シリーズ3回目の今回は“親の介護をする前に知っておきたかった12のこと”のうち、その5と6をお伝えしたいと思います。
第1回目から読む
 

1. 介護サービスの利用は相性や事前の見学が重要

とにかく食べることが好き過ぎて糖尿病になり、それが引き金の脳出血により50代で若年性認知症になってしまった父。母がガンの闘病中で不在の間、一番大変だったことは、父の食事のことでした。糖尿病で食事に気を付けなければならないのに、父は決まった時間にご飯が出てこないと、高カロリーの惣菜を買ってきて、好き放題食べてしまいます。
食事のたびに親子ゲンカになることを介護に詳しい知人に相談すると、介護保険の介護サービスで訪問ヘルパーによる家事援助を利用することになりました。
 
日替わりでやって来る3人の訪問ヘルパーは、公的な介護保険によるサポートなので父の分しか食事を作りません。カレースプーンで1杯分の味噌をすくって上手に1人分だけの味噌汁を作るプロの技に感動したことを覚えています。
 
そんなプロであっても、父が一人のヘルパーに対して「あの人は口うるさい」と文句を言います。父はケアマネジャーにも直訴。私の想像ですが、デキるケアマネジャーは若くておだて上手な女性を再配置し、父はそのヘルパーがお気に入りになりました。まったくもって、単純な父です。
介護のシーンでも人と人の関わりなので相性があります。家族はサポートしてもらっている手前、遠慮しがちですが、そこはお互いのためにも、時には変更の申し出も必要なのです。
 
通所介護と呼ばれるデイサービスやデイケア、老人ホームへの入所も、関わる人、食事、場所などの相性が重要になります。多くの場合は事前見学が可能です。利用する本人が行くことが難しくても、スタッフや利用者の様子、食事、全体の雰囲気などを本人の様子などを踏まえて家族が見学することは、その後の介護生活がスムーズに行くか否かの重要なポイントになります。なぜなら、ここの相性の判断を誤るとすべて最初からやり直しになるからです。そうなると再び各所との調整など、介護者は介護に加えて事務的な仕事まで増えてしまいます。
 
終の棲家となる「老人ホーム」探しは特に慎重に行いました。それぞれの特色や違いを知るために9つの施設へ見学に行ったのです。スタッフの対応、食事のこと(父はこれが一番大事)、入所者の様子(父はまだ元気な方なので、寝たきりの人ばかりではないか)、看取りまで対応してくれるか否かなど、いろいろな質問をしてスタッフに同業者かと怪しまれたくらいです。正直、急を要する中、約1ヶ月で9箇所の見学はなかなか大変でしたが、パンフレットだけではわからないことを施設に実際に足を運んで知ることができたと思っています。
 
その中でも、9つの施設を見学して私が気になったのは「臭い」のことです。オムツ交換の直後に臭うのは仕方ありません。ただ、その臭いが見学している間中、ずっと臭っているのは処理の仕方や換気がおざなりということ。コロナなど感染症対策の面でも、ここは意外に重要だと思っています。
 

2. 公的老人ホームにはすぐには入れない/施設に入所しても介護は続く

父の施設入所を考えたのは、母も要介護状態になってしまったことがきっかけでした。ざっくりとした分け方ですが、老人ホームには比較的費用が安価の公的なものと、さまざまな価格帯の私設のものがあります。現場などでは、公的なものを特別養護老人ホーム(以下、特養)、私設のものを有料老人ホームなどと言い分けています。
 
父は年齢も比較的若く、身体は多少の麻痺があるだけなので長期の入所生活が予想されました。加えて、要介護状態になった母親にも今後はお金が必要であるとして、私と母は特養を選択しました。
 
ただ、ニュースなどでもよく取り上げられるように、都市部などは特養への入所希望者が多く、入所までに何年も待つという状況が続いています。地域などで若干の違いがありますが、入所希望者は置かれている状況が点数化され、点数の高い人から入所の順番が決まっていきます。
 
父の申込書には、父は排泄介助が全般的に必要で、同居の母が要介護状態、私も持病があり発達障害の子どもの育児中、さらに夫は海外出張で不在がちなど「とても困っています」ということを切々と綴りました。
 
それでも、私たちの住む街では入所希望者が多いため父の順番は100番以上で1年以上は待つ、という結果に。そのうちに母の要介護度はさらに悪化し、車椅子生活になってしまいました。困り果てた私は担当部署への相談(直談判!?)やケアマネジャーのアドバイスから、再申し込みをすると30番台に変更されました。それでも入所できた時には最初の申し込みから半年以上が経過していたのです。
 
基本的には要介護3以上で特養に申し込むことができます。順番が回ってきたときに断ることも可能です。我が家のように介護する側の家族に変化が起きることもあるので、今は必要がなくても、早めに申し込みをしておくのもリスクヘッジの1つになるかもしれません。
 
こうして、特養に入所した父。だけど、それで介護が終わったわけではありません。24時間休みなしの在宅介護に比べると、入所後は比にならないくらい家族の介護の負担は減ります。それでも、通院が必要な場合は基本的には家族が付き添わなければなりません。ほかにも、平均して月に2~3回はなんらかの書類にサインをするための連絡がきます。また「散髪してもいいですか?」「入れ歯洗浄剤がない」「椅子から落ちた」など、かなり頻繁に施設からは電話が掛かってきます。さらに、おかしを差し入れしたり、面会で親子ゲンカをしたり(前回のコラム参照)と、たとえ施設に入所しても、緩く絶えず介護は続いているのです。


※過去回はこちらから↓
 
 
この記事の提供元
Author Image

著者:岡崎 杏里

大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/

関連記事

シニアの体型とライフスタイルに寄りそう、 2つの万能パンツ

2022年7月23日

排泄介助の負担を軽減!排尿のタイミングがわかるモニタリング機器とは?

2022年9月23日

暮らしから臭い漏れをシャットアウト! 革新的ダストボックス

2022年9月5日

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする