2025年秋からMySCUE品川シーサイド店で月に一度開かれているMySCUEカフェ。おしゃべりやゲームをきっかけに、認知症や介護の悩みを自然に語り合える場です。地域と専門職をつなぐ取り組みと、そこに込められた思いをレポートします。
MySCUE品川シーサイド店では、2025年8月から毎月第4金曜日の16時より、認知症カフェ「MySCUEカフェ」を開催しています。
認知症カフェ(別名「オレンジカフェ」)は、認知症のある人やその家族、地域住民、そして看護師や介護福祉士といった専門職が気軽に集い、交流や相談ができる場です。認知症への正しい理解を広めるとともに、地域での孤立を防ぎ、住み慣れた場所で安心して暮らし続けることを目的としており、多くの場合、介護福祉士などの専門職が運営をしています。
「カフェ」と名前が付いている通り、堅苦しい学びの場ではありません。また、毎回決まったプログラムがあるわけでもなく、運営を担うファシリテーターを中心にその時々でテーマや内容が決められます。時と場合によっては歌やゲームなどのレクリエーションやお茶会などが行われており、自由度の高い集いなのです。
MySCUEカフェでは、福祉事務所ランタンの木村誠さんがファシリテーターを務め、アットホームな雰囲気の中で参加者同士の自然な交流が生まれています。店舗スタッフや店舗で毎月介護相談に応じている介護福祉士の丸朋子さんにもサポートに加わっていただいています。
2026年1月23日に開催されたMySCUEカフェでは、昨年のイベント「RUN伴しながわ」のゴールイベントへの参加をきっかけにご縁が生まれた、慶應義塾大学・飯盛研究室の学生、大内雄翔さんが試作したボードゲーム「品川区まち巡りDICE」が持ち込まれました。この日は木村さんや大内さんを含めた計5名の参加者ですごろく形式のゲームを楽しみました。
「品川区まち巡りDICE」は、MySCUEがあるイオンスタイル品川シーサイド周辺を中心に、大井町や中延などの広範な品川エリア内のさまざまなスポットをボード上に配置した「人生ゲーム」型のボードゲームです。参加者はサイコロを振り、出た目の数だけコマを進めていきます。
コマは、大内さんが大学の3Dプリンターで制作した人物型のオリジナルデザイン。さらに、おもちゃの紙幣や「ストレス」「徳」「つながり」といったカードやお金やカードも併せて楽しむように設計されています。サイコロの出目だけでなく、ボードに記された言葉によって、お金やその他の価値の取引きも行われ、さらに進む方向を選べるインタラクティブな作りは、その時々の選択で展開が変わるという凝ったものとなっています。
ボードには地域の店舗や目印となる建物、公園、川沿いの散策路など、さまざまなスポットが描かれており、「こんな場所があったんだ」と新たな発見につながる場面もありました。また、品川区内の介護関連施設や高齢者向けサービスにも触れられており、MySCUEらしい視点が随所に盛り込まれています。これらは大内さんが実際に街を歩いたり、介護にまつわる情報も含め、さまざまな方法で行った調査の結果、ゲームに反映されたものです。
ゲームは約1時間以上にわたって行われました。ゴールを競う単純な双六とは異なり、結果は手もとに残った紙幣やカードで得点を計算するというもので、少々複雑ではありますが、新鮮な楽しさがありました。また、ゲームを楽しんだ参加者からは、スポットの選び方やルールについて多くの意見やアイデアが飛び出しました。大内さんは、これらの声をもとに内容をブラッシュアップし、春頃の完成を目指しているとのこと。完成版への期待が高まります。
和やかな雰囲気の中で進行した今回のMySCUEカフェ。一見すると、大人同士がボードゲームを楽しんでいるだけのようにも見えます。しかし、コマを進める合間に、参加者から自然と介護にまつわる話題がこぼれる場面もありました。そうした話を木村さんが丁寧に拾い、補足やアドバイスを添えることで、安心して語り合える空気が生まれていました。
MySCUEカフェは、特別な準備や心構えがなくても、「ちょっとおしゃべりをしに来た」という感覚で参加できる場所です。気軽な交流の中で、必要な情報やつながりが自然と得られる――そんな場として、これからも地域に根ざした取り組みを続けていきます。
品川シーサイド店のオープンから1年あまり。店頭ではセミナーや商品の体験会、介護相談などさまざまなイベントを実施してきましたが、認知症カフェの運営というと、より深くシニアケア~介護の領域に踏み込んだように思えます。木村さん、そしてカフェをサポートしてくれている介護福祉士の丸さんという、スタッフをリードしてくれる頼もしい存在がいてこそ実現できたイベントといえるのではないかと思います。ということで、MySCUEカフェの運営をして下さっている木村さんにもじっくりお話を伺ってみました。
介護の悩みは、家族だけで抱え込まれやすい問題ですが、制度や専門職との橋渡し役として活動しているのが「福祉事務所ランタン」代表である木村さんです。まずは老人ホーム施設長としての経験を経て独立した背景や、現在取り組んでいる支援活動、そしてMySCUEとの関わりについて伺いました。
●介護保険につながらない人がいる――現場で感じた違和感
木村さんが独立を考えるきっかけになったのは、老人ホーム施設長時代の経験でした。当時、さまざまな団体からの依頼を受け、認知症サポーター講座の講師を務めていた木村さん。講座後に地域の参加者から多くの質問を受けました。しかし、その内容は想像していたものとは違っていたといいます。
「認知症の方への接し方ではなく、『どんな制度が使えるのか』『介護費用はどれくらいかかるのか』という相談が多かったんです」
さらに驚いたのは、すでに家族の介護をしているにもかかわらず、介護保険制度につながっていない人が少なくなかったことでした。制度にアクセスできないまま介護を抱え込むと、心身の負担が大きくなり、虐待や介護殺人といった深刻な問題につながる可能性もあります。
「そこに何か自分が関われないかと思ったのが、独立の原点でした」
●介護とお金、両面から支えるため、FP資格を取得
木村さんは2016年頃に独立。介護相談に対応する中で、制度だけでなく金銭面の相談も多いと実感し、ファイナンシャルプランナー資格も取得しました。そして2023年、「福祉事務所ランタン」を設立。一般の人や企業の介護・認知症に関する困りごとを支援する活動を本格化させました。
現在の主な活動は、研修講師としての活動と相談役・顧問などの伴走支援の2つに分かれています。対象は一般企業、医療・介護従事者、一般住民と幅広く、年間約80件の研修を実施しているそうです。
また、研修のみで終わらず、コンサルのようなかたちで継続的に支援するケースも増えています。企業の相談窓口の運営支援や、寺院での高齢者対応の相談など、地域に根差した支援を行っています。
●専門家をつなぐ「四次元ポケット」のような存在に
介護の悩みは、医療・法律・金銭・制度など複雑に絡み合います。そのため木村さんは「一人で解決しない」支援を大切にしています。
また、全国の介護職や司法書士、社会福祉士などと連携し、さまざまな相談者の方に応じて必要な専門家へつなぐヨコのネットワークを構築。認知症啓発イベント「RUN伴」や地域活動も、そのネットワークづくりの一環です。
「僕が全部解決するというより、ドラえもんの四次元ポケットのように、必要な専門性につなげる存在になりたいと思っています」
●認知症への誤解は専門職の中にもある
日々の活動の中で木村さんが課題として感じているのは、認知症への理解不足です。
「一般の方だけでなく、専門職でも誤解が多いと感じます」
実際に、専門職が「アルツハイマー型認知症」等の詳しい診断名を語らず「認知症」で済ましてしまうようなケースも少なくなく、そうした説明不足の対応に疑問を持つ当事者の家族の方からセカンドオピニオン的な相談を受けることも少なくないそうです。家族が専門家の意見を安心して相談できる場は、まだ十分とは言えないようです。
●MySCUEとの出会いと認知症カフェの取り組み
木村さんとMySCUEの関わりは、MySCUE側がスタッフ向けの認知症サポーター講座の開催を相談した品川区の担当者の方が木村さんを紹介してくれたことがきっかけでした。
認知症サポーター講座を実施した後、認知症カフェの運営に意欲を示したMySCUEをサポートしてファシリテーターを担当することになりました。また、MySCUEが協賛という形で参加した「RUN伴しながわ」(2025年10月実施)でも橋渡し役を務めるなど、地域連携の取り組みにもかかわっています。
昨年夏から月一で続けているMySCUEカフェでは、MySCUEの店舗にある便利グッズについての会話やゲームをきっかけに、参加者が自然に介護について語り合える場づくりを行っています。
「(商品やサービスの)売り込みではなく、体験や雑談を通して話しやすい雰囲気をつくることを大切にしています」
当事者や家族、専門職が垣根なく交流できる場として、模索を続けながら運営しています。また、木村さんはMySCUEについて、「とても意義のある場」と考えてくださっています。
介護用品やICT機器を、メーカーのスタッフではない中立的な立場のMySCUEのスタッフが公平に紹介できる点に加え、商業施設内にあることで、買い物に来た方が気軽に立ち寄れる点がよいとも。
「相談窓口は行政にもありますが、そこまでたどり着かない人も多い。相談できる場所は多いほどいいと思っています」
●介護は大変さだけではない――関係をつなぎ直す時間
木村さんは、介護の大変さを隠さずに伝えることも大切にしています。介護職時代には、自身も現場で葛藤や失敗を経験してきたといいます。その体験を研修で共有することで、現場のリアルを伝えています。一方、介護が家族関係を変える可能性も感じています。
「手を握ったり、肌に触れたりすることの多い介護がきっかけで距離が縮まり、感謝の言葉を交わせるようになって、わだかまりが解消されることもあります」
介護には困難さと同時に、人と人をつなぎ直す力もあると語ります。
●介護の悩みを一人で抱え込まない社会へ
木村さんが目指すのは、誰もが気軽に困り事を相談できる社会です。制度や専門職と家族をつなぐ役割を担いながら、地域やネットワークを活用し、多様な支援の形を模索し続けています。
「介護の悩みは一人で抱えなくていい。そう思える社会をつくっていきたいですね」
木村さんの模索は続きます。
・MySCUEカフェ(認知症カフェ)…毎月第4金曜日、16:00~18:00にMySCUE品川シーサイド店にて実施。予約不要。
木村 誠…福祉事務所ランタン 代表。介護福祉士、介護支援専門員、FP技能士。有料老人ホームの施設長から医療介護の視点を持つファイナンシャルプランナーを経て独立。一般企業や金融機関、医療介護専門職からの依頼で研修や個別相談を行っている。定食屋きまぐれ(認知症の方がホールスタッフの料理店)等の啓発活動にも従事。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。