「エイジズム」という言葉を知っていますか? これは年齢に対する偏見や固定観念、差別のことで、年を重ねることに対するネガティブな表現です。セクシズム(性差別)、レイシズム(人種差別)と並ぶ差別問題のひとつとされています。

エイジズムのない社会へ向けた第一歩は異なる世代の人との対話です。しかし、家族や親戚以外でそれを実現することが難しい方も多いでしょう。

参加型のエンターテイメント「ダイアログ・ウィズ・タイム」は多世代の人と対話ができる貴重な場になっています。今回はその特別ワークショップの様子を取材しました。

1. アテンド(案内人)は75歳以上の高齢者

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、現在①「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、②「ダイアログ・イン・サイレンス」、③「ダイアログ・ウィズ・タイム」を3本柱に体験型のエンターテイメントを運営しています。

①では視覚障害者が案内人となり「見えない」空間を体験、②では聴覚障害者が案内人となり、「聞こえない」空間を体験します。①~③のテーマに共通する「ダイアローグ(dialogue)」とは「対話」のことです。③の「ダイアログ・ウィズ・タイム」は「未来に会いに行こう。」がキャッチコピー。75歳以上の高齢者がアテンド(案内人)となり、参加者と世代を超えて「対話」します。

そもそも「ダイアログ・ウィズ・タイム」は2012年にイスラエルで開催されて以降、ドイツ、スイス、フィンランド、台湾、シンガポールと世界各地で展開。日本では2017年にプレ開催され、2019年と2024年に開催されてきました。

2024年4月~7月に開催された際にプログラムの体験前後・実施されたアンケートでは、年を重ねることについて、体験前は「不安だ」と答えた人が62.5%だったのに対し、体験後は24.9%に減少し、ポジティブなイメージに変わったことが示されました(*)。この成果を踏まえ、2025年春に「ダイアログ・ウィズ・タイム」が再び開催されることになりました。

開催に先立ち2024年10月27日に特別ワークショップが行われると知り、取材に伺いました。


*参考:「体験すると「老後の不安が減った」という効果測定を発表。ダイアログ・ウィズ・タイム2024を振り返る」

2. 参加者のうち、最も多いのは40代~50代のケアラー世代

会場は「ミーティングスペースAP浜松町」(東京都港区)。年代や性別が似通った人が集まるイベントは多くありますが、この日会場に集まった参加者の顔ぶれはじつにさまざま。

ダイアログウィズタイム:看板

広報担当者の関川さんによると、長野や京都など遠方から来た人もおり、最年少は7歳、最年長は88歳。参加者が最も多いのは40代~50代だとか。

40代~50代は親の介護を考え始めたり、すでにケアラーとして親の介護をしながら生活している人もいます。また、そう遠くない未来として、自らの高齢期に思い巡らす年代でもあります。

会場に入ると年齢も性別もさまざまな参加者が自分のニックネームを書いたシールを貼って車座で椅子に座っています。

当日の進行役は「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」代表の志村季世恵さん。会場の参加者に「こんにちは」と手話で挨拶をする志村さんからこの会場には車椅子を使っている人、目が見えない人がいることが告げられます。参加者には目が見えない人に合わせ、拍手で意思表示をするよう伝えられました。

続いて、参加者同士で自己紹介をし、AからIまでの9つのグループに分かれてのグループワークが行われました。各グループのメンバーは性別、年代もさまざまで、「自分にとっての宝物」「小学生の頃はどんな本を読んでいたか」といったテーマで対話。話が盛り上がり、あらかじめ設けられていた時間の「延長」を希望するグループもありました。

ダイアログウィズタイム:自己紹介
ダイアログウィズタイム:グループワーク

イベントの後半では、前回の「ダイアログ・ウィズ・タイム」でアテンド(案内人)をつとめた75歳以上の方々のお話を参加者全員で聞く時間がありました。

「職場の仲間とコミュニケーションを深める場」として、現在はランチに行くなどの意見があった一方、75歳以上の男性からは飲酒が主目的の「宴会」が頻繁に行われていたとのことで、当時の「宴会芸」だった「安来節」(どじょうすくい)の踊りを披露。参加者もその真似をして踊り、会場が和やかなムードに包まれました。

ダイアログウィズタイム:どじょうすくい

3. 多世代が集う場で戦争体験が語られる意義

一方、88歳の女性からは6歳のときに空襲に遭ったことなどの戦時中の体験が語られました。終戦後は引き揚げで日本に帰国しましたが、北京で暮らしていた当時は食べ物の配給があったそうです。

会場には戦争を知らない世代の人も多く、とくにこれからの未来を担う世代がこうした体験を直に聞くことの意義を強く感じました。

社会的にみると三世代世帯の割合は減少の一途を辿り、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、1986年には15.3%だったのに対し、2019年には5.1%となっています。

一方、高齢者にとって多世代が集まる場に参加することは若々しさを維持し、日々の生活に活気をもたらすようです。「ダイアログ・ウィズ・タイム」でアテンド(案内人)をつとめた方々の集合写真でも若々しい笑顔が印象的でした。

司会の志村さんは「88歳」を「レベル88」と表現していましたが、「ダイアログ・ウィズ・タイム」では年を重ねることを前向きに、肯定的に捉えていました。

多世代が集う場がもっと増え、「エイジズム」で苦しむ人が減っていくことを期待します。

※2025年のダイアログ・ウィズ・タイムは4月より開催予定です。チケット発売等の情報は【ダイアログ・ウィズ・タイムのホームページ】まで

多世代が集う場で戦争体験が語られる意義
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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