1. 改めて……新型コロナウイルスってどんなウイルス?
コロナウイルスには、一般のかぜの原因になるウイルスや重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスなどがあります。新型コロナウイルスは新たに見つかったコロナウイルスで、WHO(世界保健機関)によって「SARS-CoV-2」と命名され、これによる感染症を「COVID-19(coronavirus disease 2019)」と呼ぶようになりました。日本国内では、ウイルスを「新型コロナウイルス」、病名を「新型コロナウイルス感染症」と一般に呼んでいます。
ウイルスは自分自身で増殖することができず、新型コロナウイルスも気道の粘膜や肺などの細胞に付着し体内に入り込んで増殖します。その構造からエンベロープ(脂質性の膜)のあるウイルスと、エンベロープのないウイルスに分けられますが、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、麻疹や風疹ウイルスなどは、エンベロープがあるウイルスになります。
脂質の膜であるエンベロープは、アルコールで破壊(消毒)することができます。そのため、手洗いによって汚れや一定程度のウイルスを洗い流し、アルコールで消毒を行えば、エンベロープウイルス感染のリスクはかなり軽減できます。
2. 飛沫感染にエアロゾル、接触感染……コロナの主な感染経路
感染症の主な感染経路として、感染している人のせきやくしゃみに伴って口から飛び出る飛沫をそばにいた人が吸い込むことによって感染する飛沫感染(飛沫が飛び出る距離は1メートル前後)、飛沫などがさらに小さい粒子(エアロゾル)となって広い空間に飛散し、それを吸い込むことによって感染する空気感染(飛沫核感染)、手などに病原体が付着し、その手で口・眼・鼻などを触れることによって感染する接触感染などがあります。
新型コロナウイルスの主な感染経路は飛沫感染で、感染者にこの飛沫を飛び出させないため、感染者の周囲の人が感染者からの飛沫を吸い込まないための有効な道具がマスクです。また閉鎖された空間では、飛沫感染を超える数メートルの距離を小さい粒子(マイクロ飛沫・エアロゾル)が飛び出し、これを吸い込むことで感染することもあります。
このような小さい粒子を広い空間に拡散・希釈させ、感染リスクを低下させるため「換気の重要性」が新型コロナウイルス感染症では強調されています。
感染者の飛沫で汚染された物に触れ、その手で自分の目・鼻・口などに触れることによって感染する接触感染もあり得ると考えられています。それらに接触した時の感染リスクを低下させるための手洗い・アルコール消毒が勧められています。
3. かぜやインフルエンザと見分けにくい初期段階の症状
新型コロナウイルスの潜伏期間は1〜14日(ほとんどは2~3日)で、発症すると発熱や呼吸器症状(鼻づまりやせき、のどの痛みなど)、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛といったかぜやインフルエンザに似た症状がみられます。味や臭いがわかりにくいといった症状を伴うこともあります。
多くの人(年齢が若いほど)が軽症で回復しますが、発症後1週間~10日くらいの時期に呼吸困難、せきといった肺炎症状が悪化し、なかには人工呼吸器による治療が必要になるほど重症化することもあります。高齢者や基礎疾患のある人は、重症化するリスクが高く、新型コロナウイルス感染症をきっかけとして消耗状態になったり、基礎疾患が悪化して重症になることもあるため、十分な注意が必要です。
【重症化リスクの高い人】
・65歳以上の高齢者
・がんなどの悪性疾患の治療中の人
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の人
・慢性腎臓病(CKD)の人
・糖尿病の人
・高血圧の人
・心血管疾患(心不全、虚血性心疾患など)、脳血管疾患の人
・脂質異常症(高LDL コレステロール血症、高中性脂肪血症など)の人
・肥満者(BMI30以上)
・喫煙者
・治療薬の影響や病気などによる免疫不全状態の人
・妊娠後期の人
*慢性疾患をきちんと治療されている場合は重症化リスクが下がります
4. 新型コロナウイルスの予防対策を再確認!
新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の扱いが5類に変わり、生活や行動が法律に基づいて規制されたり、自粛を求められることはなくなりました。ただし、ウイルス出現から数年経ったとはいえ、感染症としては新しい病気であり、流行に季節性や周期性があるかなど、多くのことが明らかになっていません。またウイルスの性状が変異によって大きく変化する可能性もあります。一方で、基本的な感染対策は確立しています。周囲で感染者が増加している場合には、マスクをつける、こまめな換気を心がける、手洗いやアルコール消毒を行う、体調が悪いときは無理をしないといった基本的な感染対策を実践しましょう。
●マスクをつける
マスクは、飛沫感染に対して自分が感染しないための対策でもありますが、他人に感染させないという人にやさしい気配りの表れでもあります。満員電車やバスなど人が多く集まっている場所、混雑している場所ではマスクを着用しましょう。
●こまめな換気を心がける
部屋の対角線上にあるドアや窓を2か所開放すると効果的に換気できます。冬場は室温が下がりすぎないように、暖房器具を使用しながら、時々、換気(空気の入れ替え)を行いましょう。
●手洗いやアルコール消毒
新型コロナウイルスは、飛沫感染やマイクロ飛沫感染のほかに、ウイルスが付着した手指で目、鼻、口などに触ると感染する接触感染の可能性があるため、手洗いやアルコールによる手指の消毒も忘れずに。手洗いやアルコールによる手指消毒は、新型コロナウイルス感染症だけでなく、インフルエンザやノロウイルスをはじめとする食中毒、その他の感染症に共通して重要なことです。
5. ワクチン接種は今後も必要?
新型コロナワクチンは、感染した際に症状を軽くしたり、重症化しないようにしたりすることが重要な効果ですが、感染そのものを一定程度防ぐ効果もあります。また、多くの人が接種を受けることで感染が少なくなると、ワクチン接種できなかった人も守ることができます。感染者や重症者・死亡者を減らせれば、医療機関の負担を軽くすることにもつながり、通常の医療体制を守ることにもなります。
一方、新型コロナウイルスのワクチンをめぐっては、副反応や後遺症に関するネガティブな情報が多く飛び交っていることも事実です。接種を迷う場合は、かかりつけ医に相談するなどして決めるのもよいと思いますが、最終的にそれぞれの人の考え方によるものだと思います。
6. 疑わしい症状が出たとき、感染がわかったときの対処法
発熱などの症状があるときには、新型コロナウイルス感染かどうかにかかわらず、外出を控えて様子をみて、体調を回復させるのがいちばんの基本対策です。自宅などで抗原検査キット(国が承認したもの)を利用してみて、その結果を目安にするのもよいでしょう。陽性の場合は、自宅での療養がすすめられますが(期間については下表参照)、症状に応じて医療機関の受診を考えましょう。
なお、陽性・陰性いずれの結果であっても症状の変化には注意し、症状がつらいときには医療機関を受診してください。
●新型コロナウイルス感染症の場合の外出を控える期間の目安
7. 重症化を防ぎ、入院者数を減らすための医療機関での治療
最後に、医療機関での基本的な治療方法についても紹介しておきましょう。医療機関では、症状や全身状態から重症化のリスクや現在の重症度を判断。ワクチンの接種状況や、重症化しやすい人の状況などを参考にして、適切な治療方法を選択します。
軽症で重症化リスクが低いと判断された場合は、発熱やほかの症状を抑える対症療法を行いながら、体内のウイルスが排出されるのを待ちます。また、重症化リスクに応じて、ウイルスの増殖を阻害する抗ウイルス薬などが用いられることもあります。
なお、最近は軽症の人に対しても使える抗ウイルス薬の飲み薬も登場し、薬の選択肢が増えてきました(抗ウイルス薬は、医師の診断と処方箋の発行が必要になり、薬局などで自由に購入できるわけではありません)。
8. まとめ
前述したように、2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は5類感染症になりました。それに伴なって、国が緊急事態宣言などの行動制限や入院勧告・指示、感染者や濃厚接触者の外出自粛などを要請することもなくなっています。
しかし、5類感染症になったからといって、ウイルスそのものの性質が変わったわけではありません。感染対策が法律に基づいて行われるのではなく、医療機関や個人の判断が尊重されるようになった今だからこそ、1人ひとりが正しい知識を身につけ、自分や家族のリスクを正しく評価し、日常の生活が健やかに送れるように心がけてください。何よりも日ごろから適度や運動や食事、規則正しいストレスの少ない生活を目指すことが大切です。
監修:岡部信彦先生
岡部信彦 ※写真下
川崎市健康安全研究所所長。1971年、東京慈恵会医科大学医学部卒業後、小児科医として臨床経験を積んだのち、78年に米国バンダービルト大学小児科感染症研究室に研究員として留学。帰国後、国立小児病院感染科などを経て、91年にWHO西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課課長、95年に慈恵医大小児科助教授、そして97年に国立感染症研究所に移り、感染症情報センター室長、センター長を務めた後、2013年より現職。