自らを「スープ作家」と称し、多くの著書やSNSでシンプルなスープのレシピとその魅力を発信し、多くのフォロワー(Xは約14万人、Instagramは約6万人)をもつ有賀薫さん。実はその活動歴はまだ10年あまり。それ以前はフリーのライター業と主婦業に勤しみ、ご家族のために始めたスープづくりを極めていった結果が今日につながっているのだそうです。

50代以降に人生の新たな転機を迎え、多忙ながら充実した日々を送る有賀さんに今回MySCUEはまず、50代以降の食生活や料理の仕方の変化についての話をお聞きしました。また、シニア~子供まで、どんな世代にとってもやさしいメニューであるスープ、汁物の、ふだんの食事への取り入れ方についてのお話も。そこには、より健康で心地よく暮らすためのヒントがありました。

1. 大きなハンバーガーはもういらない

料理を仕事にしている人は、普段からさぞおいしいものをたくさん食べているんでしょうね、そんなことをよく言われます。料理家は食べるのも仕事のうち。東に注目のシェフがいると聞けば馳せ参じ、西に目新しいスイーツがあれば取り寄せる、そんな風に情報を更新していく人が多いのです。

 

とはいえ、今年還暦を迎えた私がいま一番後悔しているのは「若いうちにもっといろいろなものを食べておけばよかった!」ということ。50歳を過ぎたころから、どんぶり物も大きなハンバーガーもフレンチのフルコースも重たく感じるようになりました。また、レシピのための試作が山のようにできても、食べるのは私と夫のふたりだけ。スープはまだしも、油をがっつり使った料理や肉が一週間も続くと、胃腸が持ちません。

これは料理家であるための特殊な悩みですが、多くの人たちにとっても、年齢と食は切り離せないものではないでしょうか。食べられる量は減るのに、健康は以前に増して考えなくてはいけなくなります。脂質だの塩分だの糖質だの、これまで目にも入らなかった言葉にひっかかるようになってきます。


2. 変えたい食事、変われない人

しかし、食の習慣や好みというものは、とくに歳をとってからはそう簡単に変えられないもの。夫が健康診断でもう少し痩せるようにと言われたのを受けて、カロリーの低そうな野菜の煮物やスープを作ります。でも、夫の箸は進みません。ごはんのおともになる濃い味のおかずが好物で、ダイエットに向く豆腐やきのこのような食材は好みではないのです。結局私がひとりでもりもり食べて、これでは何のために作ったのかわかりません。

こんなことの繰り返しですが、それでもこの数年かけて、食べることが自然に軽くなっていきました。私のいまの食事をちょっと紹介してみますね。

3. 朝、昼、晩、無理なく健康に食べる

時間に縛りのないフリーの仕事は、どうしても生活が不規則になりがちです。食事の時間を固定して1日のリズムを作るのが、わが家のスタイル。朝は8時、昼は12時、夜は7時から8時、夜に仕事が入ったとき以外はほぼ決まった時間に食事を始めます。

朝食は、ヨーグルトと果物と紅茶だけの簡素な食事です。長いこと朝はパンとスープでした。毎朝のスープ作りは私の仕事にもつながっていました。でも、2年前に夫が定年退職してから昼食も家でしっかり食べるようになり、朝は軽くしました。目覚めたらバナナやパイナップル、りんごなどの果物をカットするだけ。夫が先に起きて湯をわかし、食器を出しておいてくれます。




昼と夜は、ごはんと味噌汁かスープに、昼なら1品、夜は2~3品の一汁〇菜。一皿で済む麺類やサンドイッチもよく登場します。試作で食材が余ってしまうため作ることが多く、夫婦での外食は1週間に1~2度ぐらいでしょうか。

揚げ物も塩分の高いものも気にせず食べていて、若いころから料理そのものは大きく変えてはいません。とはいえ、家族が好物で作っていた餃子や春巻き、グラタンなど、作ると大量にできてしまう料理は自然と回数が減りました。カレーも、脂っこいカレールーで作るものではなく、カレー粉でさらっと作るタイプに変えるなど、やはり二人とも食事に求める「重さ」は変わってきているなと感じます。

食べ方をがらりと変えるのは難しくても、朝食を軽くしたり、ご飯の量を減らしたり、作る量をやや控えめにしたり。ほんのちょっとしたところを無理ない範囲で変えていったことで、健康的に食べられているような気がします。




 

4. スープや味噌汁をうまく生活に取り入れるコツ

スープや味噌汁は仕事にとどまらず、自分や家族の日々の健康を大きく支えてくれる存在です。とくに、具をしっかりと入れた、煮物のようなおかずスープは不足しがちな野菜もたっぷりとれて胃腸にやさしく、健康的な食事には欠かせません。


主食+具だくさんの汁物だけのシンプルな食事もいいものです。ごはんと味噌汁、スープとパン、私もよくそんな食事をとっています。ごはんに直接汁をかける、スープかけごはんも塩分を気にする人も多いようですが、厳密に塩分を計算しなくてはならない人以外は、具だくさんにして他のおかずや漬物を一品なくす方が食べ方としてはよいのではないでしょうか。




冷蔵庫のありあわせの野菜で作れるのも、スープの魅力です。残った野菜を何もかも入れるのではなく、中心にする野菜をひとつ決めるのがコツ。その野菜に他の食材をサポートするように合わせていくと、残り物感がなくなります。
キャベツを中心にするならコンソメ味にしてベーコンの切れ端を合わせるとか、チンゲンサイとにんじんならごま油をきかせた中華スープにして、残ったちくわを刻んで入れるといったように、食材をパズルのピースと考えて、ひとつずつはめていくと、スープ作りは案外楽しくなってきます。




写真上:「ミニトマ豚汁」

材料:
・ミニトマト……1パック(200g)
・豚バラ薄切り肉……100g
・みそ……大さじ2
・ごま油……大さじ1
・黒こしょう……適量

作り方:
1.ミニトマトはヘタを取り、半分に切る。豚肉は4㎝幅に切る。
2.深型のフライパンにごま油を強火で熱し、ミニトマトの切り口を下にして並べ、木べらやスプーンの背などで軽く押しつけ、出てきた水分を飛ばしながら2~3分炒める。豚肉を加え、色が変わるまで炒める。
3.水(400㎖)を注ぎ、ひと煮立ちしたら弱めの中火にして約5分煮て、みそを溶き入れる。器に盛り、黒こしょうを振る。


※『有賀薫の豚汁レボリューション:野菜一品からつくる50のレシピ』(家の光協会)より



写真上:「もやしの黒ごま坦々スープかけごはん」

材料:
A
・豆もやし…1袋
・水①…50mL
・チャーシュー(市販のもの)…50g

B
・塩…小さじ1
・ごま油…小さじ1
・唐辛子粉(甘口)…小さじ1
※なければラー油 小さじ1/2
・すりごま(黒)…大さじ1
・にんにく(おろし)…少々

・水②…400mL
・(好みで)黒ごま

作り方:
1.鍋にAを入れ、ふたをして中火で3分蒸し煮する。ザルにあげ、余分な水分を切る。空の鍋にもやしを戻し、Bを加えてしっかり和える。
2.水②を入れて煮立てる。細切りにしたチャーシューを加えて、火をとめる。
3.ごはんにスープをかける。好みで黒ごまを振る。

※『なんにも考えたくない日は スープかけごはん で、いいんじゃない?』(ライツ社)より

5. 料理をもっと軽やかに

さて、食べることの話ばかりしてきましたが、「作ること」も少しずつ大変になっていきます。先日、喫茶店で隣に座った女性が電話をかけはじめました。やや声が大きめなのは、どうやら年老いた母親と話しているからのようです。


「ちゃんと食べてる? 買ってきたお総菜は嫌だなんて言わないで。今どきはおいしいのもあるし、濃い味付けばかりじゃないし、野菜だってちゃんととれるのよ。私は海外から帰国してから外食やお総菜ばかりだけど、健康診断の値だって全然変わらないんだから。手作りじゃなくても今は健康に食べられる時代なのよ……」


私もですが、長年自分の手で食卓を守ってきた人は、案外買うより作る方が楽に感じる場合があります。お総菜はおいしくないという先入観もぬぐい切れません。でも、どんなにベテランの主婦にとっても(私のように料理を仕事にしている人間でさえ)、毎日の食事作りは重い労働です。買い物から片づけ、食材の管理まで多岐にわたり、しかも終わりがありません。一人ががんばるキッチンは苦しいだけでなく、もしその人に何かがあればすぐ、詰んでしまいます。


死ぬ最後の日まで元気で料理できる人が一体どれぐらいいるでしょう。「死ぬ間際」は大げさとしても、だんだん作るのがおっくうになり、食べるものが偏ってはいないでしょうか。人口が減っていく時代だからこそ、家族それぞれが食事をなんとかできるようにしておくことや、買って賄うことに慣れる必要性を感じます。「作ること」も、もう少し軽やかに考えたいものです。

6. 変化を取り込む柔軟さを

変化を取り入れる。これは食に限ったことではないと思っています。SNSも電子マネーもニューフェイスのアイドルグループも、新しいものにすぐ反応できず、歳だなあと感じる場面はよくあります。若い人のものだと無視していても今は問題ないでしょう。でも、ただの流行と思っていたものがやがて定着し、社会に欠かせない存在になっていきます。気がついたら何の装備もなく沖に出た舟のようになってはいけません。

新しいものへのチャレンジは小さなことでも勇気が必要です。年老いたお母さんを励まし、一歩前進させようとする娘さんに、私も少し背中を押されたような気がしました。




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スープ作家が思い描く、この先20年のキッチン|スープ作家、有賀薫の生活と料理②

この記事の提供元
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著者:有賀薫(ありが・かおる)

スープ作家。息子を朝起こすために作り始めたスープをSNSに毎朝投稿。10年間で作ったスープの数は3500以上に。現在は料理の迷いをなくすシンプルなスープを中心に、キッチンや調理道具、料理の考えかたなど、レシピにとどまらず幅広く家庭料理の考え方を発信している。著書に『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)で第5回レシピ本大賞入賞、『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。ほかに『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『私のおいしい味噌汁』(新星出版社)など。最新刊は『有賀薫のだしらぼ』(誠新堂新光社)。

note: https://note.com/kaorun/

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