母と娘の関係性とその介護について考える連載。家族だけで母親の介護を乗り越えようとした結果、家族関係がギスギスしてしまい……。腹を括って取得した介護休職によって、「家族が健やかでいられる環境」が戻ってきたのです。

1. 母親が認知症だと信じたくない

「認知症の母親について『家族だけでどうにかしよう!』と、最初はそう考えていました」と語る、すみれさん〈仮名〉(40代・会社員)。でも、それは非常に難しいことで、家族関係までもが悪化してしまう道のりの始まりだったと、今では後悔しています。

 

父親は約20年前に若くして亡くなり、その後は母親、すみれさん、妹、弟の4人で支え合って生きていました。その後、一時は母親と弟が実家で暮らし、すみれさんは家を出て近くで独り暮らし、妹は結婚を機に家を出て独立しました。

 

2年ほど前から、ものとられ妄想などの認知症の症状が母親に見られるようになりました。心配になったすみれさんが毎日母親に電話をするようになると、同じ話を繰り返すなど「あれ?」と思うことが増えていきました。この頃、弟は実家を出ていましたが、母親は独り暮らしが出来ていましたし、すみれさん自身、そもそも医療系の仕事を定年まで勤め上げたしっかり者の母親が認知症だと信じたくない、という気持ちが強く、適切な対応が後回しになっていたのです。

 

実は認知症の母親に適切な対応をする機会がなかったわけではありません。昨年の夏、低血糖で倒れた母親が救急搬送されました。その際に医師から「お母さんは娘さんの名前がわからないようです」と言われ、認知症かもしれないということを医師に伝え、医師からは認知症の検査をした方がいいと言われたような記憶がありましたが、とにかく母親が救急搬送されたが無事だったこと、しかし、また倒れるのではないかという今後への不安で気が動転してしまい、そのあたりの記憶が曖昧なまま時が過ぎてしまいました。

 

ところが昨年末、母親に会った際、会話が成り立たず、弟以外の家族の名前が出てこないのです。さすがに「これはマズい!」と思い、かかりつけ医に簡易的な認知症検査をしてもらうことに。同時に以前、母親のことが不安になったときに介護経験者から受けたアドバイスなどから母親の住む地域の地域包括支援センターの存在を知っていたため、そこへ相談に行きました。それから母親の介護保険の申請をして、地域包括支援センターのケアマネジャーから紹介されたデイサービスに通うことになったのです。

 

2. 母親の介護で妹との仲がギスギスして……

母親がデイサービスに通う前までは「家族だけでなんとかしよう!」と、お互いに実家の近くに住んでいる妹と役割分担を決めて母親の世話を担うことにしました。病院での手続きや通院などをすみれさんが行い、妹は母親を家に呼んで夕飯を食べさせるなどのお世話をする、身内デイサービスのようなかたちでサポートをしていました。

 

数ヶ月後、対面での直接的な介護を一人で担っていた妹が心身ともに疲れ果て、白旗を上げると同時に、姉と妹の関係がギスギスするようになってしまいました。「このままでは、家族関係が取り返しのつかないことになる!」と強い危機感を持ったすみれさんは、働きながらでは難しい母親の介護を家族だけで抱えずにプロにも助けてもらうために「母親が入る施設を探す」という決断をします。

 

3. 1ヶ月の介護休職を取得

すみれさんが勤めている会社は介護や育児に理解があり、会社独自の休暇や休職制度があります(介護休暇は7日/年〈※本年度からは10日/年に〉、介護休職は最長で1年)。すみれさんは母親の施設入所に備えて、まず7日間の介護休暇を取得しました。ですが7日間の介護休暇だけでは、時間が足りませんでした。そこで、ギスギスしてしまった妹との関係の修復と、自分も含めてみんながまた笑顔になれるように「家族が健やかでいられる環境を作る!」と、1ヶ月の介護休職を会社に申請したのです。

 

1ヶ月の介護休職中は、毎日実家に通い、母親のお世話をしました。デイサービスのない日は朝から晩まで母親のお世話をして、デイサービスのある日は行き渋りをする母親をなんとか送り出し、家に帰ってくるまでの間に施設に関する情報を収集しました。しかし、母親の認定は要介護1だったため、要介護3以上が主な対象者となる特別養護老人ホームという選択肢はなく、施設探しは難航します。

 

1ヶ月しか時間のないすみれさんは、何とかしなければと焦り、街の有料老人ホームなどを紹介してくれる相談所へ足を運びました。そこで3箇所のグループホームを紹介してもらい、見学しました。その中の1つで、実家の近所にあるグループホームが母親に合いそうな雰囲気だったため入所を希望すると、運よく空きがあり入所することができたのです。

 

さらに、この1ヶ月の間にかかりつけ医から紹介された総合病院で認知症の検査をしてもらっ          たところ、母親は「意味性認知症」だということがわかりました。

 

1ヶ月間、毎日母親と生活する中で、改めて認知症介護の大変さを痛感したという、すみれさん。母親が認知症だとわかっていてもイライラしてしまう自分を嫌悪したり、うれしいことがあっても心に余裕がなく、母親と一緒に笑えなかったといいます。春になり花々が咲く中を母親と散歩をして、春の花にちなんだ自分の名前を母親に聞いても、娘の名前を忘れてしまっていることに複雑な感情になったそうです。それでも、腹を括って母親と過ごした1ヶ月は、これまで育ててもらったことへの恩返しだとして、母親にたくさん話しかけたそうです。大人になってから母親と一番話ができた、いい意味で母と娘の距離感がすごく近かった時間だったと振り返ります。

 

4. 自分にとって必要な時間だった1ヶ月の介護休職

育ててくれた親を施設に入れることに後ろめたさを感じる人もいるかもしれません。すみれさんはその気持ちもわかるとしたうえで、自分の介護できょうだい仲がギスギスとしたり、うれしいことが素直に喜べなくなってしまった子どもたちの生活を、母親は望んでいないだろうと、自分たち家族の状況を客観的な視点で話します。ただ、休職期間には1ヶ月という時間制限があったため、正直なところ、母親への後ろめたさよりも、家族が健やかでいられる環境を作ることに必死だったそうです。

また、母親の施設入所のタイミングが早いと思う人もいるかもしれませんが、その判断は人それぞれ。すみれさんの家族にとっては、誰かが倒れてしまう前のあのタイミングがベストでした。そして、母親のためだけに費やした1ヶ月はすみれさんにとって必要な時間であり、介護休職をして本当に良かったと思っているそうです。

社会はまだまだ、親の介護などに無理解なところが多く、すみれさんのように親の介護のために1ヶ月の休みを取りづらい状況にいる人の方が多いかもしれません。そんな中、「あなたが介護休職を取得したことで、今後、みんなも介護休暇や休職が取りやすくなる」といってくれるように理解があり、介護経験のある同僚がいて積極的に相談に乗ってもらえる環境だったことが非常に恵まれていたとすみれさんは語ります。一方で、超高齢社会となった日本において、すみれさんの会社の対応が当たり前の世の中になるべきなのではないでしょうか。

 

母親がグループホームに入所した当初、母親のことが心配で、すみれさんは毎日様子を見に行っていました。入所から1ヶ月が過ぎ、施設での生活に慣れ始めた母親はたびたび笑顔を見せるようになり、「今日は会いに行かなくてもいいかな」と自分の時間を大切にする心の余裕が生まれたそうです。妹とも、母親に何かをしたら「ありがとう」と、言い合える関係に戻ることができました。

 

母親に認知症の疑いを抱いてから、たった2年ですみれさんと母親を取り巻く状況は大きく変化しました。その中で意を決して取得した1ヶ月の介護休職と、家族だけで介護をすることに限界を感じたすみれさんの決断が、認知症の母親も含め、「家族が健やかでいられる環境」で再び笑顔でいられる日々に繋がったのです。

 

 

この著者のこれまでの記事
娘としての「第一章」が終わった日。12年間の介護物語が教えてくれたこと|娘はつらいよ!?㉖
ケアする人とされる人……「母娘」でいられない苦しさ|娘はつらいよ!?㉕
母親世代に聞く理想の介護と娘への思い|娘はつらいよ!?㉔
母は心の支え、それでも揺れる娘の決断|娘はつらいよ!?㉓



この記事の提供元
Author Image

著者:岡崎 杏里

大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/

この著者のこれまでの記事

見積りは約80万円! 遺品整理の適正価格|こんなことも「ケア活」なんです!? 実家の片付け編③

2026年4月25日

娘としての「第一章」が終わった日。12年間の介護物語が教えてくれたこと|娘はつらいよ!?㉖

2026年5月15日

70ℓ袋が30袋! 母の心を知る遺品整理|こんなことも「ケア活」なんです⁉ 実家の片付け編②

2026年4月25日

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする