「ユマニチュード」というケア技法について、「聞いたことはあるけれど、自宅で行うのは難しそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし、ポイントを押さえれば自宅でも実践が可能で、ケアラーの負担を軽減することにもつながります。
今回は、ユマニチュードのケア内容をわかりやすく解説します。

ユマニチュードは「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語の造語で、フランスの体育学の専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人が、ケア現場での経験をもとに生み出しました。
高齢者や認知症の方はもちろん、ケアを受けるすべての人を対象に「優しさを伝え、絆を育むケア技法」を提唱しています。日本で普及し始めたのは2014年頃からで、現在では介護施設だけでなく、自宅での認知症ケアにも広く用いられています。
ユマニチュードでは、ケアを受ける人の尊厳を守るために3つの目的を掲げています。
1.心身の回復
本人に必要なケアを行うと同時に、今本人ができることまでケアラーが手を出してしまわないように努めます。何もかもケアしてしまうと、本人が考えて行動する機会が減少し、心身の機能が低下する恐れがあるためです。
例えば本人が服を着替える時は、本人ができない部分のみを手伝い、それ以外はケアラーが見守りながら本人が行うように調整してみましょう。
2.本人の尊厳を保つための機能維持
たとえ心身の完全な回復が難しい場合でも、本人が「今できる行動」を続けることは自立を促し、尊厳を保つことにつながります。一例として筋力が弱っている方が外出する際、ベッドから玄関までは歩いてもらい、屋外では車いすで移動すると、安全に運動時間を確保できます。
他にも、自宅にスロープや手すりなどを設置して、本人が安全に身体を動かせるよう工夫するのも有効です。
3.最期まで寄り添う
本人の回復や維持が難しい場合も、声かけやタッチケアなどを通じて絶えずコミュニケーションを取り、強制的なケアを行わないことが大切です。
最期を迎える時まで本人の尊厳を奪わないよう配慮し、その人らしい人生を全うできるよう支援しましょう。
ユマニチュードには、ケアと共に優しさを伝えるための「4つの柱」があります。

1.見る
本人と「正面から・水平の角度で」目を合わせます。これには、お互いが対等な立場であることと、相手に対して正直であることを伝える意図があります。
本人がベッドで寝ている場合も、上から見下ろすのではなく、椅子などに座って目線を合わせる工夫をすると、威圧感を与えにくくなります。
2.話す
「お風呂に入ってスッキリしたね」「お昼ご飯、美味しかったね」などの前向きな会話は、本人もケアラーも心地よさを感じます。忙しさから、つい無言でケアに集中してしまうと、ケアを受ける人は不安を感じる可能性があるため注意しましょう。
また、焦りから大声や早口で「早く~して!」などと言うと、本人に高圧的な印象を与えてしまいます。「少し低めのトーンかつ、本人が聞き取りやすい速度で話す」ことを意識するだけでも、穏やかな関係を築きやすくなります。
3.触れる
トイレ介助や入浴介助といったケアを行う際、ケアラーが本人の身体に触れる場面は多くあります。その際、「広い面積で触れる」「つかまない」「ゆっくりと手を動かす」ことを意識して触れることで本人に安心感を伝えられます。
反対に、力任せに手首や腕をグッと掴むと、本人は「この人は私の自由を奪おうとしている」と不信感を抱く恐れがあるため避けましょう。
4.立つ
ユマニチュードでは「1日合計20分立つ時間を作れば立つ能力が保たれ、寝たきりを防げる」と提唱しています。
トイレまで歩いて移動する、立った状態で机を拭いてもらうなど、本人が可能な範囲で日常に立つ時間を取り入れてみましょう。

「あなたは大切な存在ですよ」というメッセージを本人に伝えながらケアを行うステップを、5つに分けて紹介します。
ステップ①出会いの準備
本人のプライベートな空間へ入ることへの了承を得ます。
【例】いきなり本人の居室に入るのではなく、ドアをノックして「今入ってもいい?」と聞き、許可を得てから入室する。
ステップ②ケアの準備
ケアを行う前に挨拶や声かけをし、ケアをすることへの了承を得ます。
【例】すぐにケアの話をするのではなく、「おはよう、今日は顔色がいいね」などの声かけから入り、緊張がほぐれてから「朝食を食べようか?」などの提案を行う。
ステップ③知覚の連結
先ほどお伝えした4つの柱のうち、2つ以上の要素を組み合わせてケアを行います。
【例】居室からダイニングまで歩いて移動してもらう(立つ)。ケアラーは本人と同じ目線になるよう座って、食事を見守る(見る)。
ステップ④感情の固定
その日のケアを振り返る会話をしてポジティブな言葉かけを行います。
【例】「よく食べられたね」「美味しかったね」などと声かけをしながら片付けをする。
ステップ⑤再会の約束
次回のケアの予定を本人に伝えて、本人に期待感を持ってもらいます。
【例】「次はお昼に来るね」「〇時頃にまた来るね」と声をかけてから退室する。
ホワイトボードに次の予定を書き込んでおくと、本人も確認しやすくなる。
上記①〜⑤は「友達の家を訪問するのと同じ流れ」だと考えてみるとイメージしやすいでしょう。
親しい仲とはいえ、チャイムも押さずに家に入ったり、挨拶もせずに要件だけを話したりする人はいないはずです。
「人と人との基本的なコミュニケーション」に立ち返って考えると、気負わずにユマニチュードを実践できます。

ユマニチュードで期待できる変化を本人とケアラーそれぞれの視点でまとめました。
■ケアを受ける本人
・自分ができることを自分で行うことで、筋力や認知機能を維持しやすくなる
・自分の意思を尊重してもらえることで、生きる意欲が増す
・寄り添うケアを受けることで、不安や混乱が減り気持ちが安定する
■ケアラー
・本人への理解が深まる
・本人が本当に必要とするケアができて、ケアの質も高まる
・お互いを尊重し合う関係性を築けるため、ケアラーの心も満たされやすくなる
年齢による筋力の低下や、認知症によってさまざまなことを忘れてしまう状況は、高齢者に少なからず不安をもたらします。そんな時、自分の存在を認めてくれるケアラーがいれば、大きな心の支えになるでしょう。
本人のメンタルが安定することで認知症の周辺症状が減少し、結果としてケアラーの負担軽減にもつながると考えられています。

今回ご紹介したユマニチュードの4つの柱と5つのステップを、すべてを完璧に行おうとする必要はありません。
「優しく触れること」「本人と目線を合わせて会話すること」など、何か1つ取り入れるだけでも、本人の不安が和らぎ、ケアラーの負担軽減につながるケースは多いのです。
「日本ユマニチュード学会」の公式ホームページでは、家庭での認知症ケアにユマニチュードを取り入れた方の体験談が掲載されています。興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
監修:中谷ミホ
写真:PIXTA、写真AC
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)