配偶者の家族の様子が気になる。介護が必要かもしれない。そう感じた時、「義理の立場でどこまで口を出していいのか」とためらい、動けなくなることは少なくありません。正しいことほど言いづらく、関係性も壊れやすいものです。「何とかしなければ」と思いながらも、その一歩が踏み出せない。そんな状況に置かれることもあるのではないでしょうか。

1. 事例から学ぶ:Nさん(会社員、50代女性)

Nさん(50代、女性)は、夫と義母(70代)との3人暮らしです。結婚以来、義母が家事を担ってくれていたため、夫妻は安心して共働きを続けることができていました。

ある日、義母が出かけたまま帰宅できなくなりました。夫が電話でやり取りをして何とか迎えに行くことができましたが、その後も、キャッシュカードの暗証番号が分からなくなったり、通帳やカードをなくしたりと、これまでにはなかったミスが続くようになります。Nさんは、次第に違和感を覚えはじめました。


道に迷ったシニア女性

認知症や脳疾患の可能性を考えたNさんは、夫に「受診したほうがいいのでは?」と相談します。ところが夫は「たまたまだよ! 母さんを病人扱いするなよ!」と、耳を貸しません。本人にも受診を提案してみましたが、もともと病院嫌いな義母は強く反発し、激怒してしまいました。

その後も、義母は頻繁に物をなくしたと大騒ぎ。Nさんの目には、明らかに様子がおかしいのに、そう話題にするたびに場の雰囲気が険しくなります。Nさんは「実の親なら、引っ張ってでも病院へ連れて行くくらいの状況だけれど、どこまで口を出していいのだろう?」「出過ぎたことをしているのだろうか?」と迷いはじめました。

2. 関係を守りながらも初動を止めない関わり方

介護は本来、実子が主体となって進めるのが無理のない方法です。しかし、Nさんのケースのように、当事者であるほど現状を受け入れられず、問題から目をそむけてしまうことがあり、相談や対応の遅れにつながります。

このような場面でのポイントは2つです。

1つ目は、「結論を伝える」のではなく「気づきを共有する」ことです。Nさんは、夫と義母に「受診しては?」と「結論」を伝えていました。それでうまくいく場合もありますが、「そんなはずはない」「病人扱いするな!」と、反発されることがあります。

一方で、「気づきを共有する」とは、「私にはこう見えるのだけれど、どう思う?」といった形で見立てを伝えつつ、相手の考えを聞く姿勢です。

たとえば、
「最近、通帳やカードの紛失が増えている気がするんだけど、どう思う?」
「同じものを何度も買ってくるのが気になっていて。あなたはどう感じてる?」
と、相手の感じていることや気持ちを聞く形で話題に出してみるのです。

相手の返答に違和感があっても、「今はそう考えているんだね」と一度受け止めることで、関係性を保ちながら対話を続けることができるでしょう。

2つ目は、地域包括支援センターへの相談です。

「家族が納得していないのに、勝手に相談に行くのは気が引ける」とためらう方はとても多いのですが、相談したからといって、すぐに介護保険の申請が進んだり、サービス利用が始まったりするわけではありません。

重要なのは、第三者と状況を共有することです。地域包括支援センターは、「介護が必要かどうか判断がつかない」「いざという時に備えて情報を知っておきたい」といった段階から利用できます。どこまで関わってよいのか迷う場合でも、遠慮する必要はありません。匿名での相談も可能で、ご近所の方が変化に気づいて相談するケースも増えています。

「義母が外出先から帰宅できなくなったことがある」「貴重品が紛失したと騒ぐ」「受診を勧めても拒否され、どこまで関わってよいか迷っている」など、事実と立場をそのまま伝えましょう。地域包括支援センターは、様々なケースへの対応経験が豊富な情報の宝庫です。専門的な視点から状況を整理し、次の一手を考えることができます。いざという時に頼りになる相談先の一つとして、覚えておいてください。


相談するシニア夫婦

3. 動かなかった状況が、少しずつ動き出す

Nさんはまず、義母の様子が気がかりなときでも、これまで通り接することにしました。併せて、夫に対しては「こんなことがあったよ」と、事実だけを共有するよう意識しました。すると、夫の否定的な反応は少しずつ減り、Nさんの話に耳を傾ける場面が増えました。

やがて夫が「最近、やっぱりちょっと変かもしれない」と口にしたタイミングで、Nさんは「地域包括支援センターに相談してみない?」と提案してみました。夫は乗り気ではありませんでしたが、「すぐに介護サービスが始まるわけではなくて、パンフレットをもらうだけでもいいみたい」と伝えると、Nさんが一人で相談に行くことを了承しました。

地域包括支援センターでは、スタッフから「お義母さまご本人も、実は不安を感じているのかもしれません。焦らずゆっくり対応していきましょう」とアドバイスを受け、Nさんの受け止め方も変わりました。

約3ヶ月後、自治体の健康診断をきっかけに、義母は医療につながることができました。

Nさんは当時を振り返り、「一刻も早く受診させなければという焦りから、夫や義母を急かし、不安にさせてしまっていたのかもしれません」と話されます。

義理の関係の介護では、どこまで関わるべきか迷いやすい一方で、血縁者よりも客観的に見られることから変化に気づきやすいという側面があります。ただし、早く気づいたばかりに介護負担を丸投げされ、一人で抱え込んでしまうのは避けたいものです。本来動くべき立場の親族が介護に向き合いたがらない場合もあります。

家族が動いてくれるのが理想ではあるものの、介護の初動では感情的な衝突が起きやすく、頼りたい相手と対立関係に陥ることもあります。その場合は一人で抱え込まず、まずは地域包括支援センターや行政の福祉窓口につながり、専門家から適切な情報やアドバイスを得ましょう。

初動を遅らせないためのポイントは
・関係を保ちながら気づきを共有する
・家族の同意を待つのではなく、外部に状況を共有する
この2点です。

介護の正解はひとつではありません。誰かのやり方が、そのまま自分に当てはまるとは限りませんし、同じ人の介護であっても、時期や状況によって選択は変わっていきます。ただ、「第三者とつながる」という選択だけは、手放さずにいてください。その積み重ねが、少しずつ状況を動かしていきます。



写真:Magnific(Freepik)、PIXTA、写真AC



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この記事の提供元
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著者:橋中 今日子

介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。

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