介護ロボットと聞くと、ロボットに身を委ね、人間が機械に操られるようなイメージを抱くかもしれません。しかし介護ロボットは、あくまで人が行う介護をサポートする存在です。被介護者の移乗や排せつ、入浴といった介助や見守りなど、介護者の負担を軽減し、利用者の安全と安楽な生活をサポートする役割を担います。
本記事では、介護ロボットの基本的な仕組みや種類、導入のメリット・デメリットについて解説し、今後の連載で具体的な製品や活用事例を紹介していきます。
介護ロボットとは、ロボット技術を活用し、利用者の自立支援と介護者の負担軽減を目的とした機器のことです。ロボット技術とは、以下の3つの要素を持つ技術のことをいいます。
●センサーで状況を感知する
●情報を解析する
●適切な動作を実行する
移乗や排せつ、入浴、見守りなどの場面で幅広く活用され、自宅や施設で生活する高齢者の課題解決のための重要な技術として注目されています。
介護ロボットが注目されている背景には、急速な高齢化に伴う介護ニーズの増加と人手不足が挙げられます。この問題に対処するため、介護ロボットは、介護者の身体的・精神的負担を軽減し、利用者の自立支援や生活の質向上を目指す技術として期待されています。
また、国や自治体は介護ロボットの導入を支援する補助金制度を設けており、普及を後押ししています。例えば、東京都では介護ロボット導入費用の最大3/4〜7/8を補助する制度が提供されています(※1)。
※1 参考資料:介護現場改革促進等事業 令和6年度次世代介護機器導入促進支援事
介護ロボットは、利用者の自立を支援し、介護者の負担を軽減するためにさまざまな場面で活用されています。厚生労働省は、介護ロボットの普及促進のため、「ロボット技術の介護利用における重点分野」を示しています。
ここでは、在宅介護で活用される「移乗介護」「移動支援」「見守り・コミュニケーション」「排せつ支援」「入浴支援」の5つのカテゴリーについて解説します。
●移乗介護
移乗介護ロボットは、ベッドから車椅子、車椅子からトイレなどの移乗を支援し、介護者の腰への負担を軽減するために開発されました。移乗介護は頻繁に行われる動作であり、負担が大きいといわれています。移乗介護ロボットには、介護者が装着して使用する「装着型」と、利用者の移乗を直接支援する「非接触型」があります。
●移動支援
移動支援ロボットは、歩行が困難な高齢者の転倒防止や歩行サポートを目的に開発された機器です。屋内外での移動を補助し、安心して歩行できる環境を提供します。
移動支援ロボットには、使用する場面によって3つの種類があります。
・屋内用:トイレへの往復やトイレ内での姿勢保持をサポート
・屋外用:坂道やでこぼこな道での歩行や荷物運搬を支援
・装着型:利用者が膝や腰に直接装着し、スムーズな歩行をサポート
移動支援ロボットを活用することで、転倒リスクを軽減させるだけでなく、外出の機会を確保することが期待されています。
●見守り・コミュニケーション
見守り・コミュニケーションロボットは、センサーで利用者の状態を確認し、安全を確保します。また、コミュニケーションがとれる介護ロボットは、利用者の孤立防止や認知症の進行予防など、精神的なケアを目的としています。
・見守り:ベッドに内蔵されたセンサーが呼吸状態や睡眠状態を観察し、移乗時は通知する。他には、カメラや外部通信機器が内蔵されており、介護者が常にそばにいなくても状態を確認できる。
・生活支援:コミュニケーションがとれる介護ロボットで、会話や声かけ、見守り機能など、生活を支援する機能が搭載されている
●排せつ支援
排せつ支援ロボットは、排せつに関する介護をサポートするロボットで、具体的には以下の3つに分類されます。
・排尿タイミングの予測
・排せつ物の処理
・トイレ内でのズボンの着脱
排尿のタイミングについては、膀胱の膨らみを超音波で感知することで、タイミングに合わせたトイレ誘導ができるようになります。また、設置場所を調整できるポータブルトイレを使用すると、「排せつ物を袋に密閉し、臭いを漏らさずに室外へ運び出す」といった効率的な排せつ物の処理が可能です。さらに、トイレ内の着脱動作をサポートする機器の開発も進められています。
●入浴支援
入浴支援ロボットは、浴槽への出入りを安全に行うための機器です。電動の昇降シートに座り浴槽へ出入りするため、安全に入浴できるだけでなく、介護者のひざや腰への負担軽減にもつながります。リモコンで操作できる機器もあり、本人が自分で操作することも可能です。
介護ロボットの導入は、介護者と利用者双方の負担軽減に役立ちますが、コストや操作性などの課題もあります。ここでは、介護ロボットを導入する際のメリットとデメリットについて整理しています。
●介護ロボットを導入するメリット
介護ロボットを導入する最大のメリットは、介護者の身体的な負担を軽減できる点です。例えば、移乗介助の際にパワーアシストしてくれる機器を使用することで、介護者は少ない力で介助できるようになります。
また、利用者側の心理的負担も軽減され、「申し訳ない」という気持ちや排せつ介助時の恥ずかしさを和らげることができます。さらに、センサーで収集したデータや映像を活用することで、トイレ誘導のタイミングや健康状態を把握できます。
●介護ロボットを導入するデメリット
一方で、介護ロボットの導入には初期費用や維持費がかかり、自治体の補助金を活用しても自己負担が生じることがあります。また、設置スペースを確保する必要があるため、狭い住宅では設置が難しい場合もあります。加えて、操作方法を覚えるのに時間がかかる場合があり、リモコン操作やセンサーが反応する音に慣れるまで戸惑うケースも考えられます。導入時には、利用者への十分な説明が必要です。
介護ロボットは「人間の代わり」ではなく、「良きパートナー」として、介護者の身体的負担を軽減し、利用者の自立心や尊厳を守る役割を果たします。2025年4月からは機能訓練支援や食事・栄養管理支援、認知症ケア支援が重点分野に加わることが決まっており、さらに幅広いサポートが期待されています。
今後の連載では、具体的な製品や活用事例を詳しく紹介していきます。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。