立ち上がりの介助は、正しい動き方と環境調整により、楽に行うことができます。

今回は介助の落とし穴を押さえたうえで、動き方と環境調整の両面から、立ち上がりのコツを解説します。

1. やってしまいがちな介助の落とし穴

「安全に動けるように」と、つい手を貸したくなってしまう方もいるでしょう。

しかし、その手助けが必ずしも本人のためになるとは限りません。


ご本人ができることを奪ったり、かえって立ちにくくさせてしまったりすることがあるのです。立ち上がりのコツを知る前に、介助のしすぎややり方によって起こり得る問題を押さえておきましょう。


■介助のしすぎにより筋肉が使われずに弱っていく

シニアの立ち上がりに不安を感じると、つい毎回腕を引っ張ったり、腰を抱えて持ち上げたりしてしまいがちです。


しかし、立ち上がりの際は、太ももやお尻の大きな筋肉が強い力を発揮しています。介助しすぎると、これらの筋肉を使う機会が失われ、機能が低下してかえって立ち上がりにくくなってしまう可能性があります。


■介助のタイミングを誤ると転倒する可能性がある

立ち上がりの際には、「前に体重を移してからお尻を上げる」という自然な動きの流れがあります。この流れを知らないまま介助すると、タイミングがずれて転倒させてしまいかねません。


足に体重が移る前にお尻を引き上げようとすると、シニアの足が滑ったり、よろけたりする危険があります。


■無理な介助によりケアラーの身体に負担がかかる

無理な介助を続けると、ケアラーの身体にも大きな負担がかかります。特にお尻を持ち上げるような介助は、腰や腕を痛めやすく、注意が必要です。


ケアラーが身体を壊してしまうと、介助そのものが続けられなくなるかもしれません。

 

2. 押さえておきたい立ち上がりの基本原則

立ち上がりの原則を押さえて正しく介助を行えば、シニアの自立を促しながら、ケアラーも無理なくケアを続けられます。


立ち上がりの大原則は「座った姿勢から足に体重を移して立ち上がること」です。

ここでは、この自然な動作を引き出す3つのステップを紹介します。


Step1|足を引く

まず、かかとをひざの真下よりも少し手前まで引きます(ひざが直角、またはもう少し深く曲がるくらいが目安です)。


これは、座った姿勢でお尻に乗っている体重を、足へ移しやすくするための準備です。足が前に出すぎていると体重が後ろに残ったままになり、うまく立てません。「足を引いてみて」と声かけをし、足の位置を整えておきましょう。


Step2|上体を前に倒す(おじぎ)

次に、顔がひざよりも少し前に出るくらい、上体を前に倒します(おじぎをするイメージ)。これにより足に向かって体重が移動し、お尻が自然に浮きやすくなります。


ポイントは、背中を丸めて前に倒すのではなく、「骨盤を前に起こしながら(へそを前に突き出すイメージで)上体ごと前傾すること」です。


ケアラーが手を差し出す場合は、引っ張らずにシニアが自然に前傾できるよう、軽く添える程度にとどめましょう。


上体を起こしたまま立とうとすると、腕の力や勢いに頼りやすくなり、転倒のリスクが高まります。


Step3|タイミングを合わせて立ち上がる

Step1・2が正しくできていると、お尻がすっと浮き始めます。そのタイミングに合わせて、足に力を入れ、まっすぐ上に伸び上がりましょう。


ケアラーが介助する場合は、お尻が浮くタイミングでわきや腰に手を添え、真上方向にそっとサポートします。引き上げるのではなく、浮いた動きに乗せるイメージです。タイミングが合えば、少ない力でスムーズに立ち上がれます。

 

3. 立ち上がりやすい住環境を整えるポイント

動き方が正しくても、住環境が整っていないと立ち上がりにくさが残ってしまいます。

動き方と合わせて、以下の5つのポイントも確認してみてください。


■硬い座面に座る

座面は柔らかいより硬いほうが、立ち上がりに適しています。硬い座面は、お尻が沈み込まないため、おじぎをした時に足に力が入りやすくなります。ダイニングチェアや椅子などの硬めの座面を選ぶとよいでしょう。


ソファーのような沈み込む座面を使う場合は、浅く座っておじぎしやすい姿勢をつくると立ちやすくなります。


■座面の高さは膝が90度になるくらいを目安にする

座ったときに、ひざが約90度になる高さを目安にしましょう。座面が低すぎると足が深く曲がってしまい、立ち上がりに大きな筋力が必要になります。


体育座りの状態から立ち上がる場面を想像してみてください。お尻に体重が乗ったままでは足に力が入らず、立ち上がれないのがイメージできるのではないでしょうか。


座面が低い場合は、クッションや座布団を重ねて高さを補い、足へ体重を移しやすくしましょう。一方、座面が高すぎると足が床にしっかりとつかず、バランスが不安定になります。高めのカウンターチェアや、クッションを重ねすぎた椅子は避けるのが無難です。


■おじぎできるスペースを確保する

おじぎで体重を足へ移すには、前方に十分なスペースが必要です。ベッドのそばに壁や家具がある場合、スペースが取れず立ちにくくなります。おじぎできるように、ベッドの位置や家具の配置を見直してみましょう。


ケアラーが介助する場合は、シニアのやや斜め前に立つことでおじぎのスペースが確保できます。


■滑り止め付きの靴下や靴を履く

足に力を入れたときに床との摩擦が少ないと、滑ってしまうことがあります。フローリングやタイルの床では特に注意が必要です。


滑り止め付きの靴下や、底面に滑り止め加工がされた室内履きを活用しましょう。


■福祉用具を活用する

手すりがあると、おじぎや伸び上がりの際に手で体を支えられるため、足や腰への負担が軽くなります。場所に応じた手すりの種類は以下のとおりです。

 

・寝室の介護用ベッド: L字柵がおすすめです。立ち上がり時の支えになるほか、寝返りや起き上がりの際にも活用できます。

 

・リビングや和室のいす付近: 据え置き型手すりがおすすめです。床に置くだけで使用でき、持ち運びも可能です。やや重量があるものの、工事不要で手軽に導入できます。

 

・トイレの便器付近や壁: 肘掛け型フレームやL字型手すりが役立ちます。肘掛け型は両手で下に押して身体を押し上げるように使え、L字型は立ち上がりだけでなく立った後の移動時にも活用できます。


手すりには介護保険でレンタルできるものが多くあります。ケアマネジャーや福祉用具の担当者、リハビリの専門職に相談して必要なものを検討してもらいましょう。

 

4. 正しい介助と環境づくりで、シニアの自立を支えよう

正しい手順と環境を整えることで、シニアの立ち上がりはぐっと楽になります。 


適切な介助はシニアの自立を促すだけでなく、ケアラー自身の体への負担を減らすことにもつながります。 ぜひ今日から実践してみてください。

 

 

監修:中谷ミホ

 

写真:PIXTA

 

 

 

この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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