認知症の親や家族が、同じ話を繰り返したりお風呂に入るのを嫌がったりすると「どう声をかければいいのだろう」と悩むケアラーは多いのではないでしょうか。
認知症の方の心の内と、日常で役立つ声かけのポイント、具体例を介護福祉士がわかりやすく解説します。
認知症の症状には個人差がありますが、進行とともに物忘れが増えたり、新しいことを覚えにくくなったりしていきます。
これまで当たり前にできていたことができなくなり、今日の日付や家族の顔がわからなくなるといった症状が表れることも少なくありません。
ご本人は、これらの変化に強い不安や恐怖を感じています。「忘れたくない」「間違えたくない」という思いから、同じことを何度も確認したり、周囲の言葉に敏感に反応したりすることもあります。
認知症によって性格が悲観的になる、あるいは攻撃的になることもありますが、その背景には不安や混乱といった心の状態が影響している場合が多いのです。
まずは、こうした認知症の方の心情を理解することが、適切な声かけにつながります。
認知症の方への声かけに、決まった正解はありません。
家族だからこそ「きちんと伝えなければ」「分かってもらわなければ」と思いがちですが、まず大切なのは安心してもらうことです。
これから紹介するポイントをすべて完璧に守る必要はありません。できそうなものを一つ意識するだけでも、関わり方が楽になり、認知症の方の反応が変わることがあります。
1.まず名前を呼んで、聞く態勢を整えてもらう
認知症の方は、いきなり話しかけられるとうまく聞き取れないことがあります。
まず「お父さん」「○○さん」など普段の呼び名や名前を言って、本人が「何?」と返事するのを待ってから話すと、内容を理解しやすくなります。
2.「これ」「あれ」などをなるべく使わず、具体的な言葉で話す
「ご飯が終わったら、あそこに行くよ」「それ、取ってくれない?」などの「こそあど言葉」は、認知症の方には何を指しているかが理解しにくいです。
「ご飯が終わったらトイレに行こう」「机にある新聞を取ってくれない?」と具体的に話すことで、お互いにストレスなく意思疎通ができるでしょう。
過去の記憶と結びついた言葉では、「トイレ」より「便所」のほうが伝わりやすい場合もあるので、本人になじみのある言葉を使うことも大切です。
3.本人の会話のペースを尊重する
認知症の方は、物事を判断するのに時間がかかるようになり、こちらの声かけに対してすぐ返事が返ってこないことも少なくありません。
その際、「ちゃんと聞いてた?」と返答を急かすと、プレッシャーになってよけいに言葉に詰まってしまう恐れもあります。
本人のペースを尊重し、じっくり返事を待つことで、本人も落ち着いて話せるようになります。
4.大きすぎない声で、ゆっくり話す
大きすぎる声は、シニアにとってかえって聞き取りにくいだけでなく「この人怒っているのかな?」と恐怖感を抱く可能性が高くなる傾向があります。
お互いの目線を合わせ、ほどよいボリュームの声でゆっくり話すと聞き取りやすくなります。
5.行動を促す時は「~してください」ではなく「~しましょうか」と声かけする
「着替えてください」「トイレに行ってください」などの指示する形での声かけを多用すると、シニアは威圧感を抱いてしまうでしょう。
「汗をかいたようだから、着替えましょうか?」「夜寝る前に、トイレに行っておこうか?」などと、促す形に変えるだけで、柔らかい印象に変わります。
具体的な声かけ例を、シーン別に8つご紹介します。
①「今日の晩ご飯は何?」と何回も聞いてくる時
NG例「もう、さっきも言ったでしょ!」
OK例「クリームシチューですよ」
繰り返し聞かれても本人を否定せず、事実のみを優しい口調で伝えましょう。
②もう食べ終わったのに「ご飯はまだ?」と聞いてきた時
NG例「さっき食べたでしょ! もう忘れたの?」
OK例「今日のお昼ご飯、美味しかったね。もう少ししたらおやつの時間だから、待っててね」
本人を否定せず、さり気なくご飯を食べたことを伝えます。
15時のおやつや夜食を出す予定があれば、そのことも伝えてあげると本人の安心につながります。
③「お風呂に入りたくない」と言われた時
NG例「お風呂に入らないと、汚いよ」
OK例「お風呂に入って、すっきりしましょう」
本人の尊厳を傷つける返答は控えましょう。
「すっきりするよ」「サッパリして気持ちいいよ」などの前向きな声かけを意識すると、本人も要望に応えやすくなります。
④シニアの下着が汚れてしまった時
NG例「もう! 汚いわね」
OK例「一緒にトイレへ行きましょうか」
排せつの失敗は、特にデリケートな問題です。本人の尊厳を守りながら、さりげなくトイレやお風呂場に誘導しましょう。
⑤「あそこに子どもがいる」といった幻視・幻聴(実際にはないものが見えたり聞こえたりする)を訴える時
NG例「何言ってるの? 誰もいないよ」
OK例「そうなんだ、遊びに来たのかな」
本人にとっては「本当に見えている」ため、頭ごなしに否定するとショックを受けたり怒らせてしまったりする場合があります。
基本的には、寄り添う声かけが望ましいです。
⑥実の子どもである自分に「あなたは誰?」と言われた時
NG例「ひどい! 私のこと忘れたの?」
OK例「はじめまして、○○だよ」
認知症の方には、「関係の近い人から忘れていく」という特性があると言われています。これは、記憶は新しいものから失われるため、「現在の家族の姿」や「直近のやりとり」が記憶に残りにくくなるためです。
否定するとかえって混乱させてしまいます。そのため、本人の言葉をいったん受け入れて会話を続けると、後から思い出してくれることもあります。
⑦退職しているのに「仕事に行く」と出かけようとする時
NG例「もう仕事は辞めたでしょ」
OK例「そうなの。お仕事の前に、ご飯食べて行きませんか?」
頭ごなしに否定すると、本人も意地になってしまい、収拾がつかなくなりがちです。
一旦本人の世界観を受け入れてから、別の行動を促すとスムーズに誘導しやすくなります。
⑧「私の財布、盗んだでしょ」と言われた時
NG例「そんなわけないじゃない!」
OK例「それは困ったね。一緒に探してみよう」
感情的に否定すると、不安や怒りを増幅させてしまいます。
本人の不安に寄り添いながら一緒に探すことで、不安が和らいでいきます。
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)