「もっと水を飲んでほしいのに、なかなか飲んでくれない……」とお悩みの方はいませんか?
高齢になると水分摂取量が減りやすくなり、気づかないうちに脱水状態が進んでしまうことがあります。特に食事量が減っている場合は、水分と栄養の両方が不足しやすいため、注意が必要です。
とはいえ、無理強いすると拒否されてしまうことも。そこでおすすめなのが、「食べて補う水分補給」という考え方です。今回は、高齢者に脱水が起こりやすい理由や具体的な食べる水分補給の工夫まで、わかりやすく解説します。
高齢者は、体の機能や生活習慣の変化によって、若いころに比べて脱水状態になりやすいといわれています。まずは、高齢者が脱水になりやすい主な原因を確認していきましょう。
●加齢によって「のどの渇き」を感じにくくなる
年齢を重ねると、体内の水分バランスを調整する機能が低下し、のどの渇きを感じにくくなる傾向があります。本来ならば自然と水を飲みたくなる状況でも、高齢者の場合はこの感覚が鈍くなるため、体内の水分不足に気づきにくくなります。
結果として、無意識のうちに脱水のリスクが高まってしまいます。また、「まだ水分をとらなくても大丈夫」と判断してしまうことも多く、周囲も変化に気づきにくいのが特徴です。
●食事量の低下も水分不足の原因に
水分は飲み物だけからでなく、食事からも多く摂取されています。1日に必要な水分のうち、約40%程度は食事由来ともいわれており、食事量の減少は水分摂取量にも影響を及ぼします。
高齢者では、食欲低下や噛む力・飲み込む力の変化により、食事量が徐々に減ることが少なくありません。その結果、知らないうちに水分不足に陥るリスクが高まります。
特に主食や副菜が減り、単品で済ませるような食事が増えると、水分だけでなく栄養バランスも崩れやすくなるため注意が必要です。
●トイレを気にして水分を控えてしまう
高齢者の中には、「トイレが近くなるのが不安」などの理由から、水分摂取を意識的に控えてしまう方もいます。特に外出時や就寝前はその傾向が強くなり、水分摂取を我慢する習慣が続くこともあります。
しかし、水分を控えることで体内の水分バランスが崩れ、脱水のリスクが高まるだけでなく、便秘や血圧の変動などの体調不良にもつながりかねません。さらに、軽度の脱水でも倦怠感や集中力の低下を引き起こすことがあるため、生活の質にも影響する可能性があります。
水分補給というと、水やお茶を飲むことをイメージしがちですが、食べ物から補う方法も有効です。飲み物をあまり摂らない場合でも、食べやすい食品を取り入れることで、水分補給を無理なく行うことが可能です。ここでは、食べて補う水分補給がおすすめな理由を紹介します。
●食べ物からも水分はしっかり補える
多くの食品には水分が含まれており、私たちは日常的に食事からも水分を摂取しています。特にゼリーや果物、汁物などは水分量が多く、効率よく水分補給ができる食品です。果物であれば水分に加えてビタミン・ミネラルなども補えるため、体調管理にも役立ちます。
●食べることで水分補給のハードルが下がる
水やお茶をすすめても「飲みたくない」と拒否される場合でも、甘みのある食品や口当たりのよいものは受け入れられやすい傾向があります。
水分を多く含んだ食品は、「水分補給のため」という意識を持たずにおやつ感覚で取り入れやすいのが特徴です。やわらかくなめらかな食感なので、噛む力が弱くなっている方でも食べやすいメリットがあります。
●脱水予防は、「こまめに少量」がポイント
脱水を防ぐためには、一度に水分を大量に摂るよりも、少量をこまめに摂取することが大切です。一度に多く摂ろうとすると体に負担がかかりやすく、継続が難しくなることもあります。
そこで、食べる水分補給を間食として取り入れることで、食品からも水分補給が可能になります。
高齢者の水分摂取量の目安は、体重1kgあたり約30mLとされています。ただし、食事からも水分を摂取しているため、「飲み物+食事」でバランスよく補うことが大切です。
食べる水分補給は特別な準備をしなくても、普段の食事や間食の中に取り入れることができます。ここでは、すぐに実践できる具体的な取り入れ方を紹介します。
●間食として取り入れる
食事とは別に、間食として水分を多く含んだゼリーや水羊羹を取り入れることで、無理なく水分補給を行うことができます。食事量を増やそうとすると負担に感じやすい場合でも、間食であれば取り入れやすくなります。
また、午前・午後の間食や入浴後など、時間を決めて取り入れることで習慣化しやすくなります。
●冷やしすぎない・食べやすい温度にする
冷たい食品はさっぱりと食べやすい一方で、冷やしすぎると口に入れたときに刺激を感じ、食べにくくなることがあります。特に高齢者の場合、口の中やのどの感覚が敏感になっていることもあり、冷たさが違和感につながることがあります。
冷たいものは人によっては胃腸への刺激にもなりやすく、さらに体調によっては食後の不快感や食欲低下につながることもあります。水分補給を意識していても、「冷たいから食べたくない」と感じてしまうと、継続が難しくなってしまいます。そのため、提供前に冷蔵庫から出しておくなど、少し冷たい程度に調整するのがおすすめです。
●好きな味・食べ慣れたものを選ぶ
水分補給を継続するためには、高齢者の好みに合った食品を選ぶことが重要です。普段から食べ慣れている味や好きな食品を活用することで、「これなら食べられそう」という安心感につながり、水分補給の機会を増やしやすくなります。
高齢者の中には、新しいものを好む方もいる一方、味や食感が合わない、食欲が低下していて負担に感じてしまうという方もいます。一度苦手意識を持ってしまうと、その後も取り入れにくくなることも考えられるため、様子を見ながら無理のない範囲で調整していくことが大切です。
また、ゼリーを作る場合は甜茶を活用するのもおすすめです。甜茶は自然な甘みがあるため、砂糖を加えなくても食べやすくなります。濃いめにいれた甜茶に粉ゼラチンを加え、分量を調整することで、やわらかく食べやすいゼリーを作ることができます。お茶ゼリーが苦手な方は、お茶の種類を変えて試してみるのも1つの方法です。
ゼリーや水羊羹は取り入れやすく便利な食品ですが、適切に活用するためにはいくつかの注意点があります。ここでは、ゼリーや水羊羹を使うときに気を付けたいポイントを紹介します。
●糖分の摂りすぎに注意する
ゼリーや水羊羹は甘みがあるため、食べすぎると糖分の過剰摂取につながる可能性があります。特に市販の製品は糖分が多く含まれていることもあるため、量や回数を調整することで、無理なく続けることができます。手作りの場合は甘さを調整できるため、状況に応じて工夫するのもおすすめです。
●栄養バランスも意識する
水分補給を目的としてゼリーなどを取り入れる場合でも、栄養バランスを意識することが重要です。ゼリーだけに偏るのではなく、主食・主菜・副菜を含めた食事全体の中でバランスよく取り入れるようにしましょう。
たんぱく質やビタミン、ミネラルなども意識しながら、ほかの食品と組み合わせることで水分だけでなく栄養補給もしやすくなります。
●誤嚥のリスクがある場合は形状に配慮する
飲み込む力が弱くなっている場合は、ゼリーの硬さや形状に注意する必要があります。硬すぎるものや口の中でまとまりにくいものは、誤嚥のリスクを高める可能性があるためです。
そのため、やわらかさを調整したり、小さくカットしたりするなどの工夫も大切です。不安がある場合は、医師や管理栄養士、言語聴覚士などの専門職に相談することも検討しましょう。
高齢者の脱水対策では、水を飲んでもらうことにこだわりすぎない姿勢が大切です。食べ物から水分を補うという視点を取り入れることで、水分補給を行いやすくなります。
ゼリーや水羊羹のような食べやすい食品を活用することで、楽しみながら取り入れられるため、続けやすくなります。
まずは「一口から」「間食の時間に取り入れる」など、できることから始めてみましょう。日常の中に無理なく取り入れることが、脱水予防につながります。
参考:
・栄養・水分摂取の工夫のおすすめ(日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会)
・脱水症(公益財団法人 長寿科学振興財団)
・水は1日どれくらい飲めば良いか(公益財団法人 長寿科学振興財団)
・熱中症にならないために 予防の行動(厚生労働省)
・高齢者のための熱中症対策(厚生労働省)
・自立在宅高齢者用かくれ脱水チェックシートの開発(日本老年医学会雑誌)
・嚥下困難者のための水分補給ゼリーの飲み込みやすさの検討(日本調理科学会)
・嚥下困難者用ゼリーの物性に関する適正評価(日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌)
この著者のこれまでの記事
・高カロリーおやつが救世主になる理由|管理栄養士が教える高齢者のための裏ワザ栄養学①
・アイスクリームは食べる点滴?|管理栄養士が教える高齢者のための裏ワザ栄養学②
写真:写真AC、PIXTA
著者:下田由美(しもだ・ゆみ)
管理栄養士として約10年間、病院・施設・保育園で幅広い年代の「食と健康」に携わってきた。その中で「食」と「心」は密接に関係していると気づく。現場では、利用者様の気持ちに寄り添いながら、無理なく安全に食べられる方法を模索し続けてきた。利用者様から「ありがとう。美味しかった」と感謝された経験は今でも忘れられない。現在は管理栄養士として、栄養指導や記事執筆、監修、レシピ作りなどを行っている。