トラベルライターの間庭典子が提案するデスティネーション(旅先)は地元、荻窪。2024年の秋、昭和の戦前期に三度にわたって首相を務めた近衞文麿の旧宅だった荻外荘も公開され、大田黒公園、角川庭園とあわせて荻窪三庭園として話題です。灯台下暗し。地元こそ穴場の観光地でした。

1. ご近所の大田黒公園が荻窪の新名所となり、地元の魅力を再発見

いつの間にか、自宅の前の人通りがやけに多くなっていました。本格的なウォーキングのようなスタイルの高齢者の姿もちらほら。家から歩いてすぐの日本庭園「大田黒(おおたぐろ)公園」が、遠くからも観光客が訪れる観光名所となっていたのです。



写真上:樹齢100年以上のイチョウ並木が70m続く公園の入り口。この奥に回遊式日本庭園がある(提供:荻窪三庭園)。


大田黒公園が開園したのは1981年。もともとドビュッシーやストラヴィンスキーなどを広めた、日本における音楽評論家の草分け的な存在である大田黒元雄氏のお屋敷があった場所でした。見事なイチョウ並木が続くその先には、池を囲む回遊式日本庭園があります。ゆるやかな起伏をそのまま生かした造りで、散策するにはちょうどいい広さ。敷地内には大田黒氏が仕事場とした洋館がそのまま残され、内部を見学できます。重厚な調度品、愛用していた蓄音機やグランドピアノも保存され、当時の生活がしのばれます。ときにはクラシックコンサートが催されることも。茶室は杉並区の施設として貸し出されており、茶道のお稽古風景が見られるなどなかなか優雅な場所なのです。池の前には東屋があり、錦鯉を上から見下ろすのも趣あり。うれしいことに入園無料。自宅からすぐの徒歩圏内なので、散歩がてらよく訪れています。

2. ライトアップで全国区となった大田黒公園は絶好の散策コース

大田黒公園の知名度が全国区になったのは、ライトアップにより、紅葉の名所として知られるようになってからでしょう。テレビなどのメディアで紹介されるようになってから、多くの観光客が訪れるようになりました。その期間(昨年は11月30日~12月8日)、夜のライトアップの時間帯は300円の入園料が必要となりますが、それでも列をなすほどの人気です。池に反射する真っ赤な紅葉が鮮やかで、まるで絵画のような光景。一見の価値ありです!


太田黒公園の紅葉ライトアップ
写真上:12月の初旬に開催される大田黒公園の紅葉ライトアップ。池に反射した真っ赤な紅葉で鮮やかに。


春には桜が、夏には新緑が、そして冬の時期には澄んだ青空とのコントラストが美しく、四季を通じて見どころの多い日本庭園です。

荻窪にはこの近くにも角川書店の創業者、角川源義氏の旧邸宅を整備した「角川庭園」という四季折々の木々や草花を楽しめる庭園があります。角川氏は俳人でもあったため、展示室や貸室のある「幻戯山房(すぎなみ詩歌館)」では、俳句講座などのイベントも開催しています。そんな文化施設がかつての通学路にあるなんて、灯台下暗しとはこのことです。

3. 歴史の1ページを刻んだ「荻外荘」も2024年年末から一般公開

そして2024年12月、近衞文麿の旧宅である「荻外荘(てきがいそう)」も公開されました。観覧券は一般300円、小中学生は150円ですが、20名以上の団体や、定期観覧券などの割引もあります。荻外荘は歴史ファンにとっては重要な、昭和戦前期の政治の転換点となった史跡。荻窪会談をはじめ、重要な会議が行われた客間も、家具や壁紙、飾られている調度品まで当時の資料を参考に再現しています。テーブルクロスは、写真に残された資料をもとに、当時の織り方を参考に復原されたと聞き、驚きました。


荻外荘の復元された客間
写真上:壁紙から家具、装飾品までを復原した客間。ARでは会談に参加した要人の姿もビジュアル化。


記者会見の場となった応接室、芝生広場を見渡せる広縁や食堂、そして近衞文麿が自決した書斎も公開されています。建築様式や見どころなどをガイドさんがわかりやすく解説してくれるのもうれしい。杉並区による復原プロジェクトの道のりを解説した動画など、様々な角度から荻外荘の歴史を伝えています。荻外荘の客間や広縁にはタブレットが設置され、画面をかざすと会談の参加者の姿やプロフィール、広縁の大開口から見下ろした当時の風景を見ることができます。空間を眺めるだけではなく、歴史を学べる施設でもあります。

4. 2025年の夏には隈研吾氏が設計した展示室に加え、カフェ・ショップもオープン予定

2025年の夏には敷地の道を挟んで向かいの位置に、展示棟(展示室とカフェ・ショップ)がオープンするのだそう。この建物は隈研吾氏による設計で、現在建築中。今からどんなデザインになるのか楽しみです。それまでは荻外荘別棟(建物内)が喫茶室となっています。お庭を見ながらゆっくり過ごせて、期間限定の営業なので逆にレア。カフェがオープンする前にぜひ訪れて。杉並区内の人気店のお菓子とお茶のセットを、昭和レトロな空間で味わい、くつろげます。


 萩外荘別棟の喫茶室の加賀棒茶とジンジャーケーキ
写真上:萩外荘別棟に期間限定でオープンしている喫茶室。荻窪ゆかりのお菓子を楽しめる。


私が選んだのは加賀棒茶とエイミーズ・ベイクショップのジンジャーケーキの組み合わせ。ショウガの味が想像以上にしっかりしていて、美味! コーヒーよりもむしろ日本のお茶にあう、ほっとする味でした。ほかにスノーボールクッキーや珈琲味の羊羹、最中など、和洋折衷のこの空間と調和するお菓子ばかり。無になりたいとき、自分と向き合い考えごとをしたいときにはぴったりな喫茶室です。併設されたショップには、絵葉書や手ぬぐい、マスキングテープなどのグッズや書籍などが並んでいます。

5. 荻窪駅から周回するグリーンスローモビリティでさらに便利に

さらには「荻外荘」のオープンにあわせて、杉並区によるグリーンスローモビリティ、略称「グリスロ」が本格的に運行開始されました。これは時速約20km未満で公道を進むことができる電動車を活用した移動サービス。ゴルフ場のカートのような5人乗りのカート型と7人乗りのバス型があり、車両が小さいので細い路地でもスイスイ。のどかにとことこと進むのでアクティビティ気分で乗車できます。1日に24便、荻窪駅西口から南側地域の約2.5kmを周回しています。料金は距離にかかわらず1回の乗車につき100円。未就学児は無料です。

駅から住宅エリアをつなぐ移動手段としても注目されているグリスロは、荻窪三庭園めぐりにも最適。駅から大田黒公園、荻外荘のそれぞれで停車し、そこから角川庭園までも徒歩ですぐです。ウォーキングに挑戦しつつ、ちょっと疲れたら乗ってみるのもおすすめです。

荻外荘広縁のイメージ

写真上:当時の建具のデザインなども雰囲気があり、レトロ建築好きにはたまらない広縁の大開口。


それにしてもいつのまにか我が地元、荻窪がこんな観光スポットになっていたとは! 荻窪ラーメンや通なスパイスカレー、気軽な飲み屋も点在している街なので、ウォーキングに挑戦するにはおすすめです。昭和レトロな空気を感じながら、荻窪散策はいかがですか?



荻窪三庭園公式HP

この記事の提供元
Author Image

著者:間庭典子(まにわのりこ)

中央線沿線の築30年以上の一軒家に後期高齢者の両親と同居する50代独身フリーランス女子。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「mc Sister」編集者として勤務後、渡米。フリーライターとして独立し、女性誌など各メディアにNY情報を発信し、「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」(講談社)などを発行。2006年に帰国し、現在は日本を拠点に、旅、グルメ、インテリア、ウェルネスなど幅広いテーマの記事を各メディアへ発信。旅芸人並みのフットワークを売りとし、出張ついでに「研修旅行」と称したリサーチ取材や、さびれた沿線のローカル列車で進む各駅停車の旅を楽しむ。全国各地の肴を味わえる地元の居酒屋やスナックなどの名店を探すソロ活動も大好き。

関連記事

シニアの体型とライフスタイルに寄りそう、 2つの万能パンツ

2022年7月23日

排泄介助の負担を軽減!排尿のタイミングがわかるモニタリング機器とは?

2022年9月23日

暮らしから臭い漏れをシャットアウト! 革新的ダストボックス

2022年9月5日

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする