デイサービスと聞いてどんなものを思い浮かべられるでしょうか? まだ施設入所していない方が、自宅に暮らしながら昼間の時間を過ごすために通い、レクリエーションや食事などのサービスを受ける「通所介護」の場が一般的な定義です。デイサービスを利用する高齢者のご家族のいるケアラーにとっては、見学の際に一度足を踏み入れた、というだけで実際はどのような雰囲気でどのようなことが行われているか、くわしく知る機会は少ないように思います。
そこでMySCUEは、イオングループが運営するデイサービス、イオンスマイルに着目し、その実態や運営方法などについて、くわしく伺ってみることにしました。このイオンスマイル、関東圏(千葉、埼玉、東京、神奈川)のイオンの店舗内などに14店舗あります(2024年6月現在)。そもそもスーパーマーケットの店舗内にデイサービスの施設があるということ自体、珍しいことにも思えます。まずは運営管理・営業グループの小澤朋也さんに、その成り立ちや運営理念、そして営業形態などについてお聞きしました。
まず、イオンスマイルの成り立ちについて教えていただけますか?
「元々イオングループにおいては各社でお客様に対するさまざまなサービスや商品の提供が連綿と行われてきたとは思うのですが、その中で特に高齢の方、社会的な役割や機能がだんだん減少していく「喪失期」の過程にある方たちがお感じになるお困り事やご不安に対して、イオングループとして何かできることはないかという問いからスタートしています。その中でも住み慣れた地域の環境で元気に生活したいというお客様の根源的な望みに寄り添うサービスとして、1日を過ごす場を提供する選択もあった中で、機能訓練特化型のデイサービスという形を採用してスタート致しました。
というのも、ご自身で歩いて移動するなど日常生活を自立的に行うためには、体力的な部分が非常に重要で、体力を維持することで初めて自立的な生活が可能になるわけです。そこでまず、生活をするための身体的な基礎能力の支援に特化することを事業として採用したわけです。これが一般的にいわれる『機能訓練特化型デイサービス』で、食事や入浴等のサービスを提供しない、短時間のデイサービスとなっています。
イオンスマイルのサービスが形になったのは2013年の秋からで、それからすでに10年を超えているのですが、事業内容やその目的は現在も変わっていません」
1号店はどちらになりますか?
「1号店は東京都江戸川区のイオン葛西店内のイオンスマイル葛西店になります。当時私は在籍していなかったのですが、責任者や構成メンバーのほとんどは(イオン内部の)他部署からイオンスマイルの事業部に異動して事業をスタートしました。イオンリテールとしては、介護保険領域のサービスの蓄積がなかったため、そういう知見を持ったスタッフが外部から加わってスタートしました。
スタート当初は利用者の定員に満たないこともあったと聞いています。介護保険の指定事業所ですので、介護保険制度に則ってサービス提供を行うということが前提にあります。通常のサービスや商品はお客様が直接それらを知って、お買い求めになりますが、その形とは異なる部分があります。利用者様の担当ケアマネジャーさんが作成するケアプランに(イオンスマイルが)位置づけられることが基本的なスタイルです。
ケアプランは、サービスの対象の方の状態の維持向上のために適切だと考えられるものを、ご本人の希望も考慮しながらケアマネジャーが考えます。ケアマネジャーさんからイオンスマイルをご紹介いただくことが標準的な形であるため、まずは(ケアマネジャーが所属する)居宅介護支援事業所および地域包括支援センターの皆さんに、私達の事業をしっかりわかっていただくというところからスタートしたということを聞いています。小売業のイメージが強いイオンリテールが行うサービスということで、当初はケアマネジャーさん側から正しく理解されないこともあり、苦労もあったということも聞いています」
現在の利用者様の数や平均的な年代、男女比などを教えてください。
「(2024年4月時点で)1600名の利用者様がいらっしゃいます。年代は平均すると80代前半、80歳から85歳位になります。一番お若い方は50代で、一番年配の方というと90代の方もいらっしゃいます。男女比としては、6対4くらいと、女性の方が多くなっています。レクリエーションや季節の行事といったものがなく、目的がはっきりしているため、男性の方が通いやすいという点があるようで、他の1日型のデイサービスよりも男性の比率は高いと思います。1日型のデイサービスでは、7:3、あるいは8:2くらいの比率で女性が多い状況だと思います」
どのくらいの介護度の利用者様が多いのですか?
「要支援1~2から要介護2ぐらいまでの軽度な介護度の方が中心です。というのも、マシントレーニング等もありますし、まずはご自身で事業所内を移動できるということが、私どもの提供しているサービスをうまくご活用いただける条件となってくるためです。その辺の方たちを要介護度で見ると、要支援1、2、および要介護1、要介護2の一部の方たちになります」
1回分のサービスのスケジュールはどのようになっていますか?
「店舗の地域によって多少のばらつきはあるのですが、私達の事業は介護保険制度上では『3時間以上4時間未満のサービス』を行うというのが時間的な単位(*1)となっています。この単位のサービスをします、という届け出をしており、店舗のある自治体ごとに行政の指導も異なるため、多少のばらつきはあるのですが、基本的にはどの店舗も同じ時間内でのサービスを提供しています。
午前と午後、それぞれ3時間ずつの短時間のサービスで、メニューとしては、イオンスマイル独自のスマイル体操、口腔機能を維持するための口腔体操、機械を使ってのマシントレーニング、そして個別機能訓練になります。
利用者様はそれぞれに身体状況などが違いますので、それにともなってお困り事も異なります。例えば、最近つまずきやすい、長い距離を歩けない、生活スペースが2階なのに階段の昇降がしづらくて困る、といったようなことです。ですので、その方の生活に合わせてどの能力を伸ばし、補ったらよいのかを専門職(理学療法士、作業療法士)が見て運動を処方し、処方された運動に取り組んでいただくのが、『個別機能訓練』という時間になります」
*1 介護保険制度内のサービスでは3時間未満、3時間以上4時間未満など、細かく時間帯が決まっている。
1つの店舗には何名くらいのスタッフの方が配置されていますか? また、その内訳を教えてください。
「店舗のスタッフ構成は介護保険制度と密接に関わっており、制度上定められた数や役割があります。まずは一元的に事業所の運営を管理する管理者と呼ばれるスタッフが1名、利用者様やケアマネジャーさんとの連絡調整をする生活相談員が1名ないし2名、機能訓練の指導員として理学療法士、作業療法士が1名ずつ、看護師が1名、そして機能訓練指導員以外の日常的なトレーニングの補助を行うインストラクターと呼ばれるスタッフが2名。これが基本的なスタッフの配置構成となります」
イオンスマイルの店舗での様子がよくわかる紹介動画
利用者様からの反応や通うことでの変化についてなど意見をいただくことはありますか?
「ご本人の実感、あるいは私達から見ても、何かが劇的に改善したということが難しい方も多いのですが、それは裏を返せば、今の状態が維持できているということなんです。放っておいたら低下傾向になる可能性も考えれば、とても意味があることだと思います。
印象的な例としては、お孫さんと旅行に行けた、野球を観に行けたというような、今までできなかったことができるようになったということで、それは間違いなく私たちのサポートによって実現できたものだと思うのです。
体力が失われていくということはそれだけの問題ではなくて、外に出る機会が減ったり、人と会う機会が減ったり、物理的な活動範囲が狭くなりつつある状態だと思います。そこでデイサービスを利用することは、自分から外に出ていく機会が増えるということで、とても重要な意味をもつと思います。
元々は何となく体力をつけなきゃいけないなと思って通い始めた方が、対スタッフはもちろん、利用者様同士のコミュニケーションが生まれる過程で活力を得て、それが楽しいから来ている、というふうに変化する方もいらっしゃいます。それは一つの重要な機能だと思っています。
(福部)部長も含めもよく言うのですが、体力作りのお手伝いというのは一つの大きな目的ではありますが、人との繋がりを作り出すのも私達の役割だと考えています。単なるお客様としてお迎えするのではなく、名前も人物像も生活歴も承知した上で利用者様と関わります。そういった意味で、利用者様との結びつきは強固なものだと考えています」
すべての店舗がそうではないということですが、イオンの店舗の中にあるということのメリットは何だと思われますか?
「高齢者の方が要支援~要介護の状態になるということは、その方の社会的な繋がりが薄くなっていくということですが、デイサービスがGMS(General Merchandise Store。総合スーパー)の店舗内などにあるということは、そこに行くたびに当然店舗の様子を知ることになります。私達の店舗では、季節ごとの飾り付けなどがありません。また、季節ごとのイベントなどもしておらず、いつ来ても同じという状態を保っており、これはイオンスマイルの取り組みでもあります。
イメージとしては、高齢の方向けのトレーニングジムやフィットネスクラブのような感じですが、GMSの店舗内にあるということで、(送迎の車の駐車スペースから)店舗内を移動する際に、その季節の雰囲気、例えばクリスマスの時期であればクリスマスの雰囲気や人の活気を感じられることもあると思います。利用者様にとっては、ご自分と社会との接点を強く実感する場にもなっているのではないかと思います。
ただ、店舗がGMS内にあるからといって、サービスの利用中に店舗で買い物をすることは制度上できないのです。介護保険施設のサービスの提供中は、その目的以外のことができないという決まりがあるためです。事業のスタート当初は、GMS内にあるのだから(行き帰りに)買い物ができるのでは、とよく言われたのですが、それはできないというのがルールなんです。
なるほど。ただ、新しくオープンした館山店では、買い物をするプログラムがあるとお聞きしたのですがそれはどういった取り組みになりますか?
「館山店では、買い物を生活の中の動作の一つとして捉え、機能訓練の一貫として位置づける取り組みをしています。それはケアマネジャーさんが作成するケアプランの中に位置づけることで初めて可能になることです。売り場まで移動し、商品を自分で選んでレジまで運び、精算をする、という『買い物』という動作を通じてしか行えない機能訓練もあるはずなんです。館山店ではご希望の方にはリハビリテーションとして買い物を提供するという取り組みをしています。こういった取り組みをしている事業所は、たぶんないのではないかと思います。ただ、これはこのサービスをする前提での設計がないと実現が難しく、既存の店舗で始めるには少しハードルの高いものになります」
利用者の方にとっては、ご自身で買い物ができたらとてもうれしいのではないでしょうか?
「そうですね。買い物についての一連の動作をご自身で行うということは、利用者様にとって一つの自信にもつながるでしょうし、そういった意味でもトレーニングの選択肢としては幅が広がるのではと思います。ただ、それを行うことでのリスクもまた否定できないため、その辺では熟慮が必要になってくるとも思います」
最後に、イオンスマイルさんとしての今後の目標などがあれば教えてください。
「現在は東京、神奈川、埼玉、千葉のみですが、今後は関東圏以外への出店も計画しています。サービス提供地域の拡大は、私たちが全国のお客様に対して届けたい価値の実現の第一歩になると考えています」
みんな揃ってのレクリエーションや季節行事など、一般的なデイサービスのイメージを覆す、スポーツジムやフィットネスクラブのような機能特化型のサービスを提供するイオンスマイル。身体機能の低下に加え、社会的なつながりも乏しくなってくる時期の高齢者のための介護保険領域のサービスとして、とても明解でわかりやすい価値を提供しているように感じました。
また、要支援~要介護1,2くらいまでと軽度な介護度の高齢者を身近にもつケアラーとしての悩みである、本人が(デイサービスなどを)利用したがらない、ということに対しての対応方法のヒントになる考えも得ることができたように思います。次回は、実際の店舗を訪ね、スタッフの方のお話を伺います。
●イオンスマイルHP
▼この先の記事
・90代でも筋力アップ!機能訓練特化型デイサービス、イオンスマイル新浦安店レポート①
・ひとり一人に最適なトレーニングで身体機能と自信を取り戻す!イオンスマイル新浦安店レポート②
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。