介護のトラブルで起きがちなもののひとつが、きょうだい間の軋轢(あつれき)です。介護負担が誰か一人に偏ったり、介護の方法をめぐって言い合いになったりと、思わぬトラブルに発展することがあります。

きょうだい同士で互いを非難し合い、修復が難しくなるほど関係が悪化することも少なくありません。しかし、こじれたトラブルをひも解いていくと「根本の原因は、きょうだい同士の問題ではなかった」というケースがあります。

1. 事例から学ぶ:Sさん(50代女性・会社員)のケース

関東在住のSさん(50代女性・会社員)は、電車で2時間かかる実家に通い、両親のサポートを続けています。

12年前、母親が大病を患った直後、父親が認知症と診断されました。妹のTさんは仕事の都合で海外在住だったため、Sさんは「長女の自分が両親を守らなければ」と固く決意しました。

各種手続きや通院の付き添い、休日の家事のサポート。両親のどちらかにトラブルが起きれば仕事を早退して実家へ向かう――。一昨年、妹が帰国するまでの約10年間、Sさんにプライベートの時間はほとんどありませんでした。

妹が帰国したとき、Sさんは「これで協力してもらえる。少し楽になる」と期待しました。妹も実家に顔を出すようになりましたが、やがてSさんの関わり方や介護の方法に、あれこれ口を出すようになっていきました。

妹は、はっきりとものを言うタイプです。両親に対しても強い口調で「自分たちのことは自分たちでちゃんと頑張ってね」と、突き放すような言い方をします。Sさんにも「お姉ちゃんはお母さんたちを甘やかしすぎ! もっと本人に動いてもらわないと」と言い、Sさんはショックを受けました。これまで一人で頑張ってきたことを、全否定されたように感じたからです。

Sさんは「これまでの経緯や状況がわかっていないのだろう」と、妹の心情を理解しようと努めましたが、妹の発言はどんどんエスカレート。先日、とうとう「お姉ちゃんが手取り足取りやりすぎたから、2人ともここまで弱ったんだよ」と言われ、さすがのSさんも感情が爆発しました。

「いい加減にしてよ!お父さんたちが一番大変な時にいなかったくせに、何がわかるの? 2人の回復のために私がどれだけ頑張ったと思ってるの?」

そう怒鳴ると、母親が飛んできて「Sちゃんやめて。2人とも仲良くして。Tちゃんも仕事をしながら頑張ってくれているんだから」と、妹をかばうような言い方をするので、Sさんはさらにショックを受けました。

「私だって、10年以上仕事をしながら一人でやってきたのに……」。Sさんの目から涙が溢れます。ところが、母親は続けて、「これまでのことは感謝しているわ。でも、あれこれ細かく指示されるのは辛いの。本当はしんどかったの」と、これまで聞かされたことのなかった本音を口にしました。

Sさんはショックのあまり、「そんなに辛かったのなら、これから全部Tにサポートしてもらえばいいでしょう。私はもう手を引きます」、そう啖呵を切って家に戻りました。ショックと悔しさで眠れない日が続き、Sさんは1週間以上体調を崩してしまいました。

2. トラブルの原因は母親の愚痴

Sさんが啖呵を切って帰ってから2週間後、母親から電話が入りました。

「Tちゃんの言い方って、やっぱり傷つくのよね……。お父さんにもいつもあんな調子なのよ」。母親は、認知症が進んで動作や会話がゆっくりになっている父親を、妹が急かしているのが心配だと話します。「だからね、お父さんのことだけでも、前のようにSちゃんにお願いできないかしら」


相談をする人の手元


「いいよ、私がやるよ!」と、Sさんは二つ返事で引き受けてしまいそうになりました。しかし、妹が両親のサポートに関わるようになってから、母親から「Tちゃんがお父さんにきつい言い方をするから、見ていられないの」「ストレスが溜まっちゃう」という愚痴の電話がたびたびあったことを思い出しました。

Sさんは、母親のストレスを減らそうと、妹に「もう少し優しく言ってあげた方が受け入れられると思うよ」とアドバイスしたり、自分が実家に通う日を増やしたりして対応していました。しかし、妹にとっては、両親から直接不満を言われているわけではないのに、姉が口うるさく自分のやり方を否定してくるように感じたのでしょう。

母親は、何か言いたいことがあるときに本人に直接話さず、第三者に愚痴をこぼすタイプのようです。今回も、姉には妹の、妹には姉の愚痴を言っていました。妹のTさんも、母親の愚痴を聞いて心を痛め、「お姉ちゃんが細かく命令するから両親は参っているし、お父さんたちの自立を妨げている」と、姉のSさんに不信感を持ったのでしょう。

姉妹の間で起きていた介護方法をめぐる非難の応酬。その原因は、実は母親の愚痴だったのです。

3. 対立の構図に気づいたとき

Sさんは冷静さを取り戻し、「お父さんのことを私にお願いするって、Tとは相談したの?」と確認しました。

すると母は少し黙ったあと、「言えないのよ……。あの子も一生懸命やってくれているでしょう。私がそんなことを言ったらショックを受けると思って」と答えました。

その言葉を聞いて、Sさんは「そうか、これがトラブルの元なんだ」と気づきました。

母親としては、ただ娘に共感してほしかっただけなのかもしれません。ところが、Sさんも妹も、「困っている母親のために、間違っている妹(姉)を正さなければ」と思い込み、2人の間には不必要な軋轢が生まれてしまっていたのです。

母親の愚痴を冷静に受け止めたSさんは、「それなら、まずTと相談して。Tが納得したうえで、お父さんのことを私に任せることになったら、そのときは引き受けるよ」と伝え、電話を切りました。

Sさんは、愚痴に巻き込まれて行動せずに「まずTと話して」と言えたことに、少し自信を持ちました。同時に、どこか罪悪感のような気持ちも残りました。

4. 距離を置いて見えてきたもの

「もう介護はしない!」と宣言したあの日から、丸2か月が経ちました。実家に行かない時間が12年ぶりにできたSさんは、ゆっくり休み、家族と過ごす余裕も生まれ、心身の回復を実感しています。

けれども、ふとした瞬間に両親の様子が気になり、いてもたってもいられなくなることも。「やはり自分がサポートした方がいいのではないか」「母親に頼まれたように、父親のサポートは自分がやった方がいいのではないか」と考えてしまうこともあります。

「母親は、本人に直接言えずに我慢していると思うんです。でも、ここで私がでしゃばったら元の木阿弥(もくあみ)。妹から連絡が来たときに考えればいいかな、と思っています」

また、妹からは「この間はひどいことを言ってごめんなさい」と謝罪のメッセージが届きました。具体的な協力の依頼ではありませんでしたが、姉妹の間に生じていたわだかまりが、少しゆるんだように感じたとSさんは話します。


電話をする女性

5. 「また聞き」はトラブルを生む

Sさんのケースのように、きょうだいや親族の間でのトラブルでは、当事者ではない人の言葉が火種となってこじれてしまうことは、実はよくあります。

介護サービスのスタッフへの不満を本人には直接言いにくいからと、代わりに配偶者や子どもにクレームを言ってもらおうとするケースも少なくありません。しかし、また聞きのまま施設側に伝えてしまうと、新たなトラブルの種になることがあります。

本人から十分な情報を得ないまま話をしてしまったり、事実とは異なるエピソードが加わったりして、スタッフが一方的に悪者のように伝わってしまうこともあります。その結果、施設と家族の間のトラブルへと発展してしまうこともあります。

要介護者から不平不満や愚痴を聞くと、誰でも「なんとかしなければ」と焦り、解決しようとするものです。「けしからん!」と、正義の棍棒を握ったような心理状態になってしまうこともあります。

もちろん、真剣に受け止めなくてよい、という意味ではありません。ただし、当事者が話す内容には偏りが含まれている可能性があることを、頭の片隅に置いておきましょう。

「母はこう話しているのですが、何かありましたか?」
「本人がショックを受けているようなのですが、事情をご存じの方と一度お話しできますか?」

このように、まずは情報を確かめることから始めてみてください。



写真:Freepik、写真AC


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この記事の提供元
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著者:橋中 今日子

介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。

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