親の食事量が以前より減り、甘いものばかり食べるようになると、「このままで大丈夫?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
実は、こうした傾向は単なる好みの変化ではなく、エネルギー不足や食べる力の低下など、体からのサインである可能性があります。無理にやめさせようとすると、かえって食事量が減ってしまうこともあるため、まずは甘いものを欲する理由を知ることが大切です。
そこで今回は、隠れ栄養失調との関係や注意したいサイン、甘いものの質を変えて栄養補給につなげる工夫について解説します。
高齢者の食事が甘いもの中心になってきたとき、体の中ではどのような変化が起きているのでしょうか? まずは、甘いものを好むようになる理由と、隠れ栄養失調のサインを確認していきましょう。
●エネルギー不足で起こる甘いものへの欲求
体はエネルギー不足になると、できるだけ素早く栄養に換えられるものを求めるようになります。その代表がご飯やパン、麺類などに多く含まれる「糖質」を多く含む食品です。
これらの主食がしっかり食べられていれば問題ありませんが、食事量そのものが減っていると、菓子パンやまんじゅうなど、比較的食べやすく甘い食品に手が伸びやすくなります。
特に、高齢者は体重減少や活動量の低下が気づかないうちに進んでいることもあり、甘いものへの偏りが栄養状態を見直すきっかけになることもあります。
●食欲低下による栄養バランスの乱れ
食欲が落ちてくると、食事の全体量が減るだけでなく、内容も偏りやすくなる傾向があります。例えば、肉や魚、卵、大豆製品は、調理の手間がかかったり、噛みにくかったりするため、後回しになりやすく、簡単に食べられる糖質中心の食事になりやすいのです。
エネルギーはある程度補えていても、筋肉や体の機能維持に必要なたんぱく質や、細胞やホルモンの材料になる脂質、体調維持に欠かせないビタミンやミネラルが不足しやすくなります。このような栄養素の不足が、見た目ではわかりにくい隠れ栄養失調につながります。
高齢者の栄養管理では、全体のエネルギー量だけでなく、どの栄養素からエネルギーを摂っているかを確認することが重要です。
●噛む力・消化機能の低下も影響
加齢とともに歯や義歯の不具合、飲み込みにくさなどが出てくると、食べやすい食品を優先しやすくなる方も少なくありません。
硬い肉や繊維の多い野菜、脂っこい料理などは食べることに負担を感じやすく、やわらかく口当たりのよい甘い食品を好む傾向が高まります。
また、口腔機能の低下は低栄養のリスクを高め、サルコペニア(加齢にともない、筋肉量が減り、筋力や身体機能が低下していく状態のこと)や要介護のリスクの上昇につながることも指摘されています。
隠れ栄養失調は早めに気づくことで、低栄養を防ぎやすくなります。ここでは、隠れ栄養失調が引き起こす状態と注意点を紹介します。
●体重減少や筋力低下
昔に比べて食事量が減っている上に体重も落ちている場合は、エネルギー不足を疑いましょう。また、全体的に栄養不足の状態が続くと、筋肉量まで減ってしまうことがあります。筋肉量が減ると、立ち上がりや歩行が不安定になり、転倒しやすくなるため注意が必要です。
さらに活動量が下がると食欲も低下し、低栄養が進む悪循環に陥りやすくなります。
●疲れやすい・元気が出ない
食事から十分なエネルギーや栄養素が摂れないと、体を動かすための力が出にくくなります。その結果、以下のような変化がみられることがあります。
・なんとなく元気がない
・外出を億劫に思うようになった
・家の中でも横になる時間が増えた など
これらの変化は、加齢だけでなく低栄養やフレイルのはじまりである可能性もあります。フレイルには、体重減少、疲れやすさ、活動量や歩行速度の低下、筋力の衰えなどが関係するとされており、疲れやすさは見逃せないポイントです。
特に大きな不調がなくても、元気がない状態が続く場合は、食事の質や量を確認してみましょう。
●かぜを引きやすい、回復が遅い
たんぱく質やビタミン、ミネラルは、筋肉だけでなく、体の防御機能を保つ上でも大切な栄養素です。ビタミン、ミネラルが不足すると、かぜなどの感染症にかかりやすくなったり、回復に時間がかかったりすることがあります。
食事量が少なく、甘いもの中心の食事が続いている場合は、食べているから大丈夫と考えず、たんぱく質やビタミン類が足りているかも意識することが大切です。
隠れ栄養失調への対策として、食べられるものを活かす発想が、結果的に低栄養予防につながります。ここでは、食事の質を整えるためのポイントを解説します。
●食べられるものを活かそう
食が細くなっている方に対して、普通の量の食事を食べてもらおうとすると、食べること自体が負担になってしまうことがあります。
まずは、甘いものでも口にできている点を評価し、少しずつ質を整えていくことが大切です。例えば、食べやすいプリンやヨーグルト、アイスなど、栄養価の高い食品と組み合わせる方法なら、無理なく取り入れやすいでしょう。
●量ではなく栄養の質を高める
食事量が少ない場合、たくさん食べてもらうことだけを目標にすると負担になります。そこで意識したいのが、少量でも必要な栄養が摂りやすい食品の活用です。
例えば、糖質だけの間食より、たんぱく質や脂質を含む食品を組み合わせたほうが、体に必要な栄養素を補いやすくなります。高齢者では、若いころと比べて筋たんぱくの合成が進みにくいとされているため、意識的なたんぱく質の摂取が重要です。
甘いものをやめるのではなく、ひと工夫して栄養価を高めることで、低栄養を防ぎやすくなります。ここでは、甘いものを取り入れる際におすすめの方法を紹介します。
●たんぱく質を組み合わせる
甘いものが中心になっているときほど、意識してプラスしたいのがたんぱく質です。甘いものを食べるときに牛乳とセットにしたり、ヨーグルトにきな粉を混ぜたり、チーズを少量取り入れるなどの方法ならば、食べやすさを保ちながら栄養価を高められます。
きな粉は大豆由来のたんぱく質を補いやすく、牛乳やヨーグルトはたんぱく質とカルシウムを補いやすいメリットがあります。暑い時期には、フローズンヨーグルトにはちみつをかけて食べると、エネルギーを補いやすくなります。
●脂質からもエネルギーを補える
脂質は、少ない量でも効率よくエネルギーをとりやすい栄養素です。食事量が少ない高齢者の場合、脂質の質に気を付けながら取り入れることで、無理なくエネルギー補給につなげやすくなります。
例えば、アイスクリームに砕いたナッツを少量トッピングすれば、エネルギーに加えて食感の変化も楽しめます。ただし、硬いままだと食べにくいこともあるため、細かく砕いたり、ペースト状にしたりするなど工夫するとよいでしょう。
脂質は控えるべきものと考えられがちですが、食事量が少ない高齢者にとっては重要なエネルギー源になることがあります。体調や食べやすさに合わせて摂取してみましょう。
●栄養補助食品や間食を活用する
毎食しっかり食べることが難しい場合は、栄養補助食品や間食を活用するのも方法です。高カロリーのゼリーやドリンクタイプのものは、少量でもエネルギーやたんぱく質を補いやすく、食欲が落ちやすいときでも取り入れやすい特徴があります。
栄養補助食品には甘いものも多くあるため、食事量が低下している場合にも有効です。スーパーやドラッグストアでも購入しやすく、普段の食事だけで栄養素を補うのが難しいときに活用すると便利です。
甘いものを食べるときに、いくつかの注意点を知っておくと安心です。ここでは、食事のバランスを意識しながら、甘いものを取り入れるためのポイントを紹介します。
●糖質の過剰摂取に注意する
甘いものだけで食事を済ませる状態が続くと、栄養が糖質に偏りやすくなります。エネルギーは満たされていても、たんぱく質や脂質、ビタミン、ミネラルが足りず、栄養バランスが整いにくくなるため注意しましょう。
また、糖質だけを単独で摂るより、たんぱく質や脂質を組み合わせたほうが、食後の満足感も得やすくなります。結果的に甘いものの食べ過ぎを防ぎやすくなるため、組み合わせを意識することをおすすめします。
●水分不足にも気をつける
甘い食品の中には水分が少ないものも多く、食事量が減っている方ほど脱水のリスクが高まりやすいといわれています。特に高齢者はのどの渇きを感じにくくなるため、水分摂取量が不足しやすい傾向があります。こまめな水分補給に加え、スープやゼリーなど水分を含む食品も取り入れるとよいでしょう。
高齢者が甘いものばかり食べるようになったとき、食の好みの変化だけでなく、食欲低下や口腔機能の変化、エネルギー不足などが背景にあることがあります。
無理に甘いものをやめさせようとすると、かえって食事量が落ちることもあるため、食べられるものを活かしながら、たんぱく質や脂質、水分を少しずつ補うようにしましょう。
写真:写真AC、PIXTA
参考:
・サルコペニアと栄養管理(外科と代謝・栄養50巻1号 2016年2月)
・高齢者の食事管理(日大医誌)
・健康日本21アクション支援システム 高齢者の低栄養予防(厚生労働省)
・高齢者の低栄養(公益財団法人 長寿科学振興財団)
・健康日本21アクション支援システム 高齢者の低栄養予防(厚生労働省)
・健康日本21アクション支援システム 口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連(厚生労働省)
・高齢入院患者における口腔機能障害はサルコペニアや低栄養と関連する(日本静脈経腸栄養学会雑誌)
・サルコペニアとは(公益財団法人 長寿科学振興財団)
・高齢者におけるタンパク質摂取量とサルコペニア:系統的レビューとメタ分析
・防ごう!!守ろう!!高齢者の「脱水」(一般社団法人全国訪問看護事業協会)
この著者のこれまでの記事
・高カロリーおやつが救世主になる理由|管理栄養士が教える高齢者のための裏ワザ栄養学①
・アイスクリームは食べる点滴?|管理栄養士が教える高齢者のための裏ワザ栄養学②
・脱水が心配な親に「食べて補う」新習慣のススメ|管理栄養士が教える高齢者のための裏ワザ栄養学③
著者:下田由美(しもだ・ゆみ)
管理栄養士として約10年間、病院・施設・保育園で幅広い年代の「食と健康」に携わってきた。その中で「食」と「心」は密接に関係していると気づく。現場では、利用者様の気持ちに寄り添いながら、無理なく安全に食べられる方法を模索し続けてきた。利用者様から「ありがとう。美味しかった」と感謝された経験は今でも忘れられない。現在は管理栄養士として、栄養指導や記事執筆、監修、レシピ作りなどを行っている。