歩くことは年齢を問わず健康維持に役立つ習慣のひとつです。一方、年齢を重ねるとさまざまな理由から転倒しやすくなるため、ケアを受ける本人の状態に応じたサポートが必要になります。
本記事では、主に自宅やその周辺で行う歩行介助のポイントと注意点を解説します。
歩行介助とは、年齢とともに足腰が弱ってきた高齢の方が安全に歩けるようサポートすることです。
足腰の筋肉が低下すると、椅子から立ち上がりや歩いている際にふらつきやすくなり、転倒する恐れがあります。
本人の状態に合わせた適切なサポートをすることは、転倒を予防し健康的なシニアライフ
を送る一助となるでしょう。
▪転倒や寝たきりのリスクが減る
歩くことで足腰の筋肉を使うため、転倒や寝たきりになるリスクを下げられます。筋力を維持することで、日常生活の動作も安定しやすくなります。
▪行動範囲が広がり、気持ちが前向きになる
自分の足で歩けるようになると、外出機会が増え、行動範囲が自然に広がります。さらに、外の空気に触れたり他者と交流したりすることは、脳への良い刺激となり、気持ちも明るくなりやすいものです。
▪生活習慣病や骨粗しょう症の予防につながる
厚生労働省によると、「歩行を中心とした身体活動を増やすことで、生活習慣病の発症を数%減少させることが期待できる」とされています。骨粗しょう症の予防や睡眠の質の向上など、歩行によるメリットは生活全般に及びます。
▪ケアを受ける本人とケアラー双方の健康習慣になる
適度な距離を歩くことは、ケアを受ける方だけでなく、ケアラーの健康維持にもつながります。ぜひ楽しみながら歩く機会を増やし、互いに健康的な生活を目指してみましょう。
▪ 見守り歩行(自力で歩けるが、少しふらつきのある人が対象)
① ケアを受ける本人の斜め後ろに付き、本人に直接触るのではなく見守る形でサポートする。
② 麻痺がある人は麻痺がある側、杖歩行の人は杖を持っていない側と、バランスを崩しやすい方に立つ。
※ただ見守るのではなく、本人がふらついたときにすぐ支えられる距離にいることが大切。
▪ 寄り添い歩行(見守りだけだと転倒の恐れがある人が対象)
① ケアラーはケアを受ける本人の利き手と逆側、麻痺がある人の場合は麻痺がある側に立つ。
② 本人が右利きの場合、ケアラーの右手を本人の右脇に入れ、左手はお互いに握りあうようにして歩く。
▪ 手引き歩行(寄り添いだけだと歩行状態が不安定な人が対象)
① ケアを受ける本人と向き合った状態で、ケアラーは本人の肘に下から手をあてる。
② 本人には、ケアラーの肘の内側を上から持ってもらう。
③ 本人にできるだけ重心を前に置いてもらうようにすると歩きやすくなる。
※ケアラーは後ろ向きのまま歩くため、障害物に注意が必要。室内で短い距離を歩くときに適したケア方法。
▪ 杖歩行(杖歩行の状態が不安定な人が対象)
① ケアラーは杖を持っていない側に立ち、ケアを受ける本人の脇の下と肘を軽く支える。
② ケアラーは本人が踏み出した足と同じ側の足を踏み出し、本人のペースに合わせて歩く。
※杖の長さは、ケアを受ける本人の肘が30°曲がるくらいに調整すると歩きやすい。
▪ 階段の昇り降り(階段で転倒やふらつきの危険性が高い人が対象)
① ケアラーは、階段を昇る際はケアを受ける本人の斜め後ろ、降りる際は斜め前方に立ち、本人の身体を軽く支える。
※麻痺がある人の場合は、手すりか杖を持った状態で
・昇るとき:杖(手すり)→良い方の足→悪い方の足
・降りるとき:杖(手すり)→悪い方の足→良い方の足
の順番で足を出してもらうように声かけする。
ケアを受ける本人の歩く様子を観察したうえで、適切な介助方法を選びましょう。サポートの仕方に悩んだら、担当ケアマネジャーや本人が利用している介護施設の職員などに相談するのもおすすめです。
▪ ケアを受ける本人の体調や転倒リスクを把握しておく
本人のその日の体調によっては、歩行時にふらつきが出やすくなり、転倒リスクが変化します。また、麻痺やパーキンソン病などの疾患がある場合は、歩行状態が不安定になる可能性がありますので、事前に確認しておきましょう。
▪ 本人の服や靴が歩きやすい物か確認する
本人の身体に対して大きすぎる服や靴は、歩行を妨げたり、物に引っかかりやすくなったりして事故につながる恐れがあります。靴や服のサイズが身体に合っているか、また滑りにくく歩行に適した靴であるかを確認しておくと安心です。
▪ 歩行ルートに障害物やつまずきやすいものがないかをチェックする
高齢の方は、電気コードやカーペットなどのわずかな段差でつまずきやすい傾向があります。よけられる障害物がある場合は、事前に取り除いておくことで安全に歩きやすくなります。
▪ 一度に長い距離を歩かないようにする
一度に長距離を歩くと、疲労から転倒リスクが高まる可能性があります。長い距離を移動する必要がある場合は、あらかじめ歩行ルートを確認し、途中で休憩できる場所を設けるなどの工夫をするとよいでしょう。
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)