岡崎家の「ケア活」問題、「財産整理」に続き、「墓じまい」2回目のお話です。親子ゲンカをしながらも墓じまい問題に向き合い始めた矢先、母親は突然、天国に旅立ってしまいました。一方で、母親は亡くなる2日前に菩提寺に墓じまいの相談という、大仕事をしてくれていたのです。
墓じまいというと、何かとお金が掛かったり、お寺や親戚などとトラブルになったという話を聞いたこともあったため、私がお嫁に行って墓守がいなくなった時点で、お墓問題は両親が存命のうちになんとかしたいと考えていました。「もしかしたら、妙案があるかも!」とわずかな期待を持って認知症の父親に相談しても、「お前たちに任せる~」と埒が明かず、母親は「死んだあとのことなんて、私は知らない。あんたが勝手にすればいいでしょ」と投げやりでした。そんな母親の話を聞いた近所のおばちゃんが「親の最後の仕事としてきちんとしてあげなさいよ」と助言してくれたことで、母親はどうやら動き出していたようなのです。それを知ったのは、皮肉にも私が菩提寺に母親の葬儀の相談の電話をした時のことでした。
私が話し出す前にご住職は「はいはい、墓じまいのことですよね?」と切り出し、「2日前に、お母様からもお電話がありましたよ」と言うのです。思ってもいないご住職からの返答に驚きながらも、そうではなく、母親が急逝したため葬儀の相談をしたいということを伝えると、ご住職は私以上に驚いた声で「そんな! だって、2日前にお元気な声でお話ししたばかりですよ」と言葉を失っていました。
お互いに驚きの沈黙が続いた後、私からは菩提寺が遠方になるため、わざわざお出でいただくのは悪いと思い、我が家の近くの同じ宗派のお寺を紹介してもらいたいとご住職に打診しました。するとご住職は「お母様から託された思いもありますし、2日前の声が忘れられませんので、私が参ります」と、車で何時間も掛けてこちらに出向いてくださったのです。そんな不思議な流れで、菩提寺のご住職によって母親の葬儀が執り行われたわけですが、最後の最期まで、なぜか人を惹きつける魅力があった母親らしいエピソードを残してくれていました。
イラスト(下):日野あかね
菩提寺は、墓守が減っていく現代に対応するために少し前に永代供養塔を建てました。母親はそこに岡崎家のお墓に眠るご先祖様や夫(父親)や自分(母親)を入れて欲しい、という相談をしたそうです。以前、一緒にお墓参りに行った際に母親と親戚が「私たちも永代供養塔に入れてもらおうかしら」と話をしているのを聞いたことがありましたが、母親から半強制的(!?)に、私とご住職が、直接顔を合わせてお話しする機会が作られ、「ご住職に私の思いは伝えておいたから、あとは頼んだよ!」と、“墓じまいのバトン”(どんなバドンだよ!)を託されたような気がしました。
一方で、一部の親戚は理解を示してくれていた墓じまいですが、母親の訃報を知った親戚の中には「あなたはお嫁に行ったけど、お母さんが入る先祖代々のお墓はどうするの?」と聞いてくる人もいました。そういった親戚には「母親が亡くなる2日前に……」とご住職に電話で相談していたことを伝え、「私は母親の思いを受け継ぎます」と断言すると、それ以上、何かを言う人はいませんでした。
もし、母親が生前にご住職に相談していなかったら……。私の意見だけではスムーズに墓じまいができなかったかもしれません。ある意味、ギリギリで間に合った!? いや、亡くなった後もインパクトのあるエピソード付きで語り継がれることになった「墓じまいのケア活」に、動き出してくれていたことには、ただただ感謝しかありません。母親も「まさか、電話でご住職にした相談が……」と、きっと天国で苦笑していることでしょう。
【専門家(株式会社OAGウェルビーR 代表取締役 CEO 黒澤史津乃さん )が解説!】
※以下、グレー部分
少子化が進展し、筆者のようにお嫁に行った娘が、遠方にある親の地元の墓じまいをしなければならないケースが増えています。
そんな時にもう一つ問題になるのは、仏壇のゆくえです。
夫が長男で、妻がひとりっ子という夫婦の場合、両方の両親が亡くなった時には、あまり広くもないマンションに2つの仏壇を置かなければならなくなるということも、容易に想像がつくと思います。しかも、日蓮宗と浄土真宗というように宗派も別の仏壇になる可能性も……。
これまで、自宅にお仏壇が2つあるのは、良くないと言われてきました。「家の中で、ご先祖様がくつろげないから」、また、そもそもお仏壇は「自宅に置く『小さなお寺』」として普及してきたので、複数のお仏壇を置くことで信仰の方向性がバラバラになってしまうと考えられ、嫌がられたともいわれています。
しかし現実を見れば、これだけ少子化が進展しているのですから、お墓と同様、行き場のない仏壇が増えていくであろうことは明白です。
最近では、家の中に仏壇が2つあっても、「同じ部屋に置かなければいい」とか、それぞれの家が納得すれば「仏壇を一つにまとめて良い」とか、お寺の方でも妥協案を認めるようになってきているようです。ただし、仏壇を処分しなければならない場合には、「魂抜き」「閉眼供養」「お焚き上げ」などの方法を取ることが多いでしょう。
いずれにしても、位牌や仏壇についても、〇〇家の祭祀財産として代々承継していくという考え方には、もはや限界があるようです。お墓のことはもちろん、位牌や仏壇の行方についても、今のうちからじっくり考えてみてはいかがでしょうか。
以下は、お寺や霊園などによって事情が異なるため、あくまで我が家の例としての話になることを、ご了承ください。
ご住職と墓じまいについて話し合うと、菩提寺の希望として「信心深かったお母様を1年間は先祖代々のお墓に入れてあげてほしい」と言われました。「なぜ、1年?」と思いましたが、これまで非常にお世話になっている菩提寺の希望を受け入れ、母親の一周忌に永代供養塔にご先祖と母親のお骨を移動させて、墓じまいをするという流れになりました。
母親の思いを引き継ぐ決意をしても、気になってしまうのがそのために掛かる費用です。ご住職によると、菩提寺では五十回忌を迎えた人の永代供養代は不要で、五十回忌を迎えていない人は1体60万円の永代供養代が必要になるということでした。そして、お墓はお寺から土地を借りているようなものであるため、墓じまい後はすべての墓石などを取り除き、墓地を更地にしてお寺に返さなければなりません(より詳しいことは「ケア活 墓じまい編①」の黒澤さんの解説参照)。その作業のための費用を石材店に支払う必要があります。さらに、お墓とともに実家にある仏壇も閉める「魂抜き」(上記の黒澤さんの解説参照)ための費用、そして永代供養塔の納骨碑に故人名前や施主(父の名前)の名前を入れるプレート代も必要だとか。そんな墓じまいに関する費用についての説明をご住職から聞いている中で、私は母親が亡くなってからずっと気になっていたことを思い出しました。
母親は実家の固定電話の横にメモ帳を置いていたのですが、そこに「1体60万円」という謎のメモが残されていました。母親の生前最後のメモの内容があまりに謎過ぎて、「これは、とても重要なメッセージなのでは?」と夫とその謎を解こうと考えていましたが、謎は深まるばかり。しかしそれは、墓じまいの永代供養に掛かる1体あたりの金額だったのです。「謎が解けて、スッキリ!」すると同時に、決して安くはないその金額に「五十回忌未満の人が、あのお墓に何人眠っているの?」と現実に引き戻されたのです。
墓じまいに掛かる費用について、深掘りしてみましょう。
大きく分けて、①古い墓から遺骨を取り出すための費用、②新しい永代供養の墓地や納骨堂に納めるための費用、③その他の手続き等費用、という三種類の費用を、現在のお墓の状況とこれから改葬する先の状況に合わせて試算する必要があります。
【古い墓から遺骨を取り出すための費用】
墓石を開けるなどの作業をしてくれる石材店への費用:数万~5万円程度、不要になった墓石の撤去・処分費用:20~50万円程度(お寺や墓地から紹介された石材店に依頼しなければならないことが多い)、お寺に支払う閉眼供養料:数万円~10万円程度
【新しい永代供養の墓地や納骨堂に納めるための費用】
永代供養料:1体当たり10万円~100万円(合祀墓、集合墓、個別墓等の種類によってまちまち)、合祀墓の場合は粉骨・乾燥費用:1体当たり数万円、納骨作業費用:数万円~10万円、納骨碑などに名前を刻む彫刻料:1体当たり数万円
【その他の手続き費用】
同じ寺院内や墓苑内での改葬ではなく別の場所への改葬の場合は、改葬許可申請が必要となるほか、菩提寺からの離檀料を請求されるケースもあります。
最近では、後継ぎがいなくてもひとまずは1周忌、3回忌などの期限付きで従来の墓地に納骨させてもらい、その間の供養料を前払いしておく契約を導入している寺や霊園も増えています。期限が過ぎると、寺などの墓地管理者が墓石を撤去し、埋葬されている遺骨を敷地内の合祀墓に移すので、そのために掛かる上記の費用もすべて前払いしておきます。
期限付きとはいえ、いったんは家族だけの墓に入れる、また、自分が生きている間に墓を畳まなくて済むというメリットがあります。
写真:写真AC
監修、アドバイス:黒澤史津乃
【監修者プロフィール】
黒澤史津乃(くろさわ・しずの)…株式会社OAGウェルビーR 代表取締役 CEO
20年以上にわたり、家族に頼らずに老後とその先を迎える「おひとりさま」の支援に携わっている。2007年行政書士登録。2019年消費生活アドバイザー及び消費生活相談員(国家資格)登録。
一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会代表理事として業界のけん引役をつとめる他、一般社団法人横浜イノベーション推進機構代表理事として、横浜市内の多様で複雑化した広範囲の地域課題解決にも取り組む。
内閣官房「認知症と向き合う幸齢社会実現会議」構成員、厚生労働省「身寄りのない高齢者等の生活上の課題実態把握事業」有識者委員。社会福祉法人浴風会特別研究員として厚労科研「独居認知症高齢者の権利利益の保護を推進するための調査研究」(25GB0101)における分担研究を担当。
この著者の前の記事
・こんなことも「ケア活」なんです! 墓じまい編①
・こんなことも「ケア活」なのです!? 財産整理編①
・こんなことも「ケア活」なんです!? 財産整理編②
・こんなことも「ケア活」なんです! 財産整理編③
著者:岡崎 杏里
大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/