「朝、ベッドから起き上がろうとした瞬間、天井がぐるぐると回り出した」「洗濯物を干そうと上を向いたら、グラッとして倒れそうになった」。このような突然のめまいに襲われると、脳の病気ではないかと不安になる人も少なくありません。実は、めまいを訴える人の約7割は脳ではなく「耳」が原因といわれています。めまいの正体や危険なめまいとの見分け方、自宅でできる体操について、めまい外来でこれまで5万人以上を診察してきためまい専門医が解説します。

1. 脳じゃなくて耳? めまいの約7割は「耳のトラブル」

耳の構造

私たちは無意識のうちに体のバランスを保っていますが、その働きを担っているのが、耳の奥にある「内耳(ないじ)」です。内耳には、音を感じ取る「蝸牛(かぎゅう)」と、体のバランスをつかさどる「三半規管(さんはんきかん)」や「耳石器(じせきき)」があり、互いに隣接しています。そのため、耳にトラブルが起こると、難聴や耳鳴りを伴ってめまいが起こることがあります。

2. 50〜70代に急増!「良性発作性頭位めまい症」とは

めまいを覚えるシニア女性

耳が原因で起こるめまいの中で最も多く、全体の約3〜4割を占めるのが「良性発作性頭位めまい症」です。特に50〜70代の女性に多いのが特徴です。

最大の特徴は、頭の位置を変えたときに、ぐるぐると回るような回転性のめまいが起こることです。寝返りを打ったとき、起き上がろうとしたとき、急に振り向いたとき、上を向いたときなどに発症します。

吐き気や嘔吐を伴うこともあり、不安になる人も多いのですが、めまいは数十秒から長くても1分程度で治まります(長く続くタイプもあります)。また、耳鳴りや耳が詰まった感じ(耳閉感)、難聴などの症状は通常はみられません。

原因は、耳の奥にある「耳石(じせき)」という小さなカルシウムの結晶です。耳石器の中には、カルシウムでできた耳石がたくさんあり、これが重力や直線加速度で動くことで頭部の傾きやあらゆる方向の直線的な動きを感じ取っています。

ところが、加齢や外力などをきっかけに、この耳石の一部がはがれ落ち、隣にある三半規管の中に入り込んでしまうことがあります。頭を動かすたびにその破片が動き、三半規管内にリンパ液の流れが生じて脳に誤った情報を送ることで、めまいが起こります。

シニア女性に多い理由として、女性ホルモンの減少があります。閉経後に骨密度が減って骨粗しょう症になりやすくなるのと同じように、同じくカルシウムでできている耳石ももろくなり、はがれやすくなるのです。また、運動不足で頭をあまり動かさないでいると、はがれ落ちた耳石が三半規管の中にたまり、大きな固まりになりやすくなるため、症状を引き起こす原因となります。

3. 危険なめまいとの見分け方

倒れてしまった女性

耳が原因のめまいは命に関わることはほとんどありません。しかし、脳梗塞や脳出血などの重大な病気が隠れている場合もあります。

目(視覚)や耳(平衡感覚)からの情報や手足からの情報は、脳幹や小脳で統合処理され、体のバランスを調整しています。そのため、小脳や脳幹に出血や梗塞が起こってこれらの情報処理がうまくできなくなると、回転性めまいや、持続するふらつきが出現します。

めまいや難聴などのほかに、以下のような症状がめまいと同時に現れた場合は、脳卒中の可能性があり、命に関わることや、重い後遺症が残る恐れもあります。迷わず救急車を呼ぶか、速やかに医療機関を受診してください。

・体の片側が動かしづらい、力が入らない(まひ)
・ろれつが回らない、言葉が出ない
・物が二重に見える
・激しい頭痛や意識障害がある

4. めまいが起こったらどうすればよい?

めまいで倒れそうになっている女性

激しいめまいが起きている最中(急性期)は、部屋を暗くして静かに横になり、安静にすることが第一です。吐き気を伴う場合は、吐き気止めやめまい止めの薬を飲むことで不快な症状をやわらげることができます。

ただし、薬は症状を抑える対症療法であり、めまいの原因を根本的に治すものではありません。慢性的なめまいの改善や予防には、状態に応じて「適度に体を動かすこと(リハビリテーション)」が有効なケースが多くあります。

特に良性発作性頭位めまい症では、じっとしていると三半規管に入り込んだ耳石が停滞し、固まりやすくなります。頭を適度に動かすことで耳石の破片が分散し、元々あった耳石器に戻りやすくなると考えられています。

5. 今日から実践! 自分でできる「寝返り体操」

めまいがある人は「寝返り体操」を行ってみましょう。主に「良性発作性頭位めまい症」の改善をサポートする体操です。頭を動かすことで、三半規管に入り込んだ耳石を元々あった耳石器へ戻したり、固まりになるのを防いだりする効果があります。また、繰り返すことで中枢神経系が刺激に順応して、めまいが起こりにくくなる効果も期待できます。起床時に行うと日中のめまい予防に役立つことがあります。

体操中に一時的にめまいを感じることもありますが、これは中枢神経系が刺激に順応しようとしている過程で起こる反応と考えられます。ただし、つらいときは無理をせず中止し、ご自身のペースで行ってください。なかなか治らないようであれば、耳鼻咽喉科での受診がすすめられます。


めまい改善のための寝返り体操

①布団やベッドにあお向けに寝て10秒数える。
②寝返りを打つように体ごと左に傾けて10秒数える。
③あお向けになり10秒数える。
④寝返りを打つように体ごと右に傾け10秒数える。

POINT
・目は閉じていても開けていてもOK。
・1日2回、起床時と就寝時に行いましょう。慣れてきたら回数は増やしてOK。
・左に寝返りを打ったときにめまい症状が強い場合は右から始めましょう。
・腰が痛む人は②と④の際に、頭だけを左右に傾ける形で行いましょう。

6. めまいを防ぐための生活習慣

運動をするシニア夫婦

めまいを予防し、再発を防ぐためには、日々の生活習慣の見直しが欠かせません。シニア世代が特に気をつけたいポイントをまとめました。

●適度に体を動かし、耳石が三半規管に停滞するのを防ぐ
良性発作性頭位めまい症の最大の敵は「運動不足」です。日中ずっと同じ姿勢でテレビを見ているなど、頭を動かさない生活をしていると、耳石がたまりやすくなります。日ごろからウォーキングを取り入れたり、家事の中で積極的に体を動かしたり、首を回すなど頭を動かすことを意識しましょう。

●足腰の筋力低下「サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)」にも要注意
シニア世代のふらつきや平衡障害は、耳の不調だけでなく、加齢に伴う足腰の筋力低下(サルコペニア)や、足裏の感覚の鈍りが複合的に絡み合って起こることも少なくありません。めまい体操とあわせて、スクワットやウォーキングなどで下半身の筋力を維持することも、転倒を防ぎバランスを保つために非常に重要です。

●骨を強化する食材を積極的にとる
骨粗しょう症になると、良性発作性頭位めまい症を招きやすくなります。栄養バランスのとれた食事を基本に、たんぱく質、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKの豊富な食品を積極的にとりましょう。

7. めまいが続くときは、どこで受診すればよい?

受診風景


めまいが続く場合は、めまい相談医がいる医療機関で受診しましょう。めまい相談医は、日本めまい平衡医学会が「めまいの専門知識および基本的な診療技術を備えている」と認定した医師です。

日本めまい平衡医学会「めまい相談医一覧」

めまいは、「どのようなときに、どのようなめまいが、どれくらい起こったのか(期間や頻度)」といった問診、頭をさまざまな方向に動かしたときの目の振れ方(眼振)の検査、聴力検査、平衡機能検査などで診断します。脳出血や脳梗塞など、脳の病気を確認するために頭部のCTやMRI・MRA検査が行われる場合もあります。

めまいは決して「年のせい」だけで片付けられるものではありません。原因を正しく知り、医師の指導のもとで適切な体操や生活習慣の改善を行うことで、症状の緩和やすこやかな毎日を取り戻すことが期待できます。もし、めまいが長引く場合や強い不安がある場合は、無理をせずに耳鼻咽喉科を受診し、適切な診断と治療を受けてください。


イラスト:イマイヤスフミ
写真:PIXTA

監修:肥塚 泉先生

構成:研友企画出版


【監修者プロフィール】
肥塚 泉(こいづか・いずみ)
聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科名誉教授。1981年に聖マリアンナ医科大学医学部を卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科に入局。助手・学内講師を経て、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科へ留学し、めまい・平衡障害の研究と臨床に従事する。その後、東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科部長を経て、1995年に聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科講師、1997年助教授、2000年主任教授に就任。2022年特任教授、2025年名誉教授となり、現在に至る。
専門は、めまい・平衡障害、感音難聴などの耳科疾患。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・補聴器相談医、日本めまい平衡医学会専門会員(アクティブメンバー)・めまい相談医。
平衡感覚の加齢変化や、平衡機能障害における中枢神経系の応答機構に関する研究にも積極的に取り組み、講演やメディアを通じて「めまい疾患に対する前庭リハビリテーションの有用性」や「加齢性平衡障害対策の重要性」などを、わかりやすく発信している。


肥塚泉先生

この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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