「テレビの音が大きいといわれる」「銀行などで名前を呼ばれても気づかない」——そんな経験が増えてくるシニア世代。聴力は40代から低下し始めるといわれますが、単なる老化現象と考えて放置するのはおすすめできません。難聴をそのままにしておくと、うつ病や認知症のリスクが高まることが指摘されています。加齢性難聴の原因や対策について解説します。

年齢を重ねるにつれ、耳の聞こえが悪くなる人が増えてきます。この老化によって起こる難聴を「加齢性難聴」といいます。聴力は20〜30代でピークに達し、個人差はあるものの、40代ごろから徐々に低下が始まるといわれています。つまり、誰でも年齢とともに聞こえが悪くなる可能性があるのです。
音は、耳の穴(外耳道)を通って鼓膜を振動させ、その奥にある耳小骨で増幅され、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」に伝わります。蝸牛の中には、音の振動を感知する「有毛細胞」が並び、ここで電気信号に変換されて脳へ送られます。加齢によってこの有毛細胞が傷つくと、音が次第に聞き取りにくくなります。これが加齢性難聴の主な原因です。
加齢性難聴には、いくつかの特徴があります。まず、両耳ともに聞こえにくくなることが多く、最初は高い音や子音が聞き取りにくくなります。特に、「か行」「さ行」「は行」などの子音が聞き取りづらくなるため、「7(しち)」を「1(いち)」と聞き間違えたり、「佐藤(さとう)さん」を「加藤(かとう)さん」と聞き間違えたりすることが増えてきます。

「もしかして自分も?」と思った方は、以下の「聞こえのセルフチェック」をしてみましょう。2項目以上当てはまる場合は、一度耳鼻咽喉科で相談してみましょう。6項目以上当てはまる場合は、補聴器の検討を始める目安になります。
□「えっ?」「何?」などと聞き返すことが多い。
□何か言っているのはわかるが、何と言っているのかわからないことがある。
□1対1の会話は大丈夫だが、大人数での会話や周囲が騒がしいところでの会話は聞き取れないことがある。
□早口やぼそぼそ話す人の声が聞き取れないことがある。
□会議や会合で人の声が聞き取れなくて困る(二度聞きする)。
□後ろのほうの席では、講演会での声や舞台のセリフがよく聞き取れない。
□家族から「テレビの音が大きい」といわれる。
□時計のアラームやドアチャイムの音など、周りの人が気づいている音に気づかないことがある。
□銀行や病院などで名前を呼ばれても気づかないことがある。
□耳鳴りがして、声や音が聞き取りづらい。
□家族以外の人から難聴を指摘された。

難聴が進行すると、後方から接近する自動車の音に気づきにくくなるなど、生活上に危険が生じる恐れがあります。さらに問題なのは、コミュニケーションの機会が減ることです。聞こえにくさから会話を避けるようになると、孤立感や疎外感が強まり、生活の質(QOL)が低下する可能性があります。
社会的な孤立は、うつ状態や認知機能の低下とも関連するとされています。国内外の研究では、難聴を放置していると、うつ病や認知症の発症リスクが高まることが報告されています。
近年、難聴と認知機能の低下の関連性は、世界中で大きく注目されています。2024年に公表された認知症に関するランセット専門家委員会の最新報告では、予防可能な14の危険因子のうち、「中年期以降の難聴」が重要な要因の一つとして挙げられています。
難聴を放置することは、社会的な孤立に陥る確率が2.78倍、うつ病(抑うつ)の発生率が1.48倍、認知症の発生率が1.37倍に高まると報告されています。一方で、早期に適切に対処することで、これらのリスク軽減に役立つと考えられています。

加齢性難聴は、加齢によって自然に起こるものなので、完全に予防することは難しいとされています。しかし、同じ高齢者でも加齢性難聴の程度が軽い人もおり、年齢以外の要因も大きく関係していると考えられています。つまり、日ごろの心がけ次第で、進行を遅らせる効果が期待できるのです。
これまでの研究で、日常的に大きな騒音にさらされたり、動脈硬化やストレスによって内耳の血流が悪くなったりすると、聴覚に悪影響が及ぶことが指摘されています。加齢性難聴の進行を遅らせ、耳の健康を保つには、以下の点に気をつけましょう。
・イヤホンの音量は控えめにする
・うるさい場所で仕事をするときは耳栓をする
・生活習慣病や肥満を防ぐ
・禁煙をする
・有酸素運動を定期的に行う
・ストレスを遠ざける

また、本人の努力だけでなく、周囲の人の理解と協力が、難聴の方の生活の質(QOL)を維持するために非常に重要です。難聴の方と会話をする際には、次のような工夫を心がけてみてください。
・話しかける前に注意を促す
いきなり話しかけられても、聞き取る準備ができていないことがあります。肩をたたくなどして合図を送りましょう。
・顔や口を相手に見せて話す
口の動きや表情を見せることで、話す内容が視覚的にも伝わりやすくなります。
・言葉を区切りながら、はっきり、ゆっくり話す
大きな声を出して怒鳴る必要はありません。早口や口ごもる話し方を避け、明瞭に話すことが一番のサポートになります。

日常生活で「人の話していることが聞き取れない」「名前を呼ばれているのに気づかない」など支障を感じるようになったら、迷わず耳鼻咽喉科を受診しましょう。
ここで注意したいのは、「聞こえが悪くなったから、とりあえず補聴器を買おう」と自己判断してしまうことです。まずは耳鼻咽喉科でさまざまな検査(純音聴力検査や語音聴力検査など)を受け、聴力が低下している本当の原因を明らかにすることが第一です。
中には、「年のせいだと思っていたら、単に耳あかがたまっていただけだった」というケースや、中耳炎など治療をすれば難聴が改善する病気が隠れている場合も少なくありません。
耳鼻咽喉科の医師によって補聴器の必要性が診断されたら、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定した「補聴器相談医」や、公益財団法人テクノエイド協会が認定した「認定補聴器専門店(認定補聴器技能者)」に相談すると安心です。
日本では、難聴を自覚しても耳鼻咽喉科を受診する割合が欧米に比べて低く、補聴器装用者の満足度も十分とはいえない状況です。その背景には、「補聴器はメガネのように、買えばすぐに完璧に聞こえるようになる」という誤解があります。
補聴器は音を増幅して耳に伝える医療機器ですが、装用したその日から以前と同じように聞こえるわけではありません。医師や専門家と相談しながら、試聴や調整(フィッティング)を繰り返し、徐々に耳と脳を新しい音に慣らしていくことが大切です。

補聴器には主に3つのタイプがあり、それぞれに長所と短所があります。ご自身のライフスタイルに合わせて検討してください。
■耳あな型 耳の穴にぴったり収まるタイプ。
目立ちにくく、汗の影響を受けにくい。
ただし、本体が小さいため、操作がやや難しい。
■耳かけ型 耳の後ろにかけて使用するタイプ。
対応できる聴力の範囲が広く、一般的。
汗の影響を受けやすい。
■ポケット型(箱型) 本体をポケットに入れ、イヤホンを耳につなぐタイプ。
操作が簡単で電池が長持ち。
コードがあるためやや不便。
また、補聴器を選ぶ際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
・使う本人が体感して選ぶ
家族が勧めるだけでなく、本人が試聴して納得して選ぶことが最も大切です。
・複数の機種を試す
3機種ほどを比較することで、音や操作感の違いがわかり、自分に合うものが見えてきます。
・専門家と二人三脚で
高価なものが必ずしも自分にとって最良とは限りません。難聴の程度や日常で困っていることに合わせ、専門家と積極的に意見を交わしながら選びましょう。
・最初に合わなくてもあきらめない
初めての装着時は違和感があって当然です。妥協して購入を決めず、主観的な評価と客観的な検査データをすり合わせながら調整を続けましょう。
「難聴」は、放置すればうつ病や認知症につながるリスクがありますが、補聴器というツールを活用することで、リスクの低減や転倒の予防、そして、人とのコミュニケーションを楽しむことにつながります。聞こえに不安を感じたら、まずは専門医への相談から、新しい「耳の守り方」を始めてみませんか。
写真:PIXTA
監修:笠井 創先生
【監修者プロフィール】
笠井 創(かさい・はじむ)
自由が丘耳鼻咽喉科笠井クリニック院長。千葉大学医学部卒業後、同大学耳鼻咽喉科学教室に入局し、大学病院での麻酔科研修や千葉労災病院耳鼻咽喉科研修、国保君津中央病院耳鼻咽喉科医長、国立がん研究センター(現・国立がんセンター)中央病院頭頸部外科医員、横須賀共済病院耳鼻咽喉科医長などを経て、1990年に耳鼻咽喉科気管食道科笠井クリニックを開設。1999年より笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室(現・自由が丘耳鼻咽喉科笠井クリニック)を開院し、アレルギー性鼻炎やいびき・睡眠時無呼吸症候群、扁桃膿栓症などに対するレーザー治療やラジオ波手術など日帰り手術を積極的に行う耳・鼻・のどの専門医。「できるだけ短期間に、できるだけ痛みを少なく」をモットーに、外来手術とわかりやすい情報提供に注力する。
自由が丘耳鼻咽喉科 笠井クリニック公HP
構成:研友企画出版
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。