シニア世代の骨折は、要介護状態や生命に関わる深刻な問題につながることがあります。
今回は、シニアが特に注意すべき4大骨折の特徴やリスク、今日から実践できる予防策を理学療法士の視点から解説します。
シニアが特に骨折しやすい4つの部位と、それぞれの主な原因は以下のとおりです。
まずは全体像を把握し、どの部位がどのような状況で骨折しやすいのかを押さえておきましょう。
■大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)
バランスを崩して横向きに転倒し、腰の横を強打することで起こる、太ももの付け根の骨折です。大腿骨は体重を支える重要な役割を担っているため、骨折すると立ったり歩いたりすることができなくなります。
多くの場合、手術が必要です。入院生活やベッド上で過ごす時間が長引くと、筋力や体力が衰えてしまいます。そのため、この骨折をきっかけに寝たきりになったり、退院後に閉じこもりがちになったりするケースも少なくありません。
■脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)
背骨が押しつぶされるように変形する骨折で、尻もちをついた際の衝撃で起こります。ただし、必ずしも激しい転倒が原因とは限りません。骨がもろくなっていると、くしゃみや重い荷物を持ち上げる動作だけで骨折することもあります。
骨折直後はコルセットで固定し、身体を深くかがめないようにする必要があります。骨折が治れば痛みが軽減する方も多いですが、腹筋や背筋が弱まり慢性的な痛みが続いたり、身長が縮んだりするケースもあります。
■橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)
転倒時にとっさに手をついた際に起こる、手首の骨折です。「橈骨」とは、肘から手首にかけてある2本の骨のうち、親指側にある骨を指します。
直接命に関わることは少ないものの、食事や排せつ、着替えなどの日常生活動作に支障をきたしやすくなります。治療はギプスで固定しますが、骨が大きくずれている場合は手術が必要です。
■上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)
転倒して肩を直接ぶつけたり、肘をついたりした際の衝撃で起こる、肩に近い部分の骨折です。肩が動かせなくなると、洗顔や整髪、着替えといった身の回りの動作が困難になります。
三角巾で固定する保存療法で治癒するケースもあれば、骨のずれが大きく手術が必要な場合もあります。リハビリが遅れると関節が固まり、腕が上がらない、肩が回せないといった後遺症が残ることもあるため注意が必要です。
シニアがちょっとした転倒でも骨折しやすいのは、骨そのものの弱さと身体機能の低下が主な原因です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
■骨粗しょう症による骨密度の低下
高齢になると、骨の中身がスカスカになり強度が低下する「骨粗しょう症」を発症しやすくなります。若い頃なら打撲で済むようなわずかな外力でも、骨粗しょう症になると骨が耐えきれずに折れてしまいます。
特に女性は、閉経後に女性ホルモンの分泌が減り、急激に骨が弱くなる傾向があります。骨粗しょう症は自覚症状がないまま進行するため、骨折して初めて自分の骨がもろくなっていたことに気づく方も少なくありません。
■加齢に伴う筋力やバランス能力の低下
骨のもろさに加え、転倒しやすくなる身体の変化も見逃せません。加齢により筋肉量が減少し、身体機能が低下する「サルコペニア」や、立ったり歩いたりする機能が低下する「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」になると、転倒のリスクが高まります。
さらに、バランス感覚や反射神経も鈍くなるため、つまずいたときに体勢を立て直せず、そのまま転倒してしまうことが多くなります。
シニアの骨折は、一度起きると次々と骨折を繰り返す「ドミノ骨折」や、入院・活動量低下による要介護化、さらには生命に関わるリスクを伴います。「治れば元通り」と思いがちですが、実はそう単純ではありません。
■リスク①:一度折れると次も折れやすい「ドミノ骨折(骨折の連鎖)」
一度でも骨折を起こした人は、そうでない人に比べて再び折れるリスクが高くなります。
ドミノ倒しのように骨折が連鎖することから「ドミノ骨折」と呼ばれています。例えば、次のようなケースです。
1.最初の骨折(手首)
自宅の庭で転倒し、手首を骨折。検査の結果、骨粗しょう症が判明するも、特に対策はとらなかった。
2.二度目の骨折(背骨)
骨粗しょう症の治療を受けなかったため、骨はさらにもろくなっていく。数年後、尻もちをついた拍子に背骨を圧迫骨折。慢性的な痛みで活動量が減り、筋力も衰えていった。
3.三度目の骨折(大腿骨)
腰痛で動きが鈍くなり、バランス能力も低下。ある日、自宅で転倒し、大腿骨を骨折してしまう。
このように、最初の骨折は全身の骨が弱っているサインです。骨粗しょう症が判明した時点で治療を始めていれば、二度目、三度目の骨折は防げたかもしれません。しかし対策を怠ったことで、骨折→活動量の低下→さらなる骨折という負の連鎖が始まってしまったのです。
■リスク②骨折後の活動量低下が招く「要介護化」や「生存率の低下」
骨折で入院すると、退院後に「また転ぶのが怖い」と家に閉じこもりがちになる方も少なくありません。
活動量が減るとさらに筋力が落ち、認知機能も低下するという悪循環に陥ります。その結果、要介護状態へと悪化してしまう可能性があります。
さらに、大腿骨近位部骨折では、受傷後1年以内の死亡率が約10%に上るとされています。(※)
骨折そのものが直接の死因ではなく、痛みや安静による活動量の低下が肺炎や心不全、血栓症などの合併症を引き起こすためです。
・参考:日本整形外科学会「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン2021」p96
ここからは、「環境整備」「食事」「運動」の3つの観点から、骨折を防ぐ方法を解説します。
■対策①環境整備
自宅内での転倒を防ぐため、次のような対策を行いましょう。
・カーペットの端をテープで固定する
・電気コードを壁際に寄せる
・玄関や階段、浴室などに手すりを設置する
・足元を照らす人感センサー付きライトを取り付ける
・履物を脱げやすいスリッパから、足にフィットするルームシューズに替える
わずかな段差や暗がりが転倒の原因になります。日頃から住環境を見直しておくことが大切です。
■対策②食事
強い骨を作るには、カルシウムだけでなく、その吸収を助けるビタミンDやビタミンKの摂取も欠かせません。以下の食品を積極的に取り入れましょう。
・カルシウム:乳製品(牛乳・チーズ・ヨーグルト)、小魚、野菜類(水菜・小松菜)、海藻
・ビタミンD:脂の多い魚(サバ・鮭)、きのこ類
・ビタミンK:納豆、小松菜、ほうれん草
これらの栄養素をバランスよく、毎日の食事に取り入れることが大切です。
■対策③運動
運動には、筋力やバランス能力を高めるだけでなく、骨に刺激を与えて強くする効果もあります。以下のような運動が効果的です。
・筋力強化:椅子を使った立ち座り運動(椅子スクワット)は、体への負担が少なく、効率的に脚を鍛えられます
・バランス向上:片脚立ちや、つま先立ち・かかと上げの運動で、ふらついたときに体勢を立て直す力が身につきます
・骨の強化:つま先立ちの姿勢から両方のかかとを「ストン」と落とす運動で、大腿骨に適度な刺激を与えられます
「1日1回から」「テレビを見ながら」くらいの軽い気持ちで構いません。無理のない範囲で取り組んでみてください。
シニアの骨折は、単なるけがでは済まないことがあります。要介護状態や生命に関わる深刻な事態につながる可能性もあるため、日頃からの予防が大切です。
対策を始めるのに「早すぎる」ということはありません。今日から環境整備・食事・運動の3つに取り組み、健康で自立した生活を続けていきましょう。
監修:中谷ミホ
写真:写真AC、Freepik
著者:鈴木康峻
2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。
得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級