加齢によって衰えた状態のことを「サルコペニア」や「フレイル」などといいますが、その違いがよくわからないという方もいるのではないでしょうか。
今回は、サルコペニアとフレイルの違いについて、理学療法士の筆者が原因や症状、対策方法などについて解説します。
■サルコペニア
サルコペニアとは、加齢によって筋肉の量が減り、筋力や身体機能が低下した状態です。
サルコペニアになると、立つ、歩く、階段の昇り降りといった日常生活に必要な基本的な動作に支障が生じます。
■フレイル
フレイルは、加齢によって心身の機能が衰えた状態のことを指します。
身体機能の衰えだけでなく、心理面・精神面の衰えや、人との交流や外出などの社会的生活にも衰えが見られます。
サルコペニアとフレイルの関係性をわかりやすく説明すると、さまざまな症状をきたすフレイルの中に、サルコペニアが存在するというイメージです。つまり、サルコペニアはフレイルの要素のひとつにすぎません。
ただし、サルコペニアを放っておくと、筋肉がさらに衰えて活動性が低下し、人との交流や外出の機会が減る恐れもあります。結果として、サルコペニアがフレイルの引き金となり、いずれは要介護状態になってしまう場合もあるのです。
サルコペニアの主な原因は、加齢や病気ですが、フレイルはそれ以外にも多くの原因から起こります。それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
■サルコペニアの原因
・一次的要因:加齢以外に原因が見当たらない筋肉の減少
・二次的要因:活動量の低下や、けがや病気といった原因が明らかなもの(入院、内臓の病気など)
サルコペニアは、主に筋肉の減少を招く要因によって起こります。
■フレイルの原因
・身体機能の低下(サルコペニアの原因と同様)
・家族や友人など親しい人との別れ
・閉じこもり
フレイルが起こる原因にはサルコペニアの原因に加え、精神的なダメージや人との交流機会の減少なども含まれます。
サルコペニアとフレイルには、症状に違いがあるものの、要介護状態に陥る可能性があるという点で、いずれも注意すべき状態といえます。以下でそれぞれの症状を見ていきましょう。
■サルコペニアの症状
・転びやすくなる
・歩く速度が遅くなる
・疲れやすくなる
・免疫力や代謝が低下し、病気にかかりやすくなる
サルコペニアの特徴は、筋肉と身体機能の衰えによる症状です。
特に、転倒やけがをきっかけとして身体機能がさらに低下するリスクがあります。
■フレイルの症状
・身体機能が低下する(サルコペニアの症状)
・物忘れが増える
・落ち込みやすくなる
・部屋に閉じこもりがちになる
・人と会うのを避けるようになる
・食事の量が減る
フレイルは、サルコペニアの症状に加えて、心や社会性、口の機能などの衰えも見られます。
次に、サルコペニアとフレイルを予防するための3つの方法を紹介します。予防方法は共通しているため、バランスよく取り組みましょう。
■運動
【筋力トレーニング】
・もも上げ
・お尻上げ
・かかと上げ
・腹筋
・立ち上がり
・片足上げなど
筋肉の衰えを予防するには、自分の体重を利用した運動が推奨されています。
足腰の衰えから歩く機能が低下しないように、上記の筋力トレーニングに取り組みましょう。
運動は、1セット10〜15回程度を目安に、1~3セット行います。できそうなものを2〜3種類選んで実施しましょう。
写真上:著作者:freepik
【有酸素運動】
・ウォーキング
・水泳
・水中歩行など
有酸素運動は、心肺機能や筋肉の持久力を向上させる効果があり、生活習慣病の改善にも役立ちます。
まずはウォーキングから始め、家族や友人と一緒に取り組むと続けやすくなります。
腰や膝などに痛みがある場合は、負担の少ない水中歩行がおすすめです。1日10分程度から始めて、無理のない範囲で行いましょう。
■栄養摂取
高齢になると、若い頃と比べて筋肉が減りやすくなります。そのため、筋肉をつくるたんぱく質と、筋肉の減少を防ぐビタミンDを積極的に摂取しましょう。
主食・主菜・副菜のバランスを意識し、1日3回の食事をとることが大切です。たまご、肉、魚、大豆などをバランスよく食べるようにしましょう。
また、歯の機能が低下すると固いものを避けるようになり、食べる機能も衰えます。定期的に歯科を受診し、口のケアも行いましょう。
■社会参加
社会参加とは、ボランティア活動や誰かのために貢献することと考えがちですが、重要なのは人との交流です。以下のような活動も社会参加の一部です。
・家族と買い物に行く
・友人の家へ遊びに行く
・人と共通の趣味を楽しむ
自分が自発的にやりたいと思える活動に取り組みましょう。
予防対策をするうえで、生活習慣病や関節疾患などがある方は、病気の治療も同時に行うことが重要です。
病気を放置すると、予防効果が期待できないばかりか、症状が悪化してしまう恐れもあるからです。例えば、高血圧の方は運動をする際に血圧に注意する必要があります。運動に関しては、血圧の目標値や制限があるため、医師の指示に従って運動を行うことが大切です。
著者:鈴木康峻
2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。
得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級