鮮烈なインパクトを残したSM女王様キャラのブレイクから年月を経て、温かくも切実な思いを綴るエッセイで多くの読者の心を掴んでいるにしおかすみこさん。

認知症の母、ダウン症の姉、そして酔っ払いの父。決して一筋縄ではいかない家族との日常をリアルかつユーモラスに書いた『ポンコツ一家』は、多くの読者から笑いと共感を呼びました。

最新作『ポンコツ一家 最後の2年』の刊行を機に、執筆の経緯やご家族との関わり方、そして読者へのメッセージを伺いました。

1. 『ポンコツ一家』のはじまりと、その裏側

——今回でシリーズ3作目となりますが、そもそもご家族のことをエッセイとして書いたきっかけは何だったのでしょうか?

「元々書くことは好きだったんです。それまでも単発で執筆することはあったのですが、連載は『ポンコツ一家』が初めてです。まず短めのエピソードを10話くらい書いて、マネージャーさんに「出版社さんに売り込んでください」とお願いしました。テーマに家族を選んだのは、一番身近だったからです。

ずっと一人暮らしでした。もともと少なかった仕事が、コロナ禍でゼロになって、貯金もなかったので、身の丈に合った場所に引っ越そうとしていたんです。そんなとき、ふと、実家のみんなは元気かな、と気になりました。それで様子を見に行ったら……」


ローテーブルの上に、割り箸が突っ込まれたままのカップ麺や缶詰、茶色いお惣菜がこびりついたプラスチック容器、半分セメント色したミカン、黒炭のようなバナナの皮等々の食べ残し、残骸が溢れている。ちょっとしたゴミ屋敷だ。

そんな中に埋もれるように母が、いた。

小さな座椅子にポツンと座っていた。
(『ポンコツ一家』より)

 

にしおかすみこ『ポンコツ一家』書影
『ポンコツ一家』(講談社)

 

——ご家族のプライベートやリアルな状況を公にすることについて、迷うことはありましたか?

「もちろん家族にも尊厳があるので、どこまで書いていいものか、ということはすごく考えました。ただ、事前に相談はしなかったです。隠し事ではないです。でも、特に母が連載を読んだら、きっと、『自分は娘にこんなに迷惑をかけてるのか』と、しょんぼりするかなと思ったりして。なので、いつか言うかも、くらいでした。が、第1回目のWeb連載が出た瞬間に速攻でバレました。

父がニュース記事をパソコンで見つけて、黙っていればいいのに母に言っちゃったんです。怒鳴られましたけど(笑)。最終的に母からは『書くなら正直に。そして胸を張りなさい』、父からは『家族が愛されるようなものを書いてね』という言葉をもらいました。ありがたかったです」

2. 介護という言葉では括れない日々で、母が「出来ること」を見る。

——『ポンコツ一家』を読んでいると、認知症や障がいといったテーマを扱いながらも、あまり悲壮感を感じません。にしおかさんご自身は「介護」をどのように捉えていらっしゃいましたか?

「私の中で、介護という意識はあまりなかったんです。母は認知症ではあったけれど、寝たきりの状態を看病していたわけではないし、出来ることもたくさんあったので、それを見守っているような感覚でした。


——お母様とお姉様の関係性も印象的でした。

「母は『姉の最後まで面倒を見る』という気持ちが強かったです。私は、それが母の生命線のようにも感じていました。認知症によって過去と現在を行き来して揺らぐときも、姉がいれば、現在の世界に戻ってこられている気がして。


私は、母と姉が手を繋いで歩く、その後ろ姿が好きでした。最後の最後まで、二人が私の前を歩いてくれた景色は、今でも心に強く残っています」


にしおかすみこ『ポンコツ一家 2年目』書影
『ポンコツ一家2年目』(講談社)



3. 「自分ファースト」を掲げても揺れた夜

——ご家族のサポートとお仕事を両立する中で、にしおかさんご自身のメンタルや健康を保つために意識されていたことは何ですか?

​

「実家に帰った当初から、やれることしかやらない、自分を一番優先する、と心に決めていました。『自分ファースト』でいようと。自分が元気で幸せじゃないと、大切な人を幸せにすることなんてできないと思っているからです。だからこまめに息抜きはしていました」

 

​——そうは思っていても、葛藤してしまう瞬間はありませんでしたか?

「ありました。ある時期、姉の体調が良くなくて、通院や医療的なケアが必要になったことがあったんです。でも私も仕事があるし、毎日、病院には連れていけない。看護師さんに教わりながら、自宅でのケアを増やしました。

元々、母からは『自分の好きなことをして、自分の人生を生きなさい』と言われて育ってきたんです。でも、姉のケアで格闘している横で、かつては頼もしかった母が一切入ってこないんです。どこを見ているのか、何を考えているのかわからない顔をしていました。私はいつも、昔の母ではなく、今の母を見るようにしていたのですが、そのときは過去と比較してしまい、悲しくなりました。それに、しんどそうにしている姉の顔を見ると、仕事に行けなくなりました。姉が回復するまでの約2カ月、家族が生活できる最低限の日数だけ働きました。

『自分ファースト』を掲げているのに、私、何やっているんだろう、と思うこともありました」

4. 最後まで「自分を見捨てなかった」

——そうした限界や不安を感じたとき、周囲や外部のサポートにはどのように頼っていかれたのでしょうか。

「実家に帰ったばかりの頃は、何に悩んでいるのかすら分からないほど疲れ果てていました。そんなとき知人が、地域包括支援センターの存在を教えてくれて。​電話をかけたら、『ご家族は何人ですか?』『お料理は誰が作っていますか?』と、一問一答というか、こちらが答えやすい質問の仕方で、いろいろ聞き出してくださったんです。

そのとき、すぐに何かが解決したわけではないです。でも、プロの方と話すことで、自分は今、一つひとつは取るに足らないような小さな事が積み重なって疲れていたんだ、ということに初めて気付くことができました。

私のような、家族を見守る側に、寄り添ってくださる場所があるということに救われました」

——昨年お母様が亡くなられ、今回の3冊目は『ポンコツ一家 最後の2年』というタイトルです。振り返ってみて、今どんな思いがありますか?

「いつもスマホのメモに、起きた出来事や家族が言ったことを書き残しているんです。そのメモを見返しながらエッセイを執筆しているのですが、以前は母と揉めた日のメモを読むと、たとえそれが1年後でも同じように腹が立っていました。でも母が亡くなってからは、『なんでもいいから生きていてほしかった』という気持ちにしかならなくて。しんどいこともたくさんあったはずなのに、我ながら勝手なもんだなあと思います。

これまでの日々を振り返ったとき、後悔が少なかったんです。なんでだろう?……多分、揺れることもあったけれど、私は最後まで、自分自身を見捨てなかった。誰かの犠牲になって過ごした日々ではなかったと、思えたからです」


にしおかすみこ『ポンコツ一家 最後の2年』書影
『ポンコツ一家 最後の2年』(講談社)

5. 読者へ伝えたいこと

——最後に、ご家族や身近な方のケア・サポートに日々奮闘している読者の方へメッセージをお願いします。

​「優しくて誠実な人ほど、家族の課題を自分一人で抱え込んでしまう気がします。

それを勇気を持って、少しずつでいいので手放すことも大切です。

他所で自分が笑ったり、楽しい時間を過ごすことは、家族を見捨てることではありません。そんな当たり前のことも、日々の生活に流されてわからなくなったりします。そうなる前に、なるべく息抜きをして自分の元気を一番にした上で、大切な人に、そのときできることをしてあげればいいと思います。

 

『ポンコツ一家』を読んで笑っていただき、ご家族でお互いのことや、これからの暮らしについて話すきっかけにしていただけたら嬉しいです」


にしおかすみこ『ポンコツ一家』シリーズ3作書影

6. お話を伺ってみて

にしおかさんのエッセイは、明るい声が聞こえてくるような、軽快な文章が特徴的です。そのことをお伝えすると「それって、女王様キャラの声で聞こえるってことですか?」と、にしおかさん。インタビュー中もユーモアを交えながら楽しくお答え頂きました。

その一方で、認知症や障がいについて、誇大な表現にならないよう、誠実に向き合いながら、言葉の一つひとつを大切に書かれてきたことが伝わってきました。

身近な人のケアをしていると、つい忘れがちになってしまう自分のこと。にしおかさんが「自分ファースト」を意識できたのは、幼い頃からお母さまから伝えられてきた「自分の人生を生きて」という教えが生きていたのかもしれないなと感じました。





●にしおかすみこ
1974年生まれ。千葉県出身。2007年日本テレビ「エンタの神様」でSMの女王様キャラの漫談でブレイク。春風亭小朝師匠の指導のもと落語に挑戦。高座名は「春風こえむ」。

著書には自叙伝エッセイ『化けの皮』(ゴマブックス)のほか、シリーズ1冊目『ポンコツ一家』、2冊目『ポンコツ一家2年目』があり、最新刊『ポンコツ一家 最後の2年』(いずれも講談社)が刊行された。現在はTBS「ひるおび」、NHKラジオ「まんまる」など、コメンテーター、ラジオパーソナリティーとしても活躍中。

趣味のマラソンでは、2019年にフルマラソンで3時間05分03秒、2015年ウルトラマラソン100㎞女子の部にて第2位。最近はベジタブルカービングにハマりクオリティーの高さで話題になる。「FRaU web」にて「ポンコツ一家」連載中(毎月20日公開)。


にしおかすみこ

この記事の提供元
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著者:小黒悠(おぐろ・ゆう)

ケアする本屋「はるから書店」店主。20代後半に始まった介護経験を活かして、介護に「やくだつ」本と、気持ちの「やわらぐ本」をセレクトしています。元図書館司書。古い建物と喫茶店がすき。平日は会社員、ときどきライター。
・はるから書店公式HP https://harukara-reading.stores.jp/
・はるから書店・小黒悠note https://note.com/harukara/
 

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