自宅で療養する方を支えるサービスの一つに「訪問看護」があります。しかし、「訪問看護って、実際にどんなことをしてくれるの?」と、具体的なサービス内容をイメージしづらいと感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は、広島県広島市にある「訪問看護リハビリステーションひなた吉島」を訪問し、管理者で看護師の石﨑さんと、実際に利用されているAさんご夫妻にお話を伺いました。訪問看護の現場の様子を、ご利用者の声とあわせてお届けします。
※訪問看護の基本的なサービス内容や対象者、費用について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
【著者】中谷ミホ
「訪問看護リハビリステーションひなた吉島」(以下、ひなた吉島)は、株式会社ひなたが2020年7月に開設した訪問看護事業所です。
ひなた吉島では、看護師に加えて、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士の3つのリハビリ専門職が在籍し、ご利用者のご自宅に訪問しています。
ご利用者は高齢の方が中心で、がんやパーキンソン病、認知症などさまざまな疾患を抱えています。介護保険・医療保険のどちらにも対応しているため、年齢や疾患に応じて適切な形で利用できるのも強みです。
「私たちが目指しているのは、心に寄り添う看護とリハビリです。ご利用者様の人生観や生活歴、個性をしっかり把握したうえで、その方に合ったケアを提供したいと考えています」と石﨑さんは話します。
訪問看護というと「看護師が来て医療的な処置をする」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実際には、医療的ケアだけでなく、日々の清潔ケアやリハビリテーションなど、サービス内容は多岐にわたります。どのようなサポートが受けられるのか、各専門職の具体的な役割とサービス内容について石﨑さんに教えていただきました。
◾️看護師:医療的ケアと清潔ケア
看護師が担うのは、点滴や服薬管理、傷の処置、褥瘡(じょくそう)予防といった医療的ケアです。加えて、入浴介助やベッド上での洗髪、清拭(せいしき)、陰部洗浄、爪切りといった清潔ケアも必要に応じて行います。医療的なケアだけでなく身体を清潔に保つサポートも受けられるため、ご本人の快適さの向上と、ご家族様の介護負担の軽減の両方につながります。
◾️作業療法士・理学療法士:身体機能のリハビリ
作業療法士と理学療法士は、身体機能の維持・回復を目指したリハビリテーションを担います。
「うちにご依頼があるのは、『歩けるようになりたい』『家の中で転ぶことが多いのでリハビリを受けたい』という方が多いです」と石﨑さん。実際に暮らしている自宅で、移動や段差の昇り降りなど、日常生活に直結した動作をマンツーマンで練習できるのが大きな強みです。
◾️言語聴覚士:嚥下・言語のリハビリ
言語聴覚士は、飲み込み(嚥下)や言語のリハビリを担当します。
「脳梗塞などで言語に障害が残った方には、発声や発語の訓練を行っています。言葉を発することが難しい方には、カードを使って意思疎通を図るお手伝いもしています」と石﨑さん。介護を担うご家族も一緒に正しい介助方法や生活上の注意点を学べるため、日々の食事やコミュニケーションに対する不安の軽減にもつながります。
このように、訪問看護では、看護師やリハビリの専門職が、ご利用者の状態に応じて専門的なケアを提供しています。
訪問看護は、看護師やリハビリの専門職だけで完結するものではありません。主治医やケアマネジャーとの連携があってこそ、ご利用者の在宅生活をしっかり支えることができます。ひなた吉島では、普段どのように情報共有を行っているのでしょうか。
「私たちは毎週ご自宅に伺うので、ご利用者様の普段の生活の様子を詳しく把握できます。例えば『処方されたお薬が実は飲めていない』といったことも、訪問して初めて分かる場合があります。そうしたときは『この薬を飲むとしんどくなる』といった、飲めない理由を確認したうえで、ご本人の同意を得て主治医にお伝えし、解決につなげています」
また、訪問時には「転倒していた」「体に傷ができている」「表情がいつもと違う」といった小さな変化に気づくこともあり、速やかにケアマネジャーや主治医に共有します。
状況によっては訪問先から直接主治医へ電話で相談したり、ケアマネジャーとともに病院へ出向いたりすることもあるそうです。
「次の受診日を待たずに対応できるので、ご利用者様やご家族様の安心につながっていると感じます」と石﨑さんは話します。
こうした日々の情報共有と連携が、ご利用者の在宅生活を支えているのです。
「夜間や休日に急に体調が悪くなったときも、訪問看護で対応してもらえるのだろうか」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
そうした不安に応えるのが「緊急時訪問看護加算」です。これは、訪問看護事業所が夜間や休日を含めた24時間の連絡・訪問体制を整えている場合に算定される加算です。利用にはご本人やご家族の同意が必要で、訪問看護の基本料金とは別に月額の加算料金がかかります。
ひなた吉島でも、この加算を契約している方に対し、夜間・休日の電話相談や、必要に応じた緊急訪問を行っています。
「看護師が当番制で携帯電話を持ち、いつでも連絡を受けられる体制をとっています。夜間や休日に体調の不安があるとき、専門職に電話で相談できるだけでも心強いと感じる方は多いです」と石﨑さんは話します。
さらに、「ご家族様が遠方にお住まいの場合や、体調面に不安のある方は、この加算をつけておくと安心できると思います」と続けます。
ただし、すべての訪問看護事業所がこの加算に対応しているわけではありません。利用を検討する際は、担当のケアマネジャーに、24時間対応が可能かどうか確認しておくとよいでしょう。
実際のサービスの様子を伺うため、ひなた吉島を利用されているAさん(80代・男性)のご自宅に同行させていただきました。
Aさんが訪問看護を利用するきっかけとなったのは、入院と手術です。退院後は自宅での生活に苦労され、当時は床を這って室内を移動されていました。あるときAさんが室内で転倒し、抱え起こそうとした奥様が腰を痛めてしまったことから、訪問看護の利用を決められたそうです。
介護サービスを検討する際、担当のケアマネジャーからは施設に通う「通所リハビリ」も提案されました。しかし、ご本人の「家でリハビリを受けたい」という強い希望で訪問看護を選択。「他人を家に招くことへの抵抗感はまったくなく、むしろリハビリの先生が自宅に来てくれることが嬉しかった」とAさんは振り返ります。
担当となった作業療法士の植田さんは、リハビリに先立ち、まずは生活環境のアドバイスを行いました。床にマットを敷いて寝ていた状態から介護用ベッドに変更し、室内の移動に歩行器を導入。さらにトイレや玄関に手すりを設置し、安全に動ける動線を作りました。奥様も「環境を整えてもらえたことが、本当に助かりました」と話します。
現在、Aさんは週2回(1回40分)のリハビリを続け、杖や手すりを使いながら家の中を歩けるまでに回復されました。週末には介護タクシーを利用して囲碁の会へ出かけられるなど、退院直後には想像もできなかった日常が少しずつ戻ってきています。
「先生が来てくださる日は本人もシャンとして、生活に張り合いが出ますね」と奥様は笑顔で話します。訪問のない日も、植田さんに教わった体操をご夫婦で一緒に行っているそうです。
「いつも親切丁寧に接してくださる最高の先生です」とAさん。「家族の相談にものってくれる優しい先生です。本当に助かっています」と奥様もうなずきます。
Aさんご夫妻にとって、訪問看護でのリハビリは身体機能の回復だけでなく、暮らしの安心や楽しみを取り戻すきっかけとなっています。
ひなた吉島では、ご利用者様へのケアだけでなく、介護を担うご家族(ケアラー)への支援も大切にしています。
「ご家族様から、『最近ちょっと食欲が落ちているみたいで心配なんです』といったお電話をいただくこともあります。こうしたとき、気軽に相談できる相手がいることは安心につながると思います」と石﨑さん。
在宅介護は、ご家族にとっても不安や迷いの連続です。ひなた吉島では、介護方法に関するアドバイスや在宅療養にまつわる相談にも対応しており、ケアラーが一人で悩みを抱え込まずに済むよう、日頃からサポートを行っています。
最後に石﨑さんから、これから訪問看護の利用を検討しているご本人やご家族様へメッセージをいただきました。
「お困りのことがあれば、まずはご相談いただければと思います。サービスを開始する前に一度訪問させていただき、『思っていたサービスと違うな』と感じられた場合は、ご契約前にお断りいただくこともできます。ご家族様だけで抱え込まずに、気軽にご連絡いただきたいです」
なお、相談から訪問開始までの期間は、早ければ翌週、状況によっては数日後に始まることもあるそうです。「主治医から訪問看護の指示書をいただければ、すぐに動くことができます。体調に関わることなので、できるだけ早く対応するようにしています」と石﨑さんは話します。
【訪問看護を検討するときの相談先】
・すでに要介護認定を受けている方 → 担当のケアマネジャー
・まだ要介護認定を受けていない方 → お住まいの地域の地域包括支援センター
・通院中の方 → 主治医
・訪問看護事業所に直接相談することも可能
どこに相談すればよいか迷ったときは、お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターに問い合わせると、適切な相談先を案内してもらえます。
取材を終えて
今回の取材で印象的だったのは、訪問看護がご利用者本人だけでなく、介護を担うご家族にとっても心強い存在であるということでした。
退院後の暮らしやご家族の介護に不安を感じる方は、一人で抱え込まずに、身近な窓口へ相談してみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
訪問看護リハビリステーションひなた吉島(株式会社ひなた)
所在地:広島県広島市中区光南2-3-45
ホームページ:https://www.hinata-gr.co.jp/nursing/
写真:中谷ミホ
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級