親の金銭管理に不安を感じた時、日常的なお金の出し入れや書類管理をサポートしてくれる「日常生活自立支援事業」という公的な福祉サービスがあります。「成年後見制度を使うほどではないけれど、少し手助けが欲しい」という段階で活用できる制度です。今回は、その仕組みと具体的な利用方法について解説します。

「通帳が見当たらない」「公共料金を払い忘れた」……。親にこうした物忘れが増えてくると、「お金の管理は大丈夫だろうか」と心配になりますよね。
認知症や加齢により判断能力が低下すると、日常的な金銭管理に支障が出始めます。具体的には、以下のようなサインが見られたら注意が必要です。
・通帳や印鑑の保管場所がわからなくなる
・公共料金や家賃の支払いを忘れる
・訪問販売などで不要な契約をしてしまう
・生活費を渡しても、すぐに使い切ってしまう
こうした変化に気づいた時、まず家族がサポートしようと考えるでしょう。しかし、遠方に住んでいたり、仕事で頻繁に訪問できなかったりすると、日常的な金銭管理までサポートするのは難しいのが現実です。
「それなら、訪問介護のヘルパーに頼めないか?」と考える方もいるかもしれません。しかし、ヘルパーができるのは「日用品の買い物代行」などの生活援助まで。銀行での預貯金の引き出しや通帳・キャッシュカードの預かりといった金銭管理に関わる行為は禁止されています。
家族によるサポートは難しく、ヘルパーにも頼めない……。そんな場合に活用したいのが、「日常生活自立支援事業」です。
日常生活自立支援事業は、市区町村の社会福祉協議会(社協)が窓口となって行う福祉サービスです。地域によっては「あんしんサポート」や「かけはし」といった愛称で呼ばれています。
◾️対象となる人
認知症、知的障がい、精神障がいなどにより判断能力に不安のある方が対象です。ただし、この制度を利用するには「契約内容を理解できる判断能力」が必要です。
◾️利用に必要な判断能力とは
日常生活自立支援事業は、本人と社協が契約を結んで利用するサービスです。そのため、以下の内容を理解できることが求められます。
1.自分がどのような福祉サービスを受けるのか
2.サービスを受けることで利用料が発生すること
3.社協と契約を結ぶという意思確認
※本人の判断能力が不十分な場合は「成年後見制度」の利用を検討することになります。
具体的に受けられるサービスは、大きく分けて以下の4つです。
① 福祉サービスの利用援助
介護保険サービスや障害福祉サービスなどを安心して利用できるよう、手続きや相談のサポートを受けられます。
・福祉サービスの利用に関する情報提供、相談
・福祉サービスの利用申し込みや契約の代行・代理
・入所中の施設や入院中の病院でのサービス利用に関する相談
・サービスへの苦情解決制度の利用支援
② 日常的な金銭管理サービス
日常的なお金の出し入れや支払いを代行してもらえます。
・福祉サービスの利用料、医療費、税金、社会保険料、公共料金などの支払い代行
・年金や福祉手当を受け取るために必要な手続き
・日用品購入の代金支払い
・銀行での預金の引き出し、預け入れ、解約の手続き
③ 日常生活に必要な事務手続き
生活環境の整備や権利を守るための事務手続きをサポートしてもらえます。
・住宅改修(リフォーム)や、家を借りる際の情報提供・相談
・住民票の届け出など行政手続きの支援
・郵便物の内容確認と必要な手続きの支援
・訪問販売などのトラブル対応(クーリング・オフ手続きなど)
④ 書類等の預かりサービス
紛失や盗難を防ぐため、大切な書類などを安全な場所(銀行の貸金庫など)で保管してもらえます。
【預かり可能なもの】
年金証書、預貯金通帳、証書(保険証書、不動産権利証、契約書など)、印鑑、カード類など。
※宝石、書画、骨董品、貴金属、現金、遺言書などは預けることができません。
これらのサービスは、自宅での生活はもちろん、施設や病院で生活している場合でも受けられます。

◾️相談・申込先
お住まいの地域の「社会福祉協議会」が窓口です。
◾️利用料の目安
相談は無料ですが、サービス利用は有料です。
・基本料金:1回(1時間程度)あたり1,200〜1,500円程度
・書類預かり:月額250〜500円程度の保管料がかかる場合があります
※金額は自治体により異なります。
◾️契約までの流れ
1.相談:社協へ電話や窓口で相談します。
2.調査・判断能力の判定:専門員が本人の困りごとや生活状況、判断能力を確認します。
3.支援計画の作成:専門員と一緒に「支援計画」を作成し、具体的な援助内容や実施頻度を決めます。
4.契約締結:利用者本人と社協で利用契約を結びます。
5.サービス開始:「生活支援員」による援助がスタートします。
日常生活自立支援事業を利用する前に、必ず確認しておきたい3つのポイントがあります。
①「判断能力」があることが前提
この制度を利用するには「契約の内容を理解できる能力」が必須です。認知症が進行し、判断能力が著しく低下している場合は契約を結ぶことができません。その場合は「成年後見制度」の利用を検討することになります。
②日常の範囲を超えることは対象外
日常生活自立支援事業は、あくまで「日常」の範囲をサポートするものです。以下のような行為はサービスの対象外となります。
・不動産の売却・処分
・施設入所の際の保証人や身元引受人
・資産運用(投資など)
③利用開始までに数ヶ月の期間が必要
初回相談から契約締結(利用開始)までは、約2〜3ヶ月かかります。地域や本人の状況によってはそれ以上かかる場合もあるため、急を要する場合は早めの相談が必要です。
日常生活自立支援事業は、判断能力がある段階で利用できる公的サービスです。「親の金銭管理に困ったら頼れる場所がある」と知っておくだけでも、いざという時の安心につながります。
親が通帳や印鑑の管理に不安を感じていたり、お金の出し入れに困る様子が見られたら、まずはお住まいの地域の社会福祉協議会へ相談してみましょう。
▶︎詳しくはこちら:厚生労働省「日常生活自立支援事業」
写真:写真AC、PIXTA
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級