高齢のご家族が最近、つまずいたり、ふらついたりすることが増え、心配になっていませんか? 今回は、シニアの転倒の要因と家庭でできる予防対策について、わかりやすく解説します。
シニアの方の転倒予防が重要なのは、一度転んでしまうと、その後の生活に大きな影響を与える可能性があるためです。
厚生労働省の調査によると、介護が必要になる原因の約14%は転倒や骨折によるものとされています。
入院やけがによる長期の安静は、筋力の低下を招きます。さらに、「また転ぶかもしれない」という不安から外出や活動を控えることで、筋力がさらに衰え、転倒リスクが増してしまうという悪循環に陥ることもあるのです。
この悪循環を防ぐために、転倒予防は欠かせません。適切に対策すれば、シニアが安全に、いきいきとした毎日を過ごせるようになります。ケアラーの負担軽減にもつながりますので、転倒予防に取り組み、安心できる毎日を目指しましょう。
シニアの転倒には、大きく分けて2つの要因があります。
・年齢を重ねて起こる身体の変化(内的要因)
・身の回りの環境(外的要因)
■身体の変化(内的要因)
年齢を重ねて起こる身体機能の変化や、持病、薬の影響などにより、転倒しやすくなることです。
筋力の低下:つまずきやすくなる、踏ん張りがききにくくなる
バランスの低下:ふらつきやすくなる、バランスを崩した際に立て直しにくくなる
柔軟性の低下:足首が硬くなると、つま先が上がりにくくなる、ひざや背中が曲がると、とっさの一歩が出にくくなる
痛み:ひざや腰の痛みにより、動く際に必要な力が十分に発揮しにくくなる
視力や聴力の衰え:段差や周りの音に気づきにくくなり、危険を避けにくくなる
病気や薬の影響:めまいやふらつきを起こす場合がある
■身の回りの環境(外的要因)
ふだんの生活環境の中に潜んでいる転倒の危険性を指します。
段差:部屋と廊下の境目、玄関の上がりかまちなどで、つまずいたり踏み外したりする
床:フローリングや畳で滑ったり、カーペットがずれて滑ったりする、浴室の濡れた床で滑る
明るさ:暗い場所では足元が見えにくく、段差を見落とす
手すり:廊下や段差のそばに手すりがないと、ふらついたり、足を引っかけたりする
コード類:電化製品のコードに足を引っかける
履物:スリッパや靴下で滑ったり、サイズの合わない靴でつまずいたりする
まずは「身体」と「環境」の要因について知り、どの点にリスクがあるかを把握しておきましょう。
転倒予防には、身体と環境の両方からの対策が重要です。ご本人と相談しながら、無理なく続けられることから始めてみましょう。
■身体を整える(内的要因への対策)
毎日の生活の中で、少しずつ身体を動かす習慣をつけていきます。無理のない範囲で、楽しみながらできる運動を取り入れてみましょう。
【筋力トレーニング】
椅子からの立ち座り
鍛える場所:太ももの前側
ポイント:身体を前に傾けながら、ゆっくりと立ち座りを繰り返す、疲れ具合に応じて5~10回から始める
もも上げ運動
鍛える場所:脚の付け根
ポイント:椅子に浅く座り、背筋を伸ばして、左右のももを交互に上げる。20回を目安に行う
かかとの上げ下ろし
鍛える場所:ふくらはぎ
ポイント:椅子やテーブルに手をつき、ゆっくりとかかとの上げ下ろしを20回繰り返す。身体が前に傾かないように注意する
【バランストレーニング】
身体のねじり運動
ポイント:足を肩幅に開き、身体を左右にゆっくりねじって後ろを見る。ふらつかないようにバランスをとり、左右10回ずつ行う
前後のステップ運動
ポイント:椅子やテーブルに片手をつき、前後に足を10回ずつ出して体重を移動させる。身体を起こしたまま行い、前に傾かないように意識する
左右のステップ運動
ポイント:椅子やテーブルに片手をつき、片足を外側に出し、戻す動作を10回繰り返す。慣れてきたら、足を戻す際に内側に交差させる動きに変える
【ストレッチ】
※伸ばす時間は、すべて20秒を目安にする
脚の付け根
ポイント:ベッドで仰向けになり片方の脚を下ろし、もう片脚を膝から抱える。反動をつけずに、ゆっくりと胸の方に引き寄せる
太ももの前側
ポイント:うつ伏せになり、片方の膝を曲げて足首を持ち、お尻に近づける。腰が反らないようにし、呼吸を止めずに行う
太ももの後ろ
ポイント:椅子に座り、片方の脚を前に伸ばす。伸ばした脚に両手を置き、ひざからすねにかけてゆっくりと手を滑らせる
ふくらはぎ
ポイント:椅子やテーブルに両手をついて立ち、片脚を後ろに伸ばす。かかとを床につけたまま、前のひざをゆっくりと曲げる
【その他の対策】
・薬の影響への対策
服用中の薬によってふらつきがある場合は、かかりつけ医や薬剤師に相談しましょう。
・視力低下への対策
視力に合った眼鏡を使用し、白内障や緑内障などの病気がある場合は、忘れずに適切な点眼薬を使いましょう。
・聴力低下への対策
難聴は、転倒リスクを高める可能性があると報告されています。必要に応じて補聴器の使用や耳鼻科の受診を検討しましょう。
■転倒しにくい環境をつくる(外的要因への対策)
転倒しにくい環境づくりは、すぐに効果を実感しやすいのが特徴です。
段差
対策:
・廊下と部屋の間にスロープを設置する
・上がりかまちにはステップ台や手すりを設置する
床
対策:
・よく歩く場所やカーペットの下、浴室の床には滑り止めマットを敷く
明るさ
対策:
・夜間は、まぶしすぎないフットライトを使う
・人の動きを感知して点灯するセンサー付きライトの使用を検討する
手すり
対策:
・歩行時のふらつきには、家具の配置の工夫や手すりの設置などにより、常にどこかに手をつけるようにする
・杖や歩行器なども利用する
・トイレや浴室の入り口に高い段差がある場合は、縦型の手すりを設置する
コード類
対策:
・コード類は部屋の隅を通るようにまとめる
・電化製品の配置も見直す
履物
対策:
・滑り止め付きのスリッパや靴下を選ぶ
・かかとがしっかり収まり、中で足がずれないサイズの靴を選ぶ
シニアの転倒には、身体と環境の2つの要因があり、それぞれに合わせた対策をすることで転倒が予防できます。どこから始めたらよいかわからない、不安なことがあるという場合は、いつでも専門家にご相談ください。
監修:中谷ミホ
写真:PIXTA
著者:鈴木康峻
2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。
得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級