大切な家族を見送るお葬式だからこそ、できる限り悔いのないかたちで送り出したい―。そう願う方にとって、事前に葬儀社を決めておくことは大切な準備のひとつです。しかし、いざ選ぶとなると「何を基準に選べばいいのかわからない」と悩む方もいるでしょう。
そこで今回は、葬儀業界で30年のキャリアを持ち、約2,500件の葬儀に携わってきた増井康高さんに「後悔しない葬儀社の選び方」について伺いました。増井さんによれば、ポイントは「質問しやすい担当者」がいるかどうかだといいます。その理由を詳しく聞いてみました。
増井康高(ますい やすたか)
株式会社Mシステムズ代表取締役。家族の死をきっかけに大手葬儀社へ入社し、25年間で約2500件の葬儀を担当。葬儀・供養・相続・終活の専門家として活動し、講演実績も多数。「デジタル終活グループ」の運営や生前契約サービス「あんしん火葬」を手掛けるなど、時代のニーズに合わせた新しい終活・葬儀の形を提案している。
「あんしん火葬」https://anshin-kaso.jp/
写真:中谷ミホ
──なぜ「質問しやすい担当者がいる葬儀社」がよいのでしょうか?
「葬儀は、人生で何度もあるものではないので、多くの方にとって馴染みが薄く、専門用語や儀式の意味を理解するのが難しいものです。
たとえば、パンフレットに『枕飾り○○円』と書かれていても、初めて葬儀を経験する方には、それが何を指しているのか、どんな意味を持つのか理解できないのは当然です。『これは一体どういうもの?』『本当に必要なものなのだろうか?』といった疑問が次々と浮かんでくると思います。
また、担当者が自分より若い人だったりすると『こんな基本的なことも知らないと思われるのでは?』と萎縮して、質問しづらくなる方もいらっしゃいます。聞きたいことを質問しないまま進めてしまうと、あとから『こんなはずじゃなかった』と後悔する結果になりかねません。だからこそ、『どんなことでも気軽に聞ける』『気になったらすぐ相談できる』という関係を築ける担当者と出会えるかどうかが大切なんです。
葬儀プランの説明が上手な葬儀社はいくらでもいます。プロですから丁寧に説明してくれるでしょう。ただ、それ以上に大事なのは『何でも聞ける担当者』なんです。
どんな些細なことでも気軽に疑問点を質問できる担当者がいれば、準備段階から葬儀後まで、安心して過ごすことができます。説明の上手さも大切ですが、それ以上に『質問しやすいか』『親身になってくれるか』という点を重視するのがポイントですね」
──“質問しやすい担当者”がいる葬儀社は、どうすれば見つかりますか?
「いちばん確実なのは、知り合いや親戚からの紹介です。葬儀業界で働いている知り合いがいれば、直接話を聞いてみてください。また、過去に葬儀を経験した方に紹介してもらうのもおすすめです。実際に依頼して良かったと思える方の紹介であれば、安心して任せられるでしょう」
──そのような知り合いがいない場合は、どうすればよいですか?
「紹介してくれる方がいない場合は、まずは自宅や実家の近くにある葬儀社を2〜3社選んで、実際に足を運んでみてください。最近はホームページや資料請求だけで葬儀社を決める方も増えていますが、担当者との相性は会って話さないとわからないものです。
『少しお話を聞きたいのですが……』と気軽に訪ねて、担当者の雰囲気や対応をチェックしてみるといいですね。『この人なら話しやすそう』『費用のことも相談しやすい』と感じられる担当者なら安心です。ただし、規模の大きな葬儀社では、担当者が異動することもあります。そのため、葬儀当日まで同じ担当者が対応してくれるかどうかを事前に確認しておくことも大切です」
──料金プランを見比べて選ぶのは避けた方がよいのでしょうか?
「葬儀費用の合計額だけを見て葬儀社を選ぶ人は多いと思います。しかし、単に数字だけで葬儀社を選ぶのは避けた方が賢明です。なぜなら、葬儀費用に含まれるサービスの内容は、葬儀社によって大きく異なるからです。たとえば、後から追加料金が発生しないように、必要なものを全て含めたプランを提示する葬儀社もあれば、基本料金を低く設定し、後からオプションを追加していく葬儀社もあります。
そのため、合計金額だけで比較してしまうと『思ったより費用がかさんでしまった』『必要ないものまで含まれていた』といったトラブルにつながる可能性があります。
重要なのは、料金プランの『内訳』をしっかりと確認することです。とはいえ、専門的な知識がない方には、その内容を理解するのが難しい部分でもあります。だからこそ、不明点を気軽に質問できる担当者がいる葬儀社を選んでいただきたいのです」
──最後に、葬儀社選びに悩む方へメッセージをお願いします。
「亡くなってから実際に葬儀を行うまでの時間はとても短く、精神的にも余裕がないことがほとんどです。そんな状況だからこそ、葬儀社の担当者とのコミュニケーションがスムーズに進むかどうかは、非常に重要なポイントとなります。
たとえば、病院や施設で身内が亡くなった際、葬儀社の都合で『すぐにお迎えにあがれません』と言われることがあります。
信頼関係が築けていれば『わかりました。落ち着くまで待ちます』と受け止められるかもしれません。しかし、コミュニケーション不足の場合『どうしてすぐ来てくれないの?』『本当に大丈夫?』といった不信感につながることがあるんです。コミュニケーションがとれる担当者は、金額では得られない安心感を与えてくれます。
どんな些細な疑問でも聞きやすい担当者であれば、こうした不安を抱えずにすみます。だからこそ、事前に『この人なら信頼して相談できる』と感じる担当者のいる葬儀社を選ぶことが、安心につながるのです。後悔のない葬儀を行うために、信頼できる担当者、そして葬儀社を見つけていただきたいと思います」
お葬式の準備や費用は、経験がなければ分からないことばかりです。だからこそ“質問しやすい担当者”がいることは、大きな安心感につながると感じました。信頼できる担当者を見つけること。それが、心に残るお見送りにつながるのではないでしょうか。
写真(トップ):PIXTA
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級