低栄養状態で特に注意が必要なのが、水分の不足です。食事量が減ると、当然ながら食事からとれる水分量も減少します。また、高齢になると、のどの渇きを感じにくくなる傾向があり、水分をとる必要がないと思ってしまう人も少なくありません。脱水を防ぎ、熱中症の予防にもつながる対策について解説します。
水分は、栄養や酸素の運搬、老廃物の排出、体温調節など、体の重要な機能を支える役割を担っています。高齢者は若い人に比べて体内の水分量が少なく、脱水を起こしやすいといわれています。重度の脱水になると意識障害など命にかかわる危険もあるため、早めの対策が重要です。
高齢者はのどの渇きを感じにくくなる傾向があり、「のどが渇いていないから水分を とらなくてよい」と考えてしまう人もいます。また、発熱や下痢などによって水分が大量に失われる場合もあり、特に注意が必要です。老化により、暑さを感じる機能も低下するため、暑くても室温を下げずに脱水や熱中症になることもあります。さらに、嚥下障害がある場合は、低栄養だけでなく脱水症にもなりやすくなります。脱水の主な原因と兆候をチェックし、早めに対応するようにしましょう。
【脱水の主な原因】
・食事量の減少
・加齢による体内水分の減少
・のどの渇きの感じにくさ
・体内の水分調整機能の低下
・トイレを気にして水分摂取を控える
・発汗、発熱、下痢、嘔吐による水分喪失
【脱水の主な兆候】
・皮膚や唇、口腔内の乾燥
・食欲不振
・トイレの回数、尿の量が減る
・体温の上昇
・汗をかかない
・脇の下が乾いている
・だるそうでいつもと様子が違う
・横になってばかりいる
のどの渇きを感じなくても、定期的に水分をとる習慣をつけましょう。1日に最低限必要な水分量の目安は、食事に含まれている水分量も合わせて、以下のとおりです。
必要水分量(mL)=30(mL/kg)×現在の体重(kg)
※体重が50kgなら、30×50=1,500mLが目安になります。
一度に大量に飲むのではなく、朝起きたら水をコップ1杯(約200mL)、朝食後にお茶を1杯など、1~2時間ごとにこまめにとりましょう。特に夏は午前中から水分補給を意識し、常に飲み物を手元に置いておくことをおすすめします。
夜間頻尿を気にして、夕方以降の水分摂取を控える人もいますが、水分不足は夜間の脳卒中のリスクを高めることもあり、注意が必要です。朝から夕方にかけて適切に水分をとり、夜間の脱水を防ぎましょう。ただし、腎臓病で水分制限のある人、むくみのある人は医師の指示に従ってください。
高熱や下痢、暑さなどで脱水の危険があるときは、経口補水液を使うのもよいでしょう。市販のペットボトル製品のほか、自宅でも、「湯冷まし1Lに対して、食塩小さじ1/2、砂糖大さじ4と1/2」を溶かせば、簡易的な補水液が作れます。
夏は食欲が低下しやすく、特に高齢者にとっては体力低下の原因となります。火を使わない簡単なメニューや、さっぱりした食事が中心になりがちですが、そうめんやパンなどだけでは、たんぱく質が不足し、低栄養を招きます。下記のような簡単にたんぱく質を補える食材を朝や昼にとるとよいでしょう。また、みょうがやしょうがなどの香味野菜、夏野菜を活用すると、食欲増進に役立ちます。
【簡単にたんぱく質を補える食材例】
ゆで卵、豆腐、チーズ、ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、さつま揚げ、コンビーフ、ツナ缶、さば缶など
水分補給も大切ですが、水ばかりをとりすぎると血液中のナトリウム濃度が下がり、だるさや意識障害を招く「低ナトリウム血症」になることがあります。麺類の汁や冷や汁などを飲むことで塩分も補いましょう。
ただし、冷たいものをとりすぎると、胃腸が弱って食欲がさらに低下するため、冷たい料理や飲み物は常温でとるように心がけましょう。冷たい麦茶やアイスクリームなどのとりすぎには注意しましょう。
つい飲んでしまいがちな清涼飲料水は糖分が多く、その分解でビタミンB1、B2を消費してしまいます。そのためエネルギーがうまく作り出せなくなって、夏バテの原因となります。水分補給によく用いられるスポーツドリンクはナトリウムの補給にも役立ちますが、糖分が多く含まれるので飲みすぎないように注意してください。脱水を起こしそうな場合は、水分や塩分が効率よく吸収される経口補水液が有効です。
熱中症は、体温調節がうまくできず、体内に熱がこもって起こる障害の総称です。高齢者は暑さや渇きに鈍感になり、水分補給や体温調節が不十分になりがちです。症状の初期は「めまい」「立ちくらみ」「こむら返り」などで始まり、進行すると「倦怠感」「頭痛」「吐き気」、さらに「意識障害」「発汗停止」などの重症化もあります。
熱中症は大量の汗をかいたときに発症しやすくなりますが、これは主に若い人の炎天下での労働やスポーツによるもので、労働環境などの見直しが進んだことから最近では減少しています。一方でふえているのが、高齢者の熱中症です。熱中症で搬送された人の半数以上(57.4%)が65歳以上の高齢者であり、発生した場所は住居が約4割で最も多くなっています。暑さを自覚しにくい高齢者にこそ、室内での熱中症対策が求められます。
高齢者は前述のようにうまく体温調節がしにくい傾向があり、のどの渇きにも気づきにくいため、水分補給が少なくなりがちです。さらに血液循環の悪さから、自覚症状がないまま熱中症が進行してしまうケースもみられます。
アルコールには利尿作用があり、飲酒によって体内から水分が排出されやすくなります。暑い季節や入浴後は汗や体温調節で水分が失われやすい状態になっているので、お酒を飲むときは注意しましょう。お酒 と一緒に水やお茶などもとり、適量を楽しみ、度を越さないように注意しましょう。以下が1日の適量の目安です。医療機関に通っている場合は、主治医に相談しましょう。
・ビール 中瓶1本(500 mL)
・日本酒 1合(180 mL)
・焼酎 0.6合(約110 mL)
・ウイスキー ダブル1杯(60 mL)
・ワイン グラス2杯弱(約180 mL)
また、コーヒー、紅茶、緑茶、ハーブティーなどは気分転換になり、食欲増進にもつながります。ただし、コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるカフェインには覚醒・利尿作用があるので、飲みすぎや就寝前の摂取には注意が必要です。
高齢者の場合、水分量の低下とともにミネラルも不足しがちです。食塩が少しとれるようなスープ、味噌汁、すまし汁などの汁物、さらに栄養補給も兼ねた間食として、牛乳、ヨーグルトドリンク、甘酒、果物などをとるのも有効です。
著者:中村育子(なかむら・いくこ)
名寄市立大学保健福祉学部栄養学科教授
管理栄養士、在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員。静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程修了。 医療法人社団福寿会慈英会病院在宅診療部栄養課課長。一般社団法人日本在宅栄養管理学会副理事長。『やわらかく、飲み込みやすい 高齢者の食事メニュー122』(ナツメ社)、『75歳からのラクラク1品栄養ごはん』(扶桑社ムック)など、著書多数。