1. 介護離職者は全国に10万人いる
働き盛りといわれる40代、50代社員が直面する可能性のある、介護と仕事の両立。わたしはさまざまな企業に招かれ、介護離職に関する講演をしていますが、参加者のアンケートを見ると、介護への不安はあるけど、準備はしていない社員のほうが圧倒的に多いです。
そのため、突然親が倒れて入院すると、何から始めていいか分からずに慌てます。さらに病院から親の手術や治療の判断を次々と求められる中で、仕事との両立は難しいと考え、会社を辞めてしまうケースもあるのです。
こうした介護離職者は、全国に10万人もいます。介護と仕事を両立させるには、何から始めればいいのでしょう?
2. 会社の就業規則を確認する
最初にやるべきことは、会社の就業規則の確認です。まずは、介護に関する休みの記述を探してみてください。育児・介護休業法は法律なので、どの会社にも適用されるものです。しかし就業規則に記載されていない場合があり、自分の会社には介護の休みがないと勘違いする社員もいます。
介護休業法で定められている休みは、介護休業と介護休暇です。介護休業は家族1人につき通算93日の休みが取れ、3回まで分割できます。介護休暇は家族1人につき年間5日、2人以上なら最大10日となっていて、1時間単位の取得もできます。
介護休業は長期の休みになるため、原則2週間前までに会社に通知する必要があります。対して介護休暇は突発的な介護にも利用でき、当日でも休みが取れます。
また介護離職者を減らすために、会社独自の介護支援制度を用意している会社もあります。例えば法定以上の休暇を付与したり、ヘルパーの費用を補助したり、介護先までの交通費を補助してもらえます。
厚生労働省が2023年に発表した、仕事と育児・介護の両立に係る現状及び課題によると、「介護で仕事を辞める理由になった勤務先の問題は何か」と尋ねたところ、トップの回答は「制度が整備されていない」でした。
どの会社でも介護休業は使えるのに、社員は制度がないと思っているということは、企業側の制度の周知不足や、社員側の情報収集不足が原因だと思います。せっかく介護と仕事の両立をサポートする制度があるのに、制度の存在を知らずに会社を辞めてしまうのはもったいないことです。
介護が始まる前から、会社の就業規則を読んでおきましょう。
3. 介護休業制度を使いづらい職場もある
介護離職者が減らない理由は、ほかにもあります。いくら介護休業や介護休暇があっても、介護に対する職場や上司の理解がないと、利用率は上がりません。
育児休業が取りやすい理由のひとつは、自分自身が親に育ててもらった経験があるからだと思います。子どもがいない人でも、保育園や幼稚園に通った経験があるので、イメージはしやすいのです。対して介護は未経験の社員が多く、職場の理解が得られにくい面があります。
また男性の育児休業取得率を向上させようとする企業の取り組みが連日ニュースで報道されているので、社会的な機運が醸成されつつあります。介護離職もアベノミクス新・三本の矢で注目された時期もありましたが、育児ほど継続的な盛り上がりにはならず、現在は失速しています。
わたしが企業講演した時にあった声として、育児の話は社員同士でオープンに話し合えるのに、介護の話はしづらい、オープンにできないと感じると話す社員がいる会社がありました。
オープンにできないもう1つの理由は、介護で仕事を休むと昇進のチャンスを失うのではないか、大事なプロジェクトから外されるのではないかという不安があるからです。そのため企業には隠れ介護者と呼ばれる、介護離職予備軍の社員がたくさんいます。
4. わたしの介護離職経験談
アイキャッチの写真は、わたしが40歳の時に勤めていた会社で、最終出社日に撮影したものです。介護のために会社を辞めると挨拶をし、チームメンバーから花束をもらいました。
祖母が子宮頸がんで倒れ、母の認知症が分かったとき、わたしは会社の就業規則を調べました。2012年当時の法律では会社に1年間在籍しないと、介護休業は使えないとなっていました。
祖母が倒れたのは、わたしが転職して9か月目のこと。介護休業を使えるようになるまで、3か月もありました。しかし祖母の余命は、半年。3か月の間に、祖母は亡くなってしまうかもしれません。
すぐに介護休業を利用できないことに加え、管理職として仕事が忙しく、この状態のまま、介護と仕事の両立は難しいと判断しました。また職場は東京、介護先は岩手という距離の問題も、わたしの介護離職を後押しすることになりました。
わたし自身は介護離職をしたおかげで、介護の執筆や講演をする仕事を自分で見つけ、セカンドキャリアにつなげられたので良かったのですが、誰もが簡単に介護離職に踏み切れるわけではありません。
会社の介護支援制度を確認しつつ、制度を利用している社員や同僚を探してみましょう。可能であれば、制度の利用者の話を聞いてみると、介護と仕事の両立がより具体的に分かると思います。