ひざに痛みがあると、曲げ伸ばしや歩行が困難になり、日常生活に支障を来す場面が出てきます。そして、痛みが進行すると外出がおっくうになり、運動不足、筋力低下はもちろん、高齢者では抑うつ状態や寝たきりにつながる恐れも。今回は、ひざの痛みの原因で最も多い「変形性ひざ関節症」の痛みの起こり方や、痛みを和らげる運動などを紹介します。

1. ひざの軟骨がすり減ることで痛みが生じる!?

ひざの関節は、大腿骨(だいたいこつ・太もも)、脛骨(けいこつ・すね)、ひざ蓋骨(しつがいこつ・お皿)の3つの骨からできています。また、それぞれの骨の間には軟骨があり、上下からひざにかかる衝撃を吸収するクッションの役割をしています。
 
しかし、長年ひざに負担がかかり続けると軟骨がすり減り、半月板(軟骨組織の一種)も傷んでクッションの働きが低下してくるもの。それによって起こるのが変形性ひざ関節症です。帝京大学医学部附属病院整形外科教授の中川匠先生は、変形性ひざ関節症とその痛みについて次のように解説します。
 
「変形性ひざ関節症は、ひざの関節にある軟骨が少しずつすり減って、骨が変形してしまう病気です。変形性ひざ関節症の痛みは、上下の骨同士がぶつかることで生じると思われがちですが、それはかなり重症化してからのものです。最初のうちは、すり減ってできた軟骨や半月板の小さなカケラが、関節の内側を覆う滑膜(かつまく)を刺激して炎症を起こし、痛みの原因となります」
 
変形性ひざ関節症が悪化するとひざの曲げ伸ばしが難しくなって、最終的には歩くのも困難になります。軽度のうちから対策を始めて、進行を食い止めましょう。
ひざの軟骨がすり減ることで痛みが生じる!?

2. 知っておきたい! 変形性ひざ関節症の進行度と症状

「軽度のうちから対策することが大事」とはわかっていても、痛みがそれほど強くなかったり一時的だったりすると、ついそのままにしがちですよね。しかし、痛みがなくなっても関節軟骨のすり減りは徐々に進行します。一時的であっても、痛みを感じた段階で整形外科(できればひざの専門医)を受診し、医師の指示のもとで運動療法などを始めましょう。
 
なお、変形性ひざ関節症は進行度によって症状も変化します。自分の状態を把握するためにも、下の図で段階ごとの症状を確認しておいてください。

①軽度
骨と骨の隙間が少し狭くなり、軟骨の表面がわずかにすり減った状態です。立ち上がったり歩きはじめたりする際に、一時的に痛みや違和感が出ますが、しばらくすると自然に回復します。
 
②中等度
軟骨や半月板がすり減り、骨と骨の隙間がさらに狭くなった状態です。この段階では関節の炎症が進み、階段の上り下りをするときや、平坦な道を歩くときにもひざの痛みを感じるようになります。また、ひざの曲げ伸ばしが難しくなり、正座やしゃがむ姿勢が困難になることもあるでしょう。なかには、ひざやその周辺が熱をもって腫れたり、関節内に関節液(水)がたまるケースもみられます。
 
③重度
軟骨や半月板がほとんどなくなり、骨と骨がぶつかるようになった状態です。この段階になると通常の歩行でもひざが強く痛み、歩くことが困難になってきます。また、関節のまわりに骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲができて、変形が進んでしまうのも重度の特徴です。関節が変形して力のかかり方が偏ると、内側の関節軟骨のすり減りが進み、O脚が目立つようになります。
知っておきたい! 変形性ひざ関節症の進行度と症状

3. 変形性ひざ関節症対策は、ひざが痛くても「まず運動」が基本

ひざが痛む背景には、太ももやふくらはぎなどのひざ関節を支える筋力の低下があります。太ももの前面にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)など、ひざを支える筋肉が弱ると、ひざ関節への負担が増し、軟骨がすり減りやすくなるのです。さらに、運動不足による筋力低下や肥満による体重増加があれば、関節への負担がさらに増えて痛みが悪化していきます。


中川先生は「高齢者の場合、痛みがひどくなって立つ、歩くといった基本的な動作に支障が出ると、寝たきりの引き金になる恐れもあります」と警鐘を鳴らします。ひざが痛いときは、できるだけひざに負担をかけないように、座ったり横になったりしている時間が増えがちですが、それは逆効果になりかねないのです。

一方で、運動によってひざ関節周辺の筋肉を鍛えれば、ひざ関節の痛みがやわらぐことが期待できます。ひざ関節のぐらつきが抑えられれば、歩く時のバランスが改善して痛みも出にくくなるでしょう。また、運動は肥満の改善にも役立つため、ひざへの負担がさらに軽減されるはずです。しかし、中川先生は「変形性ひざ関節症によるひざの痛みの場合は運動がすすめられますが、注意が必要な場合もあります」と話します。

「ひざの痛みの原因として一番多いのは変形性ひざ関節症ですが、関節リウマチや痛風といった病気が原因の場合もあります。また、スポーツなどを積極的に行っている場合は靱帯や半月板が損傷している可能性もあります。運動を行なっても効果を実感しない場合は、整形外科で検査を受け、痛みの原因をはっきりさせてから、医師に運動の可否やどんな運動がよいかについて指示を仰いでください」(中川先生)

なお、運動によるひざの痛みの改善効果が出はじめるのは、運動を開始してから1~3カ月後です。運動を毎日の習慣にし、長く続けることで症状の改善を目指しましょう。

「ただし、軟骨が完全になくなっているなど進行している方では、運動だけでは痛みが改善しない場合があります。その場合、薬や装具を使った治療もあわせて行う必要があります」(中川先生)

変形性ひざ関節症対策は、ひざが痛くても「まず運動」が基本

4. 手軽に実践できる運動で、痛みの改善を目指しましょう

ここでは、日常生活のなかで手軽にできる変形性ひざ関節症の対策として、7つの運動を紹介します。いっぺんに全てを行う必要はないので、できる範囲で実践してみましょう。ただし、ひざが腫れて熱をもっている場合や、体調が悪い場合は運動を一時中断して様子をみてください。
 
●正しい姿勢での「ウォーキング」
背筋を伸ばして、両肩が水平になるように立ち(左右に傾かない)、へそ、つま先、ひざが真正面を向くように意識しながら歩きましょう。つま先で蹴り出して、かかとから着地するように足を進めるのがポイントです。
 
●ひざ周辺の筋肉を伸ばす「ストレッチ」
あお向けに寝たら、片方のひざを曲げ、両手を使って胸まで引き寄せましょう。これを左右5回ずつ行ってください。
 
●O脚を改善し、ひざを安定させる「筋トレ」〜痛みが軽度の場合
・太ももの内側を鍛える:椅子に腰かけたら、両ひざでクッションなどをはさみ、脚を片方ずつ上げ下げします(左右20回ずつ)。
 
・太ももを鍛える:あお向けに寝たら、片方の脚のひざを立て、もう片方の脚は伸ばしたまま上げ下げします(左右20回ずつ)。
 
・太ももを鍛える:両脚を肩幅に開いて立ったら、ゆっくりとひざを曲げておしりを下ろし(最大でもひざが90度になるくらい)、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。これを20回繰り返しましょう。
 
●O脚を改善し、ひざを安定させる「筋トレ」〜痛みが中等度の場合
・脚の付け根の外側を鍛える:横向きに寝たら、上側の脚を20cmほどゆっくり上げ、5秒間キープしてから下ろします。逆側を向いて、同じ動きを反対側の脚でも繰り返しましょう(左右20回ずつ)。
 
・ふくらはぎを鍛える:両脚を肩幅に開いて立ち、ゆっくりとかかとを上げて、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。これを20回繰り返しましょう。
※不安定なときは椅子などに手を置いて行ってください。
 
運動の効果を上げるには、食生活に気を配ることも大事です。筋肉の材料であるたんぱく質を多く含んだ肉や魚、卵、乳製品などを積極的にとるようにしましょう。
手軽に実践できる運動で、痛みの改善を目指しましょう

5. まとめ

変形性ひざ関節症は、加齢や筋肉量の低下などによって関節のクッションである軟骨や半月板がすり減り、痛みが生じる病気です。痛みが軽度のうちに運動を習慣化し、ひざ関節を支える筋肉を鍛えましょう。中川先生によると、運動することで関節に炎症を起こす物質の分泌量を減らしたり、関節の動きをなめらかにする物質の生産量を増やしたりする効果も期待できるのだとか。といっても無理は禁物です。医師の指示に従って、症状に合った運動を行ってください。
 
次回は「中高年になると増えてくる! ひざの痛みはこれで解消」の検査・治療編と題して、変形性ひざ関節症の痛みが強くなったときの検査方法や治療方法について解説します。
 
監修:中川 匠先生

中川 匠(なかがわ・たくみ ※写真下)
帝京大学医学部整形外科講座 教授。1966年生まれ、東京大学医学部卒業。専門は整形外科、とくにひざ関節疾患、スポーツ整形外科。整形外科学会専門医。著書に『NHKきょうの健康 痛み解消!ひざ体操 あなたの症状に合わせてできる』(NHK出版)などがある。





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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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