軽度認知障害の実母と同居する50代のケアラー、山内聖子が日々の出来事や思いを綴るシリーズの2回目。ついこの前まで「秋だというのに夏みたい」と思っていたのにいつのまにか季節は冬へ。母と暮らし始めて二度目の冬。乾燥対策や感染症予防のための予防接種といった母のための準備や予定に加え、この家の主婦としての新年に向けての準備など、忙しい日々が始まりつつあった師走の初めのある日、母が通うデイサービスから、聖子のスマホに着信があって。

1. デイサービスからの電話

母は週に1回、水曜日にデイサービスに通っている。朝9時半頃にお迎えに来てもらい、午後4時過ぎに送り届けてくれる。その間の6時間ちょっとの間は母のケアから離れ、一人で過ごせる貴重な自由時間だ。今日は2週間前に予約をしていた美容院に出かけ、カットとカラーをしてもらっている最中だったのだが、そんな貴重な自由時間に、母のデイサービスからスマホに着信があった。え、何事? 身構えて応答すると。

「はい、山内です」
「●●苑の者です。いつもお世話になっています。お母さまの巴さんのことで少しお伺いしたいことがあって。よろしいでしょうか?」

デイの職員さんによると、今朝、変わりなくデイサービスに向かった母だが、なんとなく右足を動かしづらそうにしていたので聞いてみると、「少し痛い」と言ったのだそう。さらにパンツの裾を上げて脛を見てみると、うっすらと赤みを帯びた部分があり、低音やけどではないかとのこと。「何か思い当たるふしはありますか?」と職員さん。デイの看護師さんが患部を冷やすなどの簡単な処置はしてくれたものの、もし痛みや腫れが続くようなら、外科などを受診してください、とのこと。

この時期は急に寒くなったりすることで暖房器具などを引っ張り出し、注意しないで使うことで低温やけどなどの怪我をする方が多いのだそう。そういえば、母も長年使ってきた電気毛布を使いたいというんで、この前の週末に私が母の部屋の押し入れから取り出したんだっけ。今朝は変わらない様子だったけれど、もしかしたら昨夜使っていたのかも。。。

2. 「けがに注意」が重要な冬の時期の高齢者のくらし

美容室を出て急いで家に戻ったのが午後1時過ぎ。母の部屋に入り、ベッドのあたりを確認してみると、やはり……。この前取り出したばかりの電気毛布を使った形跡があった。スイッチだけを切り、コ-ドを丸めて布団の端に雑に片づけてあったのだ。

今朝、何事もなかったようにふるまっていたのは、母の自尊心からだろうか。でも、週に一度、運動やさまざまなレクリエーションをする機会でもあるデイサービスの日に充分に活動できない状態でいるのはもったいないことだ。また、今だって外出や運動の機会が減っている母の今後においても、そんな状態はデメリットしかないはず。これはちょっと気を付けなければ、と考えを改めた。

そして16時過ぎ、何事もなかったかのように母が帰宅した。以前ならここで母にやけどのことを問い詰めるようにしたはずの聖子だが、あえて何も知らない体で迎えることにした。ただ、やけどの傷自体は気になるので、受診することにした。近所のクリニックなら受付終了時間にまだ間に合う。
「お母さん、肌がカサカサするって言ってたでしょ? 近くだし、受診して保湿剤をもらっておこう」とつとめて明るい調子で話しかけ、近所の、皮膚科と外科を併設したクリニックに向かった。

少し認知症気味で活動もひきこもりがちだということをよくわかってくださっている、クリニックの先生。けやどは幸いそれほど深い傷には至っていなかったけれど、冬はこういった寝具周りの暖房器具での低温やけどやその長時間使用による脱水症などの心配もあるので、周りの家族がよく配慮するように、とのこと。今後どう対策しようか、また頭を悩ませる問題ができてしまった。

3. 弟から見た母

やけど騒ぎの翌日、東北に住む弟から母あてに荷物が届いた。3つ違いの妹よりさらに2歳下の末っ子で、家電メーカーに勤めており、3年前に転勤になった。開けてみると、自分の勤めるメーカーの商品で、ヒーターのようだった。こうやって、たまに自社製品をプレゼントしてくれる弟。離れていて、ふだんの世話ができないことへの埋め合わせのつもりなのかもしれないが、母にとっては末っ子の息子はいくつになってもかわいいもののようで、すぐに開封し、うれしそうな表情を浮かべている。

母宛てとはいえ、この家で使えそうなものをもらって黙っているわけにもいかないので、夜7時すぎ、弟にLINE電話で連絡をしてみた。まだ仕事中なのか、何度か不通となり、折り返しがあったのが午後8時過ぎ。母はすでに入浴も夕食も終え、ソファに座ってぼんやりバラエティー番組を観ていた。まずは母に代わる。母はうれしそうに弟の体を気遣い、「ちゃんとごはんは食べているの?」と何度も聞いていた。

それでも5分ほど弟と電話で話すと疲れたのか、母はスマホを私に押し付けるようにして「寝る」と自室へ消えてしまった。
「なんかあったの? 急に“もういい”って」と電話の向こうで訝しむ弟。
なんというか、前とちがって、集中力が持続できない時が多くなってきてるのよね……と話す。するといきなり弟が話し出す。
「冬はさ、ヒートショックが怖いから。お母さんだけじゃなく、お姉ちゃんもね。もう歳なんだから特にね。脱衣場に置いて使ってみてよ、あのヒーター」

そういうことなんだ。ヒートショック。確かにこの時期になるとテレビの情報番組なんかでよく取り上げられる話題よね。
「ところで、年末はこっちに帰って来られるの?」
「うん、たぶん。ギリギリか、明けてからかもしれないけど」
最近は混雑を避けて世間の大勢の人の移動と時期をずらして動く弟。毎日母を見ておらず、お正月やお盆の時期くらいしか顔を合わせることのない弟にとって、母の状態はどう映るのだろう。そんなことを思いながら、しばし他愛のない話を続けた。


▼前回の記事
軽度認知障害の母と同居して1年。ケアラー山内聖子の独り言



この記事の提供元
Author Image

著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

関連記事

シニアの体型とライフスタイルに寄りそう、 2つの万能パンツ

2022年7月23日

排泄介助の負担を軽減!排尿のタイミングがわかるモニタリング機器とは?

2022年9月23日

暮らしから臭い漏れをシャットアウト! 革新的ダストボックス

2022年9月5日

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする