の薬から服薬するようにしましょう。
[シーン2]
朝食後(7時)の飲み忘れに8時に気づいたとき
昼食後(12時)の薬までに十分な時間が空いている時は、気づいた時にすぐ飲むようにしましょう。飲み忘れに気づいたタイミングに服薬することで、体内の薬物濃度を一定に保つことにつながります。
毎週水曜日の起床時
[シーン1]
服薬予定日に飲み忘れに気づき、水以外の飲食をしていない状態のとき
ビスホスホネート製剤は食べ物や他の薬と一緒に飲むと、吸収が悪化してしまいます。ですが、水以外の飲食をしていなければ、気づいた時にすぐに飲み、最低でも30分以上は水以外の飲食は控えましょう。
[シーン2]
服薬予定日(水曜日)に飲み忘れに気づき、すでに飲食をしてしまったとき
その日は服薬せず、翌日(木曜日)に服薬しましょう。次からは、あらかじめ決められた曜日(水曜日)に服薬しましょう。(2)
[シーン3]
誤って服薬予定日(水曜日)とその次の日(木曜日)の2日連続で服薬してしまったとき
次回の服薬予定日(水曜日)はスキップし、次々回の服薬予定日(水曜日)に服薬しましょう。
朝食後からさほど時間が経過していなければ、気づいたときに飲みましょう。昼食または夕食が近いようであれば、昼食後か夕食後に服薬すると良いでしょう。
このように、服用する薬の種類や、用法によって飲み忘れ時の対処法は異なります。基本的に、本来服薬するタイミングからあまり時間が経過していなければ、気づいたときに飲むようにします。
薬の吸収の特性や、副作用のリスクを考えて、1回分をスキップして飲まないという選択肢もあります。個々の薬については飲み忘れ時の対応について事前に医師、薬剤師に聞いて確認しておくとよいでしょう。
もしも飲み忘れに気づき対処法を今すぐに知りたい時は、薬の袋(薬袋)に記載されている薬局に連絡し、どのように対応したら良いか相談しましょう。このような緊急時にも気軽に相談できる、かかりつけの薬局や薬剤師をもっておくことも大切です。
参考文献
(1) 医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)
(平成27年度厚生労働科学特別研究)
(2)ボナロン®錠を服用される方へ 帝人ファーマ株式会社 帝人ヘルスケア株式会社
雜賀 匡史(さいが まさし)
さいがケアファルマ合同会社代表、薬剤師、認知症ケア専門士、介護支援専門員(ケアマネジャー)
大学院で修士課程を修了した後、臨床薬剤師について学ぶ為にカナダアルバータ大学に留学。その後、病院薬剤師や薬局で勤務するうちに、日々の薬剤師業務や在宅訪問活動(居宅療養支援)を通じて、生活を支える為には医療と介護の垣根を取り除いた総合的な支援が必要だと考えるようになる。それまでの「医学・薬学」的な視点に、「社会資源・ケア」という視点が加わったことによって、「医療を受ける為に、生活に我慢を強いる」のではなく、「充実した生活を送る為に、無理のない医療を提供する」ことを意識した支援活動を行っている。2020年9月には、一人でも多くの患者や利用者の支援を行うために医療・看護・介護の総合支援を行う、さいがケアファルマ合同会社を設立。現在は薬局業務、大学・薬剤師会・製薬企業・ケアマネジャー事業所等での講師など幅広い活動に従事している。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。