『健康長寿 解剖図鑑』著者で老年学者・ライターの島影真奈美さんにインタビュー。40代での大学院進学や義父母の介護体験から学んだ「老い」の捉え方、認知症との向き合い方など、これからの人生を健やかに自分らしく生きるヒントを伺います。
島影さんは、なぜ今この『健康長寿 解剖図鑑』を執筆しようと思われたのでしょうか。
「ネットやテレビを見ていると、例えば『これを食べれば老化しない、認知症にならない』といったキャッチーな健康情報が溢れていますよね。ただ、もとになった研究をたどってみると、実際にはまだ研究が始まったばかりだったり、ごく少数のデータに基づいた飛躍した表現だったりすることもあります。
一方で、老いについて、長年の研究からわかってきたこともたくさんあります。それを専門書や論文のなかにとどめず、私たちが自分の老いや暮らしを考えるための材料として届けたい。そんな思いが原動力になりました」
この本は音声配信アプリVoicyで「医者のいらないラジオ」を配信している老年医学専門医の山田悠史さんが監修されていますね。
「そうなんです。私自身、Voicyリスナーで、ファンミーティングのときに山田先生に監修をお願いしました!」
40代で大学院に入学された島影さんは、今年の春に「老年学」の博士号を取得されました。人生後半での学びを決意されたきっかけは何だったのでしょう。
「もともとは、定年退職後の働き方について書籍の企画を考えていたんです。リサーチ中に偶然、桜美林大学の「老年学」の教授と知り合い、興味を持ちました。
老年学の世界では、医学だけではなく、心理学、社会学、栄養学、運動学など、さまざまな分野から、よりよく年を重ねるにはどうしたらいいかという研究がされています。
学んで気づいたことは、年を取ったからと言って全部がダメになるわけではない、身体のすべてが一律に老いていくわけではないということです。また、一直線ではなく、変化の波があります。
私自身も体調不良に悩まされていた時期がありましたが、年のせいかな?とがまんしていたことが、実は調べてみたら原因があった、ということがあります。自分の体で何が起きているのかをきちんと知ることは大切ですし、それは生きやすさにもつながるのではないかと思っています」
島影さんは2019年に発売されたエッセイ『子育てとばして介護かよ』で義理のご両親の介護について書かれています。
「社会人入学で大学院に進学した矢先、義父母が立て続けに、アルツハイマー型認知症だと診断されたんです。なんだか様子がおかしいなと気付いてから、介護のキーパーソンとなり、文字通り一番ドタバタだった約3ヶ月くらいのことを書いています」
『子育てとばして介護かよ』著:島影真奈美、イラスト:川 (KADOKAWA)
本の執筆後は、ライター業においても介護に関するお仕事が増えたようですが、親御さんのケアに対して何か変化はありましたか?
「仕事を通じて認知症のご本人さんと知り合うことが増え、お話を伺うなかで気付いたのは、私は義父母の気持ちを十分には聞けていなかったかもしれない、ということです。もちろん当時は一生懸命、聞いているつもりでいたのですが」
それは聞き方の違いなのでしょうか。
「そうですね。例えば、デイサービスを利用するにあたって、『どのデイサービスがいい?』とは聞いていました。でも、『デイサービスに行くことをどう思ってる?』というところまでは、なかなか聞けずにいました。『デイには行ったほうがいい。お医者さんもそう言っているし』と、無意識に“結論ありき”になってしまっていたかもしれないなあと。
もちろん、介護では本人の希望だけですべてを決められるわけではありません。家族の生活もあれば、必要な支援につなげなければならない場面もあります。でも、それはそれとして義父母がどう感じているのか、もっと聞けばよかった。希望どおりにできるかどうかとは別に、まず本人に聞いてみる。そのプロセス自体が大切だったんじゃないか。今はそう思っています」
若年性認知症当事者で、高知県でデイサービスを運営する山中しのぶさんの著書『ひとりじゃないきー認知症と診断された私がデイサービスをつくる理由』を、ライターとして担当しました。取材を重ねるなかで気付いたことは、認知症の症状だけに目を向けるのではなく、その人自身を知ろうとすることが大切だということです。
同じように認知症だと診断されていても、症状の現れ方は人それぞれですし、必要なサポートも違います。その人には得意なことや苦手なこと、好きなことや嫌いなことがあります。『認知症だから、きっとこうだろう』と周りが先回りして決めてしまうのではなく、まず本人に聞いてみる。認知症というフィルターだけを通して見るのではなく、一人の人として知ろうとする。そのほうがご本人にとっても、家族や周囲の人にとっても、今より少し暮らしやすくなるんじゃないかと思います」
老いとは何か?という話から紐解き、健康長寿の秘訣を教えてくれる『健康長寿 解剖図鑑』の最後は「超高齢社会の歩き方」という章で締めくくられています。
「年齢を重ねれば、できなくなることや、体の不調が出てくることもあります。〈若い頃〉を基準にして、できなくなったことばかりを数え続けるのは、とてもつらいことだと思います。今、自分より先に老いを生きている人に向けるまなざしは、未来の自分に向けるまなざしでもあります。明日の自分にそんなに冷たくする必要はありません」
健康でいること、認知症にならないことだけを目指すのではなく、自分の状態が変わっても、自分らしく暮らし続けるには何ができるかを考えることが大切だと島影さんは話します。
「実は5章に入れたかった話がもう一つあります。それは『新しい認知症観』の話です。認知症になってからも、一人ひとりが個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方です。
文字面で見ると『そうは言ったって、現実はそんなに簡単ではない』と感じる方もいると思います。もちろん、認知症になったことで生じる困りごともあれば、誰かの助けが必要になることもあります。
でも、サポートが必要になることと、本人を意思決定から外してしまうことは別だと思うんです。認知症のご本人から繰り返し聞いたエピソードのひとつに、診断された後、急に『透明人間になったように感じた』というものがあります。診察の予約ひとつをとっても、自分を素通りして、家族に話しかけられるようになった、と。
認知症と診断されたからといって、その人が自分のことについて考えたり、選んだりする機会までなくなるわけではありません。まず本人に聞く。必要なところは周りが一緒に考えたり、サポートしたりする。そういうことが大切なんじゃないかと思います。
歳を取ったり、認知症になったりして、誰かの助けが必要になっても、自分の意思や選択が尊重される。そんな社会を私たち自身がつくっていければ、歳を取ることそのものを、もう少し楽な気持ちで捉えられるようになるんじゃないでしょうか」
老いや認知症について知るには、本当は友達になるのが一番、と笑顔を見せる島影さん。島影さんの本から、正しく老いを知り、健やかに歳を重ねていきたいと思いました。
写真:島影さんより
●島影真奈美(しまかげ・まなみ)
1973年、宮城県仙台市生まれ。一般社団法人マリーゴールド理事、NPO法人タダカヨ理事。フリーランスのライター・編集として働く傍ら、国内で唯一「老年学研究科」がある桜美林大学大学院に社会人入学した矢先に、夫の両親の認知症が立て続けに発覚。現在も仕事×研究×介護の三つ巴生活を送る。介護分野の取材・執筆、プレ介護者・介護者向けのセミナー・講演を精力的に行っている。他の著書に『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)など。
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note: まなみ@対話する介護ライター
著者:小黒悠(おぐろ・ゆう)
ケアする本屋「はるから書店」店主。20代後半に始まった介護経験を活かして、介護に「やくだつ」本と、気持ちの「やわらぐ本」をセレクトしています。元図書館司書。古い建物と喫茶店がすき。平日は会社員、ときどきライター。
・はるから書店公式HP https://harukara-reading.stores.jp/
・はるから書店・小黒悠note https://note.com/harukara/