子どもが自立し離れるタイミングで、ペットとの暮らしを考えるシニア世代は多くいるようです。癒しややすらぎ、生きがいさえ与えてくれるペットの存在は、孤立しがちなシニア世代にとって重要な存在だといえるでしょう。
しかし、シニアやケアラー自身も高齢化していく中でペットを飼育し続けられるのか不安でためらっている方も少なくありません。今回はシニア世代やそれを支えるケアラーに対して、ペットという存在がもたらすメリットやデメリットをお伝えします。
日本中地域を問わず、犬の散歩を日課にしている方や自身の愛猫家ぶりをSNSなどに投稿する方は多く、その中でもシニアの方の割合が少なくないということは異論のないところだと思われます。実際に、住宅事情や世帯構成の変化などからか、働く世代や若年層のペットの飼育意向は減少傾向であるにもかかわらず、シニア世代ではその傾向は強くないようです。
50~90代までのシニア女性を対象としたアンケートでは、9.3%の人が犬を、8.9%の人が猫を、計17.4%の方がペットを飼っているという現状がわかりました(※1)。
医療の進歩により人生100年時代ともいわれる昨今、老後に新たな暮らしにおけるパートナーを求めてペットとの生活を検討する方は多いようです。
写真下:ピクスタ
ペットとの生活は高齢者にとってさまざまなよい影響を与えると期待されています。
●情緒の安定・孤独感の軽減
ペットと生活している高齢者は、そうでない方に比べて情緒が安定すると感じる方が多いようです。生き物のぬくもりに触れるだけでも安心感があり、名前を呼んだり撫でたりすると反応してくれる存在がいることで、高齢者の孤独感が和らぎます。
●癒しや生きがいになる
1人暮らしや夫婦2人だけの高齢者では、生きがいを失いメリハリのない生活に陥ってしまう方も少なくありません。ペットという「愛らしい存在」がいることで、それを守ろうとすることが生きがいとなり暮らしに活気が戻ることがあります。また甘えてくる可愛らしい仕草は、毎日の癒しにもなるでしょう。
写真上:著作者:freepik
●生活リズムの改善につながる
高齢者の中には1日のほとんどを布団の中で過ごして昼夜逆転のような生活をしたり、毎日違う生活リズムで体調を崩したりする方がいます。ペットがいると朝起きて食事を与えたり、散歩に連れ出したりする必要が出くるため、自然と高齢者自身の生活リズムも整いやすくなります。生活リズムが整うと体調がよくなり、心の健康も保つことができます。
●運動を習慣づけるきっかけになる
老化が進むと体力が落ちたり、ひざや腰に痛みを抱えたりして体を動かすことがおっくうになります。それにより運動不足が続けば、ますます筋力が落ちて動けなくなってしまうでしょう。しかし、特に犬をペットに迎えると、日々の散歩が必要となるために外に出る機会が増え、掃除やえさやりなどのお世話をするため、自然と活動量も増えます。またペットと一緒に長く健康に暮らすという目標ができるため、自ら進んで運動するモチベーションにもつながります。
●周囲や子世代とのコミュニケーションを促進
ペットを飼うことで同じようにペットを飼っている人たちのコミュニティに加わることができます。犬を連れて散歩していれば、同じように散歩中の人と会話が弾むこともあるでしょう。また、近所の人が家の前で猫を見かけたことをきっかけに会話が始まることもあるかもしれません。
そして、ペットは子世代とのコミュニケーションを広げるきっかけにもなります。疎遠であったり、顔は合わせても言葉を交わすことが少なくなりがちだった親子関係も、媒介となるペットがいると自然と会話が弾み、いつの間にか親子関係が和やかになっていた、という例は少なくないのではないでしょうか。
暮らしを豊かにしてくれる要素の多いペットですが、一方で高齢者の負担となる場合もあります。
●掃除や散歩などが負担となる
ペットは生き物ですから、毎日お世話が必要です。食事の用意に始まり、飲み水の補充や抜け毛の掃除、排せつ物の処理などやることはたくさんあります。犬の場合はそれに加えて朝と夕方に散歩に連れ出さなくてはなりません。自分の身の回りのことだけでも大変な高齢者の中には、ペットのお世話が毎日のルーティンに加わることが負担に感じる方もいるかもしれません。
●金銭的な負担が増える
ペットはペットそのものだけでなく、ケージや首輪、そのほかお世話に必要な道具を買いそろえる必要があり、それなりに初期費用がかかります。加えてペットフードやトイレシートなどの消耗品を継続的に飼い続ける必要があるため、長期的にみても金銭的な負担が増えます。
●ペットの老化
飼育者の高齢化だけではなく、ペット自身も老化していきます。病気になったり体が不自由になったりして、特別なケアが必要になることもあるでしょう。動物病院に通うことになれば、高齢者にとっては身体的・金銭的負担が増えることになります。
また人間よりも早く年を取るペットはいずれお別れのときがきます。ペットロスにより気分が落ち込み、うつのような状態になってしまう方も少なくないようです。
飼い主の高齢化が進めば、老化により体が動かしづらくなったり、ケガや病気で突然寝たきりになったりするリスクが高まります。突然入院になったときに、家族など頼れる人がいなければ、取り残されたペットは路頭に迷ってしまいます。
急にペットのお世話ができなくなったとき、また、ペットが高齢化してケアが追いつかなくなったときのために、日ごろから備えておくことが大切です。子世代・孫世代とつながりのある方は、いざというときにお世話を代われるよう、ペットを飼うときに相談しておきましょう。
写真上:著作者:freepik
現在ではペットの後見互助会や動物保護のNPO法人などの民間のサービス、動物愛護センター、そして市役所などの行政機関でも、高齢者が飼えなくなったペットの受け入れについての相談を請け負っています。いざというときのために、サービスの有無や利用方法を事前に調べておくといいでしょう。
メリットとともにデメリットも少なくないペットですが、現代では生き物のペットのデメリットを払拭する「ペットロボット」という選択肢もあります。実際、前述したシニア女性へのアンケートでは、ペットを飼っていないシニア女性のうち、今後犬や猫を飼いたいと答えた人の割合は24.2%でしたが、ペットロボットを利用したいと答えた人の割合は31.2%と、低くない数字となっていました。
導入時に少々の投資やWiFiなどのネット環境、そして管理や不具合の修理のための知識などは必要となりますが、利用し始めてからの費用は抑えられ、想定外の事案が少なくある程度予測ができそうなこと、そして何より散歩やトリミングなどのケアが不要であることは、シニア世代の利用者にとって大きなメリットになるでしょう。
また、最近ではぬいぐるみに近いやわらかな手触りのものや愛らしい表情などを見せてくれるもの、そして簡単でも言葉を発することができるなど、よりエモーショナルな側面も備えたペットロボットも多く製造・販売されています。価格的にも以前よりは手の届く範囲で入手することができるものが多いようです。
「ロボット=機械、冷たい」という固定概念を覆すペットロボットの存在は、今後のペット市場において注目を集めるものになるのではないでしょうか。
ペットとの暮らしを前向きに考えているシニア世代は増えています。ペットの存在はシニア世代に癒しと生きがいを与えるだけでなく、運動量の増加や生活リズムの改善にもつながるなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、加齢や病気などで急にお世話ができなくなったときのための備えも必要です。ケアラーは高齢者がペットを迎えたいという気持ちを尊重しつつ、デメリットの部分も一緒に考えておきましょう。メリットとデメリットを把握したうえで、ペットとシニアの暮らしを検討してみることが重要になってくるのではないでしょうか。
※1 出典:「シニア女性のペット飼育に関する意識と実態調査」(ハルメク 生き方上手研究所調べ)
写真(トップ):著作者:freepik
関連記事
・パナソニックのNICOBO(ニコボ )で高齢者の暮らしに癒しと楽しみを
・認知症の方とのコミュニケーション方法とは? 意識するべきコツとやってはいけないこと
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。