1. 母の認知症のサインを示す2枚の写真
記事冒頭の写真は、母の財布に入っていた大量の小銭です。
認知症の人は、お金の計算ができなくなったり、スーパーなどでレジ待ちしている後ろの人が気になって焦ったりして、お札で支払いを繰り返すために、小銭がたまってしまいます。これは、認知症のサインのひとつと言われています。
また下の写真は、母が食器棚に片づけた皿です。スプーンの上に皿が置いてあるので、取りづらく違和感があります。いつも皿を置いている場所がわからなくなってしまったためで、これも認知症のサインのひとつです。
親が同じ話を何度も繰り返すようになったり、約束を忘れてしまったりするようになるなど、認知症の疑いがあると感じたら、もの忘れ外来で検査をすれば大丈夫と思っているかもしれません。
確かに認知症の本を読むと、親が認知症かもしれないと思ったら、早期にもの忘れ外来を受診しましょうと書いてあります。本のとおり子どもから親に「もの忘れが増えてきたから、そろそろ病院へ行こうよ」と声を掛けたら、親はどう反応すると思いますか?
2. 認知症の初期段階では、親は自分が認知症とは思っていない
親が「うん、わかった」と言って、素直に病院を受診してくれたら、子どもはどんなにラクでしょう。多くの場合、「どこも悪くないのに、何で病院に行かなきゃいけないのよ」と断られ、親子げんかが始まります。
認知症の疑いがある、あるいは認知症の初期の段階では、親は自分が認知症とは思っていないことが多いです。もの忘れが増えたとしてもそれは加齢によるもので、誰もが忘れっぽくなるから問題ないと思っているのです。
子ども側も何とかして親を病院へ連れて行かなければと思いながらも、心のどこかで認知症ではなく、老いからくるもの忘れなのではと期待してしまいます。親の認知症を認めたくない、簡単には受け入れられない思いがあるので、病院の受診を先送りしてしまいます。
わたしも母を病院へ連れ出すのに、かなり苦労しました。認知症のサインは出ているのにどこも悪くない、病院へ行く必要はないと言い張る母。
そこで病院のスタッフと電話で話し合って、認知症の受診ではなく健康診断のために病院へ行くという嘘の設定で連れ出そうとしました。しかし母は、健康診断も行きたくないと言って、動こうとしません。
どうしたら母は、病院を受診してくれるのか? わたしは健康診断を受けたくなるキーワードを、2種類用意しました。1つ目は「無料」です。母が暮らす盛岡市の健康診断は元々無料ですが、期間限定と嘘をつき、その期間が過ぎると有料になると言ったのです。
2つ目は、ご近所はみんな健康診断を受けたと嘘をつきました。周りが健康診断を受けているなら、自分も受けなきゃいけないと思うよう仕向けたのです。
この2つの声掛けをしながら、何とか母を車に乗せて病院まで連れて行き、あとは慣れている病院の看護師さんに母を託しました。血圧や身長、体重測定など、健康診断のようなことを行いながら医師の問診があったのですが、実はそこが認知症の診察になっていたのです。
わたしが母に認知症の疑いを持ってから、病院を受診するまでに5か月の期間を要してしまいました。
3. 認知症の疑いを持ってから病院を受診するまでの期間
わたしが書いた本『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)の中で、認知症の疑いを持ってから病院を受診するまでにかかった期間は平均9.5か月、1年以上を要した人が約3割、2年以上は約2割というデータをご紹介しました。
わが家は病院を受診するまで5か月もかかりましたが、これは平均よりも早いほうです。とはいえデータからわかるように親の説得には時間がかかりますし、子ども側も親の認知症を簡単には受け入れられないのです。
最後にわたしが介護者から聞いた、認知症の親を病院へ連れて行った成功例をご紹介します。
・認知症の疑いのあるきょうだいのために、他のきょうだい全員が認知症の診断を受けると言ったら、あっさり受診してくれた
・家族の言うことはまったく聞かなかったが、医師から病院に来るよう声掛けをしてもらったらすぐに受診してくれた
・息子や娘の言うことは聞いてもらえなかったが、かわいい孫から「おじいちゃん、病院に行こうよ」と言われて、病院を受診した
・他の病気で通院中だったので、医師に認知症の診断もお願いして診察してもらった
・親を家から連れ出すことができなかったので、訪問診療をしている医師に家まで来てもらった。白衣を脱いで医師らしさを隠しながら診察し、認知症が見つかった
このように家族はさまざまな工夫をしながら親を病院へ連れて行き、認知症の診断にこぎつけています。始めから親の説得は長期戦になるとわかっていれば、1度や2度の失敗はストレスにならないかもしれません。
親が認知症になったら、まずはどんな声掛けをすれば嫌がらずに病院を受診してくれるかを考えるところから始めてみてください。