ご家族の施設入居を考え始めたとき、多くの方がまず気にするのが費用ではないでしょうか。施設の費用は「初期費用」と「月額費用」に分かれます。ただ、施設のパンフレットに書かれた月額だけを見ていると、入居後に「思っていたより高い」と戸惑う方も少なくありません。今回は、施設入居でかかる費用の中身と、見落としやすい「想定外の費用」について、費用の例も交えて解説します。
【著者】中谷ミホ
施設入居にかかる費用は、大きく「初期費用」と「月額費用」の2つに分けられます。
◾️初期費用とは
入居時にまとまって支払うお金です。有料老人ホーム等では「入居一時金」、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)では「敷金」などと呼ばれます。
特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設では原則かかりません。一方、民間施設では0円から数千万円まで幅があります。
◾️月額費用とは
毎月支払い続ける費用です。パンフレットに「月額○○円」と記載される基本的な金額には、主に「居住費」「食費」「管理費」「介護サービス費(自己負担分)」が含まれます。
施設ごとの月額の目安は以下の通りです(※地域・要介護度により異なります)。
・特養/老健:約8万〜17万円(初期費用は原則なし)
・介護付き/住宅型有料老人ホーム:約15万〜30万円(初期費用0円〜数千万円)
・サ高住:約10万〜30万円(初期費用は家賃2〜3ヶ月分の敷金)
・グループホーム:約12万〜20万円(初期費用0円〜数十万円)
このように整理すると予算はイメージしやすくなりますが、「パンフレットに書かれた月額=実際の支払額」とは限らない点に注意が必要です。
施設の費用で多くのご家族が戸惑うのが「パンフレットの月額を見て『毎月このくらいかかる』と見込んでいたのに、実際の請求額はもっと高かった」というケースです。月額費用には含まれない「別途かかる実費」が毎月上乗せされるためです。具体的に見ていきましょう。
◾️日用品・消耗品・日々の生活費
おむつ代、食事の際のとろみ剤、口腔ケア用品やティッシュなどは多くが実費請求です。家族が補充すれば安く済みますが、こまめな在庫管理は負担が大きく、施設経由で購入して割高になるケースも少なくありません。また、テレビを持ち込む場合の電気代や外部クリーニング代、おむつ類の廃棄料が別途かかる施設もあります。
◾️医療費・薬代・通院の付き添い費
持病の治療費や薬代は月額とは別にかかります。見落としがちなのが「通院にかかる費用」です。家族が外部の病院へ付き添えない場合、施設スタッフに同行を依頼すると30分〜1時間あたり数千円の「付き添い費」が発生することがあります。介護タクシーを利用すれば運賃もかかります。
◾️上乗せ介護費
国の基準(入居者3人に対して介護・看護職員1人)より手厚い人員体制をとる施設では、その分の費用として「上乗せ介護費」が月額に加算されることがあります。手厚いケアが受けられる一方、費用は高くなる点を確認しておきましょう。
◾️理美容代・レクリエーション費
訪問理美容代や、趣味活動の材料費、イベントの参加費も実費となるのが一般的です。
筆者がシニアケアの相談を受けるなかでも、「パンフレットの月額で予算を立てていたが、入居後におむつ代や医療費、上乗せ介護費が重なり、想定より月数万円ほど多くかかった」という声を耳にします。月数万円の差でも、1年では数十万円です。こうした費用をあらかじめ見込んでおくだけで、無理のない資金計画が立てられるでしょう。
想定外は毎月の支払いだけではありません。初期費用にも、知らないと損をしかねない仕組みがあります。事前に理解しておけば、想定外の負担を防ぐことができます。
◾️入居一時金の「償却」
入居一時金は、入居時に一部を「初期償却」として差し引く場合があり、残りを一定期間かけて毎月少しずつ償却していきます。期間の途中で退去・逝去した場合は、未償却分が返還されます。
◾️短期間での退去に対する特例
入居後90日以内に退去した場合、実費を除いた初期費用が返還される「短期解約特例(クーリングオフ)」があります。「入居してみたら合わなかった」というときの備えとして知っておくと安心です。
◾️「入居一時金0円プラン」の注意点
初期費用が0円のプランは、その分、毎月の家賃相当額が高めに設定される傾向があります。長く住むほど割高になる場合もあるため、入居期間の見通しと合わせて比較しましょう。
ここまでの内容をふまえ、実際にどのくらいの費用になるのかをシミュレーションしてみましょう。
【費用の例の前提】
・要介護3の親(年金収入は月15万円)
・介護付き有料老人ホームに入居(入居一時金200万円のプラン)
毎月の費用はおおよそ以下の通りです。
・居住費・食費・管理費:約14万円
・介護サービス費(自己負担1割の場合):約2万円
(※ここまでがパンフレット上の月額=約16万円)
・おむつ等の消耗品・日用品:約1.5万円
・医療費・薬代・通院関連費:約1万円
・上乗せ介護費・その他実費:約2.5万円
→【実際の支払額】は月約21万円になります。(※金額は一例です)
親の年金が月15万円の場合、毎月約6万円が年金で足りない「持ち出し(赤字)」となります。
この持ち出しが続く期間も考えてみましょう。生命保険文化センターの調査(2024年度)によると、シニアケアを行った期間は平均55.0ヶ月(約4年7ヶ月)でした。
同じ期間入居したとすると、入居から退去までを通じて実際に支払う総額は以下の通りです。
・入居一時金:200万円
・毎月の持ち出し:6万円 × 55ヶ月 = 330万円
・合計:約530万円
あくまで一例ですが「月いくら」だけでなく「総額でいくら」という視点を持っておくと、資金計画が立てやすくなります。
施設の費用を考えるとき、見落としやすいのがパンフレットに載っていない費用です。おむつ代や医療費、上乗せ介護費といった「想定外の費用」が積み重なり、実際の負担は想定より大きくなりがちです。入居後に「思っていたより高い」と戸惑わないためにも、入居前に費用の内訳をしっかり確認しておきましょう。親が元気なうちに年金や資産を把握し、施設入居の費用を親子で確認しておくことも、大切な「ケア活」のひとつと言えるでしょう。
写真(トップ):写真AC
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級