1. ノロウイルスの感染力・伝播力は強い
ノロウイルスは、人の口から入り込み、胃を通過して小腸粘膜で増殖し、胃腸炎の原因となるウイルスです。ノロウイルスは、10~100個程度といったわずかなウイルス量で感染するほど感染力が強いほか、感染者の排せつ物中のウイルス量が非常に多い、症状がなくなってからもウイルスを排出する期間が長く、人から人へ容易に広がりやすい(伝播力が強い)などの特徴があります。
食品にノロウイルスが含まれている場合、それを食べた多くの人が感染し、また微量でも手にウイルスがつけば、その手を介して口からウイルスが入り込む可能性が高いため、集団感染につながりやすいというのもノロウイルスの特徴です。そのため、周囲に感染者が出たら、感染が広がらないようしっかりと対策をすることが必要です。
なお、ノロウイルス感染症は、例年11 月頃から増加し始め、12 月から翌年1月頃にピークが見られます。
2. 食品からの感染のほか、人から人への二次感染にも注意が必要
ノロウイルスの感染経路としては、以下の4つが知られています。
●経口感染
ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を、生あるいはよく加熱せずに食べた場合に感染します。また、調理者や配膳者がノロウイルスに感染していて、ウイルスに汚染された手指で食材や調理器具に触れ、その手や調理器具で調理された食品を食べることで感染します。
●接触感染
ノロウイルスを含む便や嘔吐物を処理したあと、手についたウイルスが口から取り込まれた場合に感染します。また、感染者が触れたドアノブやタオルなどを触った人の手を介して、ウイルスが口から体内に入ってしまうこともあります。
●飛沫感染
感染者の嘔吐物が床に飛散した際などに、そばにいる人がノロウイルスを吸い込むことで感染することがあります。
●空気感染(塵埃<じんあい>感染)
感染者の便や嘔吐物が乾燥すると、塵埃(ほこり)などと一緒に空気中に舞い上がり、少し離れた場所にいた人がこれを吸い込んだりすることで感染します。
ノロウイルス感染症は、人から人へ広がる(二次感染する)ことが多いので、患者が発生しやすい冬場は特に注意しましょう。
3. 水分補給&静養で回復が見込めるが、高齢者は命に関わる重症化も
ノロウイルスの潜伏期間は12 ~ 48 時間と非常に短く、感染してからすぐに吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、発熱(微熱か、高くても38 ℃程度)などの症状が現れます。嘔吐、下痢はかなり激しいことが珍しくありません。
下痢や嘔吐があっても、脱水症状にならないよう水分(できれば電解質を含んだ水分)を補給し、安静にしていれば、多くは2~3日で自然に回復します。ただし、乳幼児や高齢者は脱水症状になりやすく、吐物などで窒息したり、吐物が気管などに入り込み、誤嚥性肺炎となり、命に関わる場合もあるので、抵抗力が低下している人なども含め、注意して見守る必要があります。
家族に以下の症状が現れたら、すぐに受診しましょう。
●嘔吐などで水分がとれない状態が半日以上続く
●半日で1回程度など、尿の回数・量が少ない
●腹痛が強まるなど、どんどん症状が悪化する
●血便、または真っ黒な便が出る
●高熱が3日以上続く
●体に力が入らない、歩けない、ぼーっとするなど、いつもと様子が違う
●体力が消耗し、ぐったりしている
●嘔吐物をのどに詰まらせた(特に、乳幼児や高齢者は家族が様子をよく見ておくこと)
なお、ノロウイルスに感染したにもかかわらず、嘔吐などの症状が出ないまま、便中にウイルスを排出することがあります(不顕性感染)。無症状であっても、身近な人に症状がある場合は自身も無自覚のまま感染している可能性があるため、特に食品を取り扱う人などは普段からの手洗い、食品衛生などの格段の注意が必要です。
4. 「手洗い」と「加熱調理」が感染予防の2大対策
大腸菌、ウェルシュ菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌など、食中毒を引き起こす細菌の多くは食品の中で増殖します。一方、ノロウイルスは食品の中ではなく人の体内に入ってから増殖します。いずれにしても、手洗いと食品の加熱調理をきちんと行い、食中毒やノロウイルスが体内に入らないようにすることが、感染予防・食中毒予防の基本といえるでしょう。
対策①:家族全員、石けんで手洗いを!
家庭での二次感染の多くは、感染者から排出されたウイルスがついた物を誰かが手で触り、その手を介して口の中にウイルスが侵入する接触感染です。そのため、家族全員が石けんでの手洗いをきちんと行うことがノロウイルス対策のためだけでなく、多くの感染症の予防のカギとなります。帰宅直後やトイレの後、調理前や調理中、食事の前などに、こまめに石けんで手を洗うことを習慣にしましょう。
石けんで手が荒れやすい人は、石けんを使った場合と同様の時間をかけて丁寧に流水で手を洗うだけでもかなりの効果があります。なお、ノロウイルスに対してはアルコール消毒の効果が低いことがわかっています。
対策②:二枚貝はしっかり加熱調理を
ウイルスに汚染されたカキやアサリなどの二枚貝を、生あるいは加熱不十分な生煮えなどで食べたことが原因で感染する事例は、少なくありません。中心部の温度が85~90℃となる状態で90 秒以上の加熱調理をすればウイルスは感染力を失うため、二枚貝は十分に加熱調理をしたうえで食べるようにしましょう。ちなみに、貝の新鮮さとウイルスの有無は無関係です。
5. 家族に感染者が出たときの対処法は?
家庭内で感染者が出たら、家庭内での二次感染を防ぐため、嘔吐や便などきちんと処理し、ウイルスが付着したと思える場所は消毒することが大切です。家族に感染者が出たときに備えて、次の2つの対処法を覚えておきましょう。
対処法①:嘔吐物をすばやく適切に処理
感染した人が嘔吐した場合はすぐに拭き取り、周囲の床や壁に嘔吐物が飛び散ったら、消毒液で消毒しましょう。処理をするときは、不織布マスクやビニール手袋、エプロン(かっぽう着タイプがベスト)、メガネ(できればゴーグル)などで全身を防備してから行ってください。
対処法②:共用スペースもしっかり消毒
ドアノブ、スイッチ、水道の蛇口、トイレ(レバーやスイッチ、便座、ふた、床や壁、ペーパーホルダー)など共用が避けられない場所は、感染者が使用した後に消毒液で消毒しましょう。
消毒液の作り方については、下記を参照してください。また、実際に作るときは消毒液についている説明書をよく読んでください。消毒液は時間が経つと効果が落ちるので、その都度使い切るのが基本です。
<消毒液の作り方>
●塩素濃度0.02%(200ppm)消毒液
・作り方:2Lのペットボトルに、ペットボトルのキャップ2杯(10mL)の家庭用塩素系漂白剤(6%濃度)+水道水で2Lにする。
・用途:嘔吐物を拭き取った後の床や周囲の壁、トイレ、浴室、ドアノブなどの消毒に使用します。消毒液で拭いた後は、水拭き、から拭きをしましょう。また、消毒液は金属を腐食させる性質があるため、金属に使用した際は念入りに水拭きをする必要があります。
●塩素濃度0.1%(1,000ppm)消毒液
・作り方:約500mLの容量のペットボトルに、ペットボトルのキャップ2杯分(10mL)の家庭用塩素系漂白剤(6%濃度)+水道水で500mLの溶液とする。
・用途:ペーパータオルなどで拭き取った嘔吐物や使用後の手袋、雑巾などはビニール袋に入れて塩素消毒液に浸し、密封して廃棄しましょう。
6. まとめ
ノロウイルスの存在が初めて発見されたのは、1968年のことです。米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の便から検出されたため、当時はノーウォークウイルスと呼ばれていました。
それから50年以上が経ちましたが、ノロウイルスに有効な抗ウイルス薬はまだありません。くり返しになりますが、ノロウイルスの感染を防ぐために有効なのは、手洗いと食品の加熱調理の徹底です。症状が持続する期間は短いものの、感染力・伝播力が強く、介護施設や保育所・幼稚園や学校など、人がたくさんで生活している場所での集団感染や家庭内感染の事例も少なくないため、高齢者や乳幼児がいる家族は特に注意してください。
監修:岡部信彦先生
岡部信彦 ※写真下
川崎市健康安全研究所所長。1971年、東京慈恵会医科大学医学部卒業後、小児科医として臨床経験を積んだのち、78年に米国バンダービルト大学小児科感染症研究室に研究員として留学。帰国後、国立小児病院感染科などを経て、91年にWHO西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課課長、95年に慈恵医大小児科助教授、そして97年に国立感染症研究所に移り、感染症情報センター室長、センター長を務めた後、2013年より現職。