サルコペニアとは、加齢などによって筋肉が減少し、筋力や身体機能が低下してしまう状態を指します。進行すると、転倒や骨折の危険性が高まり、将来的に介護が必要になるリスクも無視できません。
そこで今回は、理学療法士の視点から、自宅で簡単にできるサルコペニア予防のための運動と食事のポイントを解説します。健康寿命を延ばすために、ぜひ今日から実践してみましょう。
サルコペニアとは、ギリシャ語の「サルコ(筋肉)」と「ペニア(減少)」を組み合わせた言葉で、「加齢に伴う骨格筋量の減少と筋力・身体機能の低下」と定義されています。主な症状や原因、リスクなどをみていきましょう。
■主な症状
サルコペニアが進行すると、次のような変化が少しずつ表れるようになります。

力が入りにくくなる
・びんのふたが開けにくくなる
・重い荷物を持ち上げにくくなる
・立ち上がる時に手すりが必要になる
歩く速度が遅くなる
・青信号のうちに横断歩道を渡りきれなくなる
疲れやすくなる
・買い物や散歩で息が切れる
・少し動いただけで休みたくなる
感染症や病気にかかりやすくなる
・熱を出しやすくなる
・風邪をひきやすくなる
このように、サルコペニアは単なる足腰の衰えに留まらず、全身の機能、そして健康寿命全体に大きな影響を与えます。
■主な原因
サルコペニアの主な原因は「加齢」です。一般的に、筋肉量は25〜30歳頃をピークに徐々に減少していくといわれています。この加齢による減少に、以下の要因が重なると筋肉の衰えはさらに加速します。

活動量の低下:けがや病気、外出機会の減少などから運動不足が続くと、筋力が低下します。
栄養不足:食事量が減り、特にたんぱく質の摂取が不足すると、筋肉が痩せやすくなります。
病気の影響:心不全や慢性の呼吸器疾患、糖尿病などにより体内で炎症が起こると、筋肉が分解されやすくなります。
■リスク
サルコペニアが進行すると、歩行中にバランスを崩しやすくなったり、足が上がりにくくなったりするため、転倒や骨折の危険性が高まります。
特に骨折により長期間の入院や安静を余儀なくされると、活動量が大きく減少します。その結果、身体機能のさらなる低下に加え、認知機能の低下や意欲の減退なども引き起こされ、心身の衰えが加速するのです。
この状態が続くと、やがて自立した生活が困難になり、介護が必要な状態へと陥ってしまうのです。

サルコペニアを予防するには、「運動」と「食事」の両方をバランスよく取り入れることが大切です。どちらか一方だけでは、十分な効果は得られません。特に栄養が不足した状態で無理に運動を続けてしまうと、かえって筋肉が減ってしまうおそれがあります。
一方で、たんぱく質を多く摂っても、運動による適度な刺激がなければ筋肉は効率的に合成されないのです。実際に、たんぱく質の摂取と筋力トレーニングを併用した研究では、筋肉量・脚の筋力・歩行速度が改善したと報告されています。
このようにサルコペニアの予防には、運動で筋肉を刺激し、食事でしっかりと栄養を補うことが不可欠です。どちらかに偏らず、意識して両方を取り入れましょう。
ここからは、サルコペニア予防に効果的な運動メニューを紹介します。ご自宅で無理なくできるメニューですので、安全に十分注意しながら、ご自身のペースで取り組んでみてください。
①スクワット
脚全体を効率的に鍛える運動です。

1. 椅子の背もたれやテーブルに両手をつき、足を肩幅に開いて立つ
2. お尻を軽く後ろへ引き、椅子に座るように2〜3秒かけてひざと腰を曲げる
3. 2〜3秒かけてひざを伸ばし、元の姿勢に戻る
実施目安:まずは、5〜10回を1セットとし、1日1〜2セットから始めましょう。
ポイント:ひざに痛みがある場合は、しゃがむ深さを浅くして調整してください。転倒に不安がある方は、椅子を使って行ってもかまいません。
②もも上げ
太もものつけ根を鍛え、歩行時の脚の振り出しを改善する運動です。

1. 椅子やテーブルの横に立ち、片手を軽く添える
2. 足を腰幅に開き、背筋を伸ばす
3. ももを片方ずつ、90°くらいまで上げる
4. 交互に繰り返す
実施目安:10〜20回を1セットとし、1日2〜3セットを目標に行いましょう。
ポイント:身体を後ろに反らすと効果が薄れるため、背筋をまっすぐに保ちましょう。立って行うのが難しい場合は、椅子に深く座って行ってもかまいません。その際は、背筋を伸ばした状態で骨盤を立てるように意識しましょう。
③かかと上げ
ふくらはぎを鍛え、歩行時の蹴り出しを強くする運動です。

1. 足を肩幅に開いて立ち、壁や椅子に手を添えて身体を支える
2. かかとをゆっくりと上げ、つま先立ちになる
3. かかとをゆっくりと下ろす
実施目安:10〜20回を1セットとし、1日2〜3セットを目安に行いましょう。
ポイント:かかとは「ストン」と勢いよく落とさず、筋肉でブレーキをかけるようにゆっくり下ろすことで、持続的に負荷がかかり、筋肉の強化につながります。
④つま先上げ
すねの前側を鍛えます。歩行時のつま先の引っかかりを防ぎ、後方への転倒予防に役立ちます。

1. 背筋を伸ばして椅子に腰かける
2. 両方のつま先を上げ下げする
実施目安:20回を2〜3セット行いましょう。
ポイント:負荷を強めたい場合は、鍛えたい足の上にもう片方の足を乗せ、軽く体重をかけて片方ずつ行うと、より効果的です。
運動で筋肉を刺激したあとは、食事でしっかりと栄養を補うことが大切です。中でも、特に意識して摂りたい栄養素は「たんぱく質」と「ビタミンD」です。
①たんぱく質
たんぱく質は筋肉をつくるために欠かせない栄養素です。1日の摂取目安は、体重1kgあたり約1.2gとされています。
・体重50kgの方⇒約60g/日
・体重60kgの方⇒約72g/日
たんぱく質は、以下のような食品に多く含まれています。
・肉類:鶏むね肉、ささみ、豚ヒレ肉など
・魚介類:鮭、マグロ、サバ缶など
・卵類:鶏卵
・大豆製品:豆腐、納豆など
・乳製品:牛乳、チーズ、ヨーグルトなど
これらを朝・昼・夕の3食に分けてバランスよく摂りましょう。
〈献立の例〉
主食以外のおかずで、次のような簡単な組み合わせでも目標摂取量に近づけます。
・朝:納豆+卵焼き(卵2個)
・昼:鶏肉のソテー+豆腐のみそ汁
・夜:鮭の塩焼き+冷ややっこ
まずは「いつもの食事に、たんぱく質をもう一品加える」という意識で、無理なく続けてみましょう。
②ビタミンD
ビタミンDは、たんぱく質が筋肉に変わるのを助ける栄養素です。1日あたりの推奨量は約9.0μgとされています。ビタミンDは、以下のような食品に多く含まれています。
・魚介類:鮭、マグロ、サバ、マス、しらす干しなど
・きのこ類:きくらげ、干ししいたけなど
これらの食品は、少量でもビタミンDを効率よく摂取できるため、積極的に取り入れましょう。朝・昼・夕のいずれか1食に、魚やきのこを1品ずつ加えるくらいのバランスが理想的です。

安全に無理なく運動を続けるために、以下の点を心がけましょう。
■運動を続けるコツ
運動は、なによりも「頑張りすぎない」ことが長続きの秘訣です。たとえば、「テレビのCM中だけ行う」「朝起きたら、まず3回だけかかと上げをする」といった、ごく簡単なルールを決めるのもよい方法です。また、実行した日はカレンダーに印をつけたり、シールを貼ったりするのもおすすめです。 自分の頑張りが「目に見える」と、モチベーションの維持につながります。
ご家族が「調子はどう?」「今日もできたね」と声をかけたり、時には一緒に運動したりすることも、コミュニケーションの機会が増え、ご本人の大きな励みになるでしょう。
■安全に行うための注意点
体調がすぐれないときは、決して無理をしないでください。 発熱や倦怠感、体のどこかに痛みがある場合は「休む」ことも大切です。
また、持病(高血圧、心臓病、糖尿病など)をお持ちの方は、特に注意が必要です。 血圧や脈拍の制限、あるいは「やってはいけない動作」を主治医から指示されている場合もあります。主治医に相談してから運動に取り組んでください。

著者:鈴木康峻
2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。
得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級